日本でのデジタルファースト推進になにが必要か?
セミナーの最後、デジタルファーストの課題や展望を語るディスカッションでモデレーターを務めたアドビ 副社長の秋田夏実氏は、PDFを中心としたアドビのテクノロジーの導入状況を説明。「13の中央省庁だけでも、実に23万IDが利用されている」とアピールした。
今なぜ日本でデジタルファーストが必要か?という質問に関して、NEC 常務理事の戸田文雄氏は、「少子高齢化の克服」を挙げる。行政のリソース不足を考えれば、AIによる処理の自動化は不可避になり、民間企業への委託にはデータ連携が必要になる。戸田氏はイメージビデオやグローバルの先進事例を示しながら、デジタルガバメントの推進を訴えた。
また、戸田氏はこうしたデジタルガバメントの推進においては、やはり省庁間や中央・地方自治体などの「縦割り」が障壁になると指摘した。戸田氏は、従業員の住所氏名変更の手続きの例を挙げ、「現状は事業者と自治体に別々に手続きを行なっているが、本来は住基ネットを使えば、申請は1回で済むはず」と指摘。経済団体から、長らく提言しているが、なかなか進まず、スピードが上がらないという事例を明らかにした。
とはいえ、デジタル・ガバメントの取り組みは、政府だけに任せるのではなく、官民一体で取り組むべきというのが戸田氏の論だ。「官はとても少数精鋭でやっているので、物理的なキャパシティの限界が生じてしまうし、国会で審議できる法案数にも限りがある。民は、要望に優先順位を付けたり、具体策を出したり、場合によっては人を出してもよいのではないか。官とゴールを共有し、ともに汗をかくべき」と戸田氏は語る。
内閣官房の奥田直彦氏は、縦割りの壁について「過去は所管省庁で対応できた時代もあった。しかし、社会環境が変わり、省庁間で横断的に解決しなければならない課題が増えてきた」と分析。課題や現状を細かく認識し、ユーザー目線で施策を進めていくことが重要だと語った。
また、奥田氏は目指すべきゴールについて、「過去はオンライン化自体を目的化していたような節がある。しかし、本来のデジタル化は国民の利便性を上げることが目的だ」と指摘し、こうしたゴールをきちんと共有することが重要だという。その点、デジタルファースト法のような法令で方向性を示した上で、「足並みを合わせることで遅くなるより、できるところからスモールスタートしてスピードを上げていくことが重要になる」と持論を示した。
最後、秋田氏は「日本が競争力を維持し、成長していくためにも、官民そして地方がスクラムを組んで、現状をきちんと把握し、最新のテクノロジーを必要なところに導入していかなければならない。もはやデジタルファースト待ったなしの時代になっている」とパネルをまとめた。行政サービスや政府の取り組みなど、普段と異なる観点でデジタル化について知見を得られた貴重なイベントだった。