Hosty 筆者撮影
アップルはダウンロード配信を辞めない
次期macOSとなる「macOS Catalina」において、iTunesが搭載されなくなることについて、世間では驚きをもって受け止められたようだ。
「ダウンロードサービスによって、音楽の世界を変えたアップルがiTunesを辞める。音楽ダウンロードサービスの終焉であり、ストリーミング配信への本格的な転換期だ」と煽るメディアが相次いだ。
筆者のところにも、アメリカ西海岸時間24時半ごろに「アップルがダウンロード配信を辞めることでの、音楽業界に与える影響を教えて欲しい」と某新聞の記者からコメント依頼の電話があったほどだ。
しかし、待って欲しい。
アップルは「iTunesを搭載しない」と言っただけであり、「ダウンロード配信を辞める」とは一言も言ってない。
事実、iTunesを搭載しない代わりに「Apple Music」「Apple TV+」「ポッドキャスト」という3つのアプリに、これまで搭載していたiTunesの機能を分散させる予定だ。
Apple Musicアプリには、これまでユーザーが貯めてきた音楽データが引き継がれるし、聴き放題のストリーミングサービスだけでなく、1曲ずつ購入できるダウンロード販売も、このアプリ内で利用できるようになる。
実際、アップルのプレスリリースにも「音楽を手元に置いておきたい人は、クリック1つでiTunes Music Storeを開いて音楽を購入できます」と書いてある。
また、iTunesでは、iPhoneを接続することでデータのバックアップを取れたりしていたが、こちらはMacにiPhoneを接続した際に「Finder」アプリが立ち上がり、データのバックアップなどを行なえるようになる。
いまだに年間250億円の売り上げを誇る市場がある
確かに、アメリカ市場では、SpotifyやAmazon Music、Pandra、YouTube Musicなどのストリーミングサービスが一般的になっており、ダウンロード配信は低迷気味だ。
しかし、日本の音楽市場を見ると、これが意外にもダウンロード配信が善戦している。
一般社団法人日本レコード協会の調べでは、2018年の売り上げがストリーミング配信が348億円なのに対し、ダウンロード配信は256億円となっている。その前年、2017年はストリーミング配信が263億円で、ダウンロード配信は270億円だ。つまり、日本市場では2年前までダウンロード配信の方が売り上げが大きく、昨年、ようやく逆転したに過ぎないのだ。
日本でもApple Musicを筆頭にAmazon MusicやGoogle Play Music、LINE Music、AWAなどのストリーミング配信サービスが花盛りだ。ここ最近の利用状況を考えれば、日本でもストリーミングが主力になるのは間違いない。しかし、いまだに年間、250億円の売り上げを誇る市場があるにも関わらず、アップルがダウンロードサービスから撤退するなんて経営判断をするわけがない。
一般メディアが騒ぐほどのことではない
しかも、アーティストのなかには「ダウンロード販売はOKだが、ストリーミング配信に流すのはNG」という人も多い。ダウンロード販売をやめてしまえば、そうしたアーティストの販路も断ってしまうわけで、誰も得しない状況になってしまう。
そもそも、iPhoneが登場した当初は、Macに繋いでバックアップを取り、ソフトウェアアップデートをかけるなどすることが多かったが、最近では、すべてiCloudにおまかせでバックアップを取り、ソフトウェアアップデートも無線経由でやっている人がほとんどではないか。筆者もここ何年、iTunesにiPhoneを繋いだ記憶がないほどだ。
もちろん、ストリーミングサービスのApple Musicには出てこないアーティストの楽曲の購入もMacのiTunesではなく、iPhoneのiTunes Storeを使って入手している。
Mac用のiTunesがなくなることは、一般メディアが騒ぐほどのことでもなく、macOS Catalinaが公開されれば、すんなりと受け入れられるのではないだろうか。