MQAやハイレゾCDにも対応した、最新ハイレゾプレーヤー
限定200台「SP1000M Gold」の音質は? Astell&Kern第4世代機を比較レビュー
2019年01月14日 16時00分更新
気になるSP1000Mの実力は?
SP1000やほかの第4世代機と聴き比べた
記事の前半では、Astell&Kern第4世代機の機能を中心に紹介してきた。しかし、最も気になるのは音質だろう。筆者は「A&ultima SP1000」のステンレスモデル(以下SP1000 SS)を常用しており、ヘッドホンの試聴や取材などで活用している。これと比較しながら、「SP1000M」やほかの第4世代Astell&Kernプレーヤーのサウンドの違いについて紹介していく。イヤホンについては「DITA Dream」をメインにしたが、複数機種で聴き比べている。
第4世代機の大手量販店での実売価格は、シーラス・ロジック製DAC搭載で最も安価な「A&norma SR15」が10万円弱、ESS Technology製DACの「A&futura SE100」が22万円弱、旭化成エレクトロニクス(AKM)製DACの「A&ultima SP1000M」が30万円弱、「A&ultima SP100」がステンレス(SS)/カッパー(CP)ともに38万円弱といったところだ。コラボモデルや限定モデルでは、販売価格が上下する。
第4世代Astell&Kernの主な仕様 | ||||
---|---|---|---|---|
機種名 | A&ultima SP1000 |
A&ultima SP1000M |
A&futura SE100 |
A&norma SR15 |
筐体 | ステンレス /カッパー |
アルミ | アルミ | アルミ |
画面 | 5インチ | 4.1インチ | 5インチ | 3.3インチ |
ストレージ | 256GB | 128GB | 128GB | 64GB |
DAC | AK4497EQ (デュアル) |
ES9038PRO (8ch DAC) |
CS43198 (デュアル) |
|
DSD(最大) | 11.2MHz (ネイティブ再生) |
11.2Hz (PCM変換)※1 |
||
PCM(最大) | 384kHz/32bit※2 | 192kHz/24bit※2 | ||
USB | USB Type-C | USB Type-C | USB Type-C | Micro-USB |
連続再生※3 | 約12時間 | 約10時間 | 約11時間 | 約10時間 |
重量 | 約387g /約388g |
約203g | 約241g | 約154g |
※1 2.8MHzまではネイティブ再生。
※2 各機種ともダウンコンバートであれば、768kHz/32bitまで再生できる。
※3 FLAC形式、44.1kHz/16bitの場合。
DACの違いによる音調の差はかなりあるのだが、同じメーカーであれば近い傾向になっている。第3世代以降はAKMのDACを搭載するケースが多いAstell&Kernだが、SE100はAstell&Kernとしては唯一のESS DAC搭載モデルで「ES9038PRO」を使用。SR15は第2世代のフラッグシップ機「AK240」同様、シーラス・ロジック製DACを使っており、世代は新しい「CS43198」となっている。
SP1000Mは、SP1000 SS/CP同様、AK4497EQをデュアル搭載しており、音調は大きく変わらない。というよりも、特にバランス駆動時であれば、シリーズのほかのモデルと比べた場合のような差はなく、わずかと言えるだろう。SP1000Mは小型化しているが、出力が高い関係で、厳密に音量を揃えるのは難しい。同一の音量位置では、SP1000 SSよりも音圧が高くなる分、より低域が前に出てくる印象がある。
聴き比べれば差はもちろんあるのだが、S/N感や解像感といった質の部分でも目立った差はない。10万円に迫る価格差だが、クオリティ的には同格と言える。強いて違いを書くとすれば、中低域の出方だ。ベースラインやドラムなどがより軽く、前に出てくるし、男性ボーカルなどの中低域も厚く、ゆとりある雰囲気がある。この点を重視するリスナーなら、SP1000よりもドライブ力が高まったと感じるかもしれない。
ただ、一般的な3.5mm端子を使用した際の音ではSP1000が優れているように思えた。安定感があって、音に雑味がないし、より正確な再生ができている印象だ。ここはSP1000Mとのクオリティ差を感じる部分だ。SP1000Mは最新機種だが、やはりハイエンド機はSP1000のほうなのだと実感した(少なくとも筆者にとっては)。
限定販売のSP1000M Goldも出て悩ましい状況に
と、結論付けて、今後も取材用のリファレンス機は「SP1000 SSで決定」と思っていたのだが、最近発表された「SP1000M Gold」を聴いて心が揺らいできた。SP1000M Goldは、アルミ製だったSP1000Mの筐体を真鍮製に変え、表面を純度99.7%の金メッキコーティングした製品。内部ストレージを256GBに倍増し、かつ木製ケースなども付属する国内200台の限定モデルとなっている。発売は2019年1月18日。サイズについては同じだが、重量は約307gと100g以上増えている。SP1000SSよりは軽いが、SP1000Mと持ち比べるとかなりズッシリくる。
Astell&Kernブランドは、仕様は同じだが、筐体素材を変えたバリエーションモデルを頻繁に出している。過去にAK240のゴールドバージョンなども海外向けにあったが、素材が真鍮だったかは調べきれなかった※。SP1000Mは軽量さがウリなのに、敢えてステンレスより比重の高い(銅よりは軽いが)、真鍮を使うのはなぜかと思ったのだが、音を聴いて理由が分かった。
※編注:後日の取材で、ジュラルミン製だと分かった。
分解能の高さがSP1000Mと比べて相当に上がっていて、場合によってはSP1000よりいいのではないかと思えてきたためだ。ハイレゾ音源の「adrenaline!!!」(TrySail 96kHz/24bit)を聴いたところ、音数が多い関係で埋もれがちな30秒付近のコーラスの音が明確に分離して聞こえるし、40秒付近から装飾的に入るチョッパー風のギターだったり、そのあとのリフなども前に出てくる。
また、高域のなまりのなさも特徴的だ。気持ち響きに特徴があるが、「A or A!?」(petit milady、48kHz/24bit)の冒頭で入っている鉄琴風の音は、標準のSP1000Mよりも硬質で純度が高い鳴りだった(SP1000 SSよりも気持ち響きが太く、キンという音色にカンの風味が入ったぐらいの鳴りに聴こえる)。
ヴィヴァルディの四季から《夏》(イ・ムジチ、192kHz/24bit)を聴いた際でも、弦とチェンバロの音がよく分離していた。定位感などもよく、SP1000Mでも音のフォーカスが少しぼやけていたと感じるほどクッキリ。スピーカー再生してみると、SP1000 SSのほうが音場が広く、定位も明確に思えたが、いずれにしてもSP1000Mとの違いがかなりあるのにビックリした。
仕様や付属品の違いがあると言っても、SP1000M Goldは実売37万円弱で、SP1000Mより7万円高く、SP1000 SSとほぼ変わらない金額だが、サイズ面でのメリットに加え、音質面でも特徴を持つ機種と言えるだろう。