リピートが決まるマジックナンバーの「3」
横浜F・マリノスの取り組みは、デジタルマーケティングの第一歩となる。デジタルマーケティングの専門家である西井氏の話をまとめると、”顧客のIDを使って、何回きてくれたのか、1回目に何を買ったのか、初回から2回目までどのぐらい時間がかかったのかなどを理解すること”がこの段階となる。
リピート率については「1回きた顧客が2回目に定着するかが一番離脱しやすいポイント」と西井氏。「だいたい3回ぐらいきてもらうとほぼ定着するということがわかる」という。つまり、冒頭の永井氏の「3回目」は、他の業界とほぼ同じと言える。「”今日の夜、何しよう”と思った時に、サッカー観戦が選択肢に入るためには、記憶の中に2回、3回と繰り返される必要がある。そうすると、その選択肢は入りやすくなる」と説明する。
これを受けて永井氏も、「3回きてもらうことが大切というのは、データを取る前からわかっていた」という。データを取るようになって、数字がきちんと見えるようになった一方で、「3回で定着するクラブ、4回で定着するクラブがあり、その要因は何なのか、などわからないことも出てきた」と続ける。
また、「初回来てくれた人に満足度調査や次の観戦意向を聞くととてもいい数字になるが、実際には来てくれない。”きっかけ待ち”というが、やはりアプローチしなければならない。データが取れることで、2回目、3回目のアプローチができる。これは重要なポイントになる」と述べた。
可視化という点では杉本氏も、「(データから)出てきた数字を見て、仮説通りだったと安心したところもある。わかっていたことが数字上きれいに現れることは大切」と述べる。
不満要素は負け試合よりも待ち時間だった
離脱についてはどうか。横浜F・マリノスでは、すべての試合で2種類の調査を実施しているという。1つ目は、試合前にアルバイトスタッフによるアンケート調査だ。アプリでもアンケート調査はできるが、「Jリーグアプリを持っている人を対象にしてやってしまうと、若干コア寄りのバイアスがかかると思っているから」と人を使った調査を重視する理由を永井氏は説明する。
そこから得られた洞察の1つとして紹介したのが、2018年よりJリーグが始めた”フライデーナイト”だ。文字通り金曜の夜の試合だが、Jリーグがフライデーナイトを開始した背景にあったのは、土日は家族や友人と過ごすが平日の夜なら観戦に行くのではという読みだ。試合前の調査から、生涯で初めて観戦した人の比率が最も高かったのがフライデーナイトであることがわかった。横浜F・マリノス対浦和レッズ、対川崎フロンターレなど、対戦相手がいいカードを上回るレベルだったという。