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さくらの熱量チャレンジ 第32回

もらった巣箱で始めた養蜂にテクノロジーで挑んだらこうなった

ニホンミツバチの養蜂IoTにsakura.ioを活用してみた

2019年07月16日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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 ニホンミツバチの蜂蜜採取を最適化する養蜂IoTをDIYでやっているユニークな人がいるという話をさくらインターネットから聞きつけ、取材することにした。本業で培ったIoTの知識と経験を活かし、sakura.ioで田舎のお父さんを支える上大田孝さんとアスキー編集部 大谷イビサとの養蜂8割、IoT2割の談義をどうぞ。(以下、敬称略)

sakura.ioを用いて養蜂IoTにチャレンジする上大田 孝さん

近所の人から巣箱をもらって始めたニホンミツバチの養蜂

大谷:養蜂IoTということですが、上大田さんは養蜂業を営んでいる事業者なのですか?

上大田:いいえ。私は大手メーカーでエンジニアをやりつつ、神戸で中小企業診断士をやっています。現場や業務の改善ですね。

だから、養蜂自体は私ではなく、兵庫県の姫路近郊で畑をやっている私の父がやっています。しかも巣箱を譲り受けて始めたので、完全に趣味。今から4年前ですかね。畑の水を毎回トラックで運んでいた隣のおっちゃんに水道貸したったら、お返しに巣箱が来たから育ててみるかと。

大谷:なんだかわらしべ長者的な展開ですね(笑)。あたりは養蜂が盛んな場所なんですか?

上大田:いいえ。事業として養蜂を行なうときは、普通はセイヨウミツバチを使います。われわれが想像する阪神タイガースみたいな縞のあるのはセイヨウミツバチで、巣箱から取り出した巣の付いた木枠から蜜を遠心分離機みたいなやつで取得します。規模の大きい養蜂事業者が、計画的に養蜂します。

今回使ったニホンミツバチは、野生にいる日本の在来種。蜜は刺激がなく、サラサラしてるのに、味が濃いです。だから固定ファンがいます。

でも、ニホンミツバチは、たまたま捕まえて、たまたま蜂の巣を作ってくれて、たまたま蜜が採取できたという話なんです。ほぼほぼ運みたいものなので、まず市場には流通していません。売っているとしても、うちの父みたいに趣味で採取している人が「あまったから売るか」みたいなたぐいだと思います。

大谷:なるほど。農家が食べきれない野菜売るみたいな感じですね。じゃあ、巣箱もらって育ててみたら、思いのほかとれちゃったという話なのでしょうか?

上大田:そうなんです。巣箱1つもらって育ててみたら、「めっちゃとれるやん」となって、ビギナーズラックなのに欲が出ちゃったんですよね。調べてみたら、「めっちゃ希少価値高いやん」となって、翌年は10箱作ったら、全然とれんかったという話です(笑)。

大谷:イソップ童話のように含蓄のある話です。

上大田:でも、その課程でうまくいかない理由もわかってきました。

まずはハチが巣箱を見つけてくれないということです。ハチって蜂の巣からとれる蜜蝋(ミツロウ)の匂いをかいで来るので、まずは蜜蝋を巣箱に塗りました。でも、こうするとハチは集まるんですが、蛾の幼虫に食われてしまう。なので、次はこうした害虫を駆除する薬をまいたり。とにかく調べてみたら「養蜂の失敗あるある」がいっぱいだったのです。

大谷:さすが中小企業診断士ですね。で、カイゼンの結果はどうだったのですか?

上大田:初年度(2015年)は1箱とれて喜んだのですが、2年目は全然ダメでした。でも、3年目は3箱、4年目は10箱。今年は20箱中、すでに13箱入っているので、年々収穫量は増えている感じです。

今はネットや道の駅で売っているのですが、もともと収穫量が少なくて、単価が高いので、店の人ががんばって売ってくれます。

Kami-Gブランドで販売しているニホンミツバチの蜂蜜

LTEで直接送信できるsakura.ioに行き着いた

大谷:ここまで養蜂に興味を持つ読者にはささる内容になっているのですが、そろそろアスキーっぽく養蜂IoTにつながりそうでしょうか?

上大田:はい。10箱設置した3年目ですかね。父も兼業農家なので、巣箱を見回れるのって週末だけで、限界が生じてきたんです。しかも巣箱って、人目のある場所に設置するわけではないんですよ。花があり、水があり、日当たりがよいという条件になるので、どうしてもいろいろな山の中にまたがって設置することになります。

しかも巣箱や重石で18kgなので、蜜が30kgフルで溜まると50kg近くになります。さすがに50kg近い巣箱を70歳近くの父が山から持ってくるのは危ないし、なんとかしてあげたいなあと思った結果、巣箱を監視するIoTという話になるわけです。以前から、父親も「大変」と言っていたのですが、「見に行ったのにとれてないから大変」なのではなく、「めっちゃとれていて、運ぶにも重いから大変」だったんです。だったら、早く言えよと(笑)。

山の中に設置した巣箱

大谷:確かにとれているのに放っておくのはもったいないですよね。上大田さんはIoTにもなじみがあるんですか?

上大田:本業で工場向けのIoTの実証実験をやっているので、通信手段だけなんとかなれば行けると思ってました。

工場の場合は2.4GHzの端末をばらまいて、ゲートウェイを介して、クラウド側に発報するのですが、巣箱の場合はいろいろな山に置くので、ゲートウェイを集約する意味がないんです。だから、巣箱に設置したデバイスから直接発報した方が効率が良いのです。

大谷:確かに工場と違って、アウトドアのIoTですよね。

上大田:もちろんWiFiルーターを設置する手段もあるのですが、巣箱が増えた場合に、コストがリニアに跳ね上がっていくのがつらい。ということで、IoT向けのSIMや通信サービスを探してたら、sakura.ioに行き着きました。

大谷:とはいえ、IoTサービス自体はいろいろな選択肢ありますよね。

上大田:通信料が安いサービスはけっこうあるのですが、モデムまで含めると3万円くらいまでいってしまう。データも小さいし、1日何回か送れればよいので、トータルで安価なサービスを調べたらsakura.ioになりました。

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