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最新パーツ性能チェック 第264回

この逆転劇はCPUの歴史に残る

シングルスレッドもインテル超え!第3世代Ryzenは遂にメインストリームの頂点に

2019年07月07日 22時00分更新

文● 加藤勝明 編集●ジサトラハッチ

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熱と消費電力はどうか?

 一通り性能の傾向がつかめたところで、気になるのは熱と消費電力だ。特にRyzen 9 3900Xはコア数が増えているので消費電力が気になる。だが7nmにシュリンクしている上にTDP105W据え置きなのでそれほどでない気もする。

 消費電力はラトックシステム「REX-BTWATTCH1」でシステム全体の消費電力として計測した。「Prime95」とはPrime95のSmallFFTテストを10分処理させた時のピーク値、「CBR20」とはCINEBENCH R20のマルチコアテスト実行時のピーク値である。どちらも処理後半に入ってから計測することにした。

 アイドル時の消費電力はシステム起動10分後の安定値をとるのが筆者の慣例だが、今回のRyzen環境はRyzen Masterでクロックが高止まりする関係か80〜100Wのあたりをフラフラ変動して全く読めない。そこでRyzen環境はアイドル時の消費電力を“バランス”、つまりインテル製CPUと同じ条件で計測した。これまでのテストの方針とやや外れているので、アイドル時の消費電力は参考程度に捕らえて頂きたい。

システム全体の消費電力

 インテル製CPUが高負荷にすると消費電力がっ跳ね上がるのに対し、第3世代Ryzenは上位の3900XでもCore i9-9900Kより10〜20W低い。それでいてレンダリング時間等は9900Kを超えているのだから、ワットパフォーマンスは圧倒的に第3世代Ryzenに軍配が上がる。Zen+ベースのRyzen 7 2700Xと比較しても圧倒的に3700Xの方が省電力であることを考慮に入れると、Zen2の凄さがよく分かる。

 ではCPUの発熱はどうだろうか? 第3世代のRyzen 7およびRyzen 9はTDP105W、Wraith Prismが付属する。今回の性能検証はインテル製CPUと環境を合わせる都合上簡易水冷(H110i)利用したが、Warithを使用した時とどのような違いが出るかを観察したい。ここでの検証は時間の都合上、Ryzen 9 3900Xのみで実施した。  テストは前出のPrime95のSmallFFT Testを約10分間実行し、その間の温度を「HWiNFO」で追跡する。

Ryzen 9 3900Xの温度推移

 Ryzenの上位モデルはコア温度は実際のコア温度(Tdie)で見られるが、クロック調整等にはTdieに一定のオフセット値を加えた「Tctl」を用いてきた。しかし第3世代Ryzenの3900Xや3700X(3950Xや3800Xも同様と思われる)では、オフセットはないのでTdie=Tctlとなる。

 実際の温度推移を観察すると、H110iがおおよそ71℃付近で安定したのに対し、CPUに付属するWraith Prismでは80℃をわずかに超えた。全コアをフル回転する用途であれば簡易水冷あるいはハイエンド空冷以上のクーラーが好ましいが、一般的な利用環境なら付属のクーラーでも十分だろう。

 だがRyzenはCPU温度等の情報を内蔵のセンサーで詳しくモニタリング(SenseMIテクノロジー)し、その時引き出せる最大のクロックにブーストするという「Precision Boost2」が実装されている。つまり冷えた方がクロックが伸びるはずである。上の温度推移追跡と同じタイミングでクロックも追跡したのグラフだ。12コア分の推移を全てプロットすると視認性が悪いため、計測する瞬間々々において最高値を示したコアのクロックのみをプロットする。

Ryzen 9 3900Xのクロック(12コアの中での最大値)

 さすがにPrime95レベルの負荷だとブーストクロックよりもはるか下の方でクロックが安定するが、より低いコア温度を示したH110iの方がWraith Prismよりも安定して高いクロックを示した。H110iが3700~3725MHあたりを中心に変動するのに対し、Wraith Prismだと3625〜3650MHzあたりが中心となる。Warith Prismでも十分運用は可能だが、性能を少しでも引き出したいのであれば、冷却力の高い冷却手段を用意するのが賢いようだ。

CPU史に残る歴史的転換点の目撃者となれ

 以上で第3世代Ryzenのうち、Ryzen 9 3900XとRyzen 7 3700Xの検証は終了だ。3900Xの破壊力もさることながら、シングルスレッド最速という難攻不落の城であったCore i9-9900Kにほぼ肩を並べてしまったRyzen 7 3700Xこそが、第3世代Ryzenの凄さを端的に表しているといえるだろう。これまで何回も最速CPUが入れ替わるのを目撃してきたが、ここ数年は“マルチ最強だけどシングルが遅い”というような条件付きの交代劇が多かった。

 だが第3世代Ryzenによって、シングルもマルチも速く、それでいて割安という文句のつけようのない製品が出てきた。これはCPU史に残るAMDの偉業といって差し支えない。Far Cry New Dawnに見たような例外事例も観測されたが、それがPCゲームでどの程度観測されるかは、今後(テストできなかったRyzen 7 3800XやRyzen 5系を含めて)追加検証してかねばならないと感じている。

 これからPCを新調しよう、パワーアップしようと考えているなら、間違いなく第3世代Ryzen、特に上位モデルは買いだ。X570マザーボードやPCI Express Gen4対応SSDまで含めると相当な出費となってしまうが、確かな満足度を約束してくれるだろう。

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