データ活用への期待と現実の乖離解消のため「全社的なデータ戦略」を、日本法人代表 北村氏
セルフサービスBIの課題を解消する“第3世代のBI”目指すQlik
2019年01月09日 07時00分更新
BIツールメーカーのクリックテック・ジャパン(Qlik)が昨年11月に発表したレポート「データリテラシー指数(Data Literacy Index)」は、個人ではなく企業を評価対象としてデータリテラシーのスコアリングを行ったグローバル調査レポートだ。
同レポートでは「データリテラシーが企業業績を底上げすること」が明らかになっており、ほぼすべての企業が「データ主導の意思決定が重要である」と考えていることもわかった。にもかかわらず、企業としてのデータ活用方法の変革、データリテラシーの高い従業員の雇用や教育といった具体的な取り組みは立ち遅れている。また日本企業においては、社内の多様な部門でデータを活用するという「データ活用の拡散度」が相対的に低いために、調査対象10カ国中でデータリテラシー指数が最下位という結果になっている。
企業におけるこうした“データ活用への期待と現実のギャップ”を、Qlikではどのように埋めていこうとしているのか。同社 日本法人 カントリーマネージャーの北村守氏に聞いた。(インタビュー実施:2018年11月)
企業内で「より多くの人に使ってもらう」新たな方向性を打ち出す
北村氏はまず、現在のQlikでは「エンタープライズフォーカス」という方向性を打ち出していることを説明した。これは大企業(エンタープライズ)向けに事業強化していくという意味ではなく、「企業全体で」BIツールを使ってもらえるようにしていくという方向性を指す言葉だという。
「これまでは『より多くの企業』で使ってもらうことを目指していた。それが変わるわけではないが、これからは企業内で『より多くの人』に使ってもらうやり方にも広げようとしている」
その背景には、企業におけるBIツールの利用方法の変化があるという。ERPに蓄積されたビジネスデータをレポーティングすることが主眼だった第1世代のBIは、社内の限られたユーザーのみが利用するツールだった。それを変えたのが“セルフサービスBI”を標榜する第2世代BIであり、各部門のエンドユーザーが、それぞれのビジネスニーズに基づいてデータを分析することを可能にした。これは大きな変化であり、実際にQlik自身もセルフサービスBIツールとして多くの企業に導入されてきた。
だが、企業がより全社的なデータ活用を志向するようになる中で「セルフサービスが“足かせ”になる部分も出てきた」と北村氏は指摘する。エンドユーザー自身でデータ分析ができるメリットがある反面で、第2世代BIではデータに対するガバナンス、ユーザー間のデータ共有、その際のセキュリティなどがあまり意識されていなかった。こうした課題が解決できなければ、数千人規模の大規模利用は考えにくい。
そこで第2世代BIの課題を解消した「第3世代のBI」が必要になっていると北村氏は指摘する。具体的には、従来のセルフサービスBIが提供するメリットは残しつつ、集中管理型のガバナンス、社内データの集約/管理、部門やユーザーロールに基づくデータアクセス制御などを実現するBIツールだ。
「さらにはデータ分析だけで良いのか、そもそも分析対象となるデータを格納する部分はどうするのか、という話も出てきた。データ分析ツールのメーカーとしては『Analytics Ready(すぐに分析可能)』な環境を提供し、データ主導の企業経営を考える顧客により貢献していく必要があるのではないか。そこでQlikでは7月にポディアムデータ(Podium Data)を買収して製品統合を進めており、(日本でも)2019年には『Qlik Data Catalyst』としてリリースする」
Qlik Data Catalystは、社内に存在するデータをカタログ化した“データマーケットプレイス”をエンドユーザーに提供するデータ管理プラットフォーム(DMP)だ。登録されたデータは自動的にデータプレパレーションが行われ、Analytics Readyな状態になる。カタログ上では各種メタデータ(データ品質や利用頻度といった指標など)も提供されるほか、集中管理によってデータのガバナンス/セキュリティに関する課題も大幅に解消される。
「これまでの企業はどこかにデータを集めておき、データ分析を実施する段階になってからデータクレンジング、ETL、データベースへのロード……といった作業を行っていた。Qlikでは(Data Catalystを通じて)その部分の工数を削減していきたい」
3つの「重要なストラテジー」+マルチクラウド化の取り組み
こうした第3世代BIを実現していくために、Qlikでは3つの重要なストラテジーに取り組んでいると北村氏は語った。それはBIツールというプロダクトにとどまるものではないという。
まずは「プラットフォームストラテジー」だ。前述したData Catalystもその一部だが、社内のどんなユーザーでも容易にローデータ(生データ)からインサイトを導き出せるような、統合されたプラットフォームを提供する。Analytics Readyな環境を整えることで“データの民主化”を図り、顧客企業内のより幅広い部門がデータ活用に取り組むことを促す。
次は「アナリティクスストラテジー」である。これは「あらゆるシーンでデータ分析ができるように、Qlikの製品ポートフォリオを揃えていく」取り組みだと、北村氏は説明する。現在は、“完成品”として提供されているBIツールの「Qlik Sense」だけでなく、同じ分析エンジン(連想エンジン:Associative Engine)を使って顧客独自のアプリケーション開発を可能にする「Qlik Analytics Platform」、IoT/エッジデバイスへの分析機能組み込みのためのソースコード「Qlik Core」といった製品をラインアップしている。これにより、自らBIツールを駆使するユーザーも、これまでデータ分析とは無関係と考えていた現場のユーザーも、データ活用に取り組めるようにする。
最後が「データリテラシーストラテジー」だ。Qlikから直接、あるいは企業/エンドユーザーのデータリテラシーを高めるためのコミュニティプロジェクトを通じてトレーニングや教育コンテンツを広く提供する。その一方で、データ分析やBIツールになじみの薄い(=データリテラシーの低い)ユーザーであってもデータ活用に取り組めるよう、Qlik Senseではコグニティブエンジン(AI)/機械学習と連想エンジンによる自動化機能を強化している。これはたとえば、対話型チャットボットを通じてユーザーの目的に合ったデータを検索したり、内容に適したチャートを自動生成してユーザーに提案したりする機能を提供するという。
これら3つの戦略に加えて、顧客企業で求められているハイブリッドクラウド/マルチクラウドへの対応も進めていると、北村氏は説明した。現在の企業は、パブリッククラウドで生成されるデータから社外に出したくない機密データまで多様なデータを保有しており、「すべてのデータを1カ所に集約するのは難しい」。データそのものは分散配置したまま、そのリンクをデータカタログに集約することで柔軟な活用を促す。
こうしたストラテジーはいずれもすでに進行中であり、上述した製品や機能のほとんどはすでに提供開始している。
期待の高さに反して立ち遅れているデータ活用の取り組みを促すために
「現在は『収益を上げること』『他社との差別化を図ること』を目的として、データ活用を考える企業が増えた」と北村氏は語る。データ主導型の企業経営が浸透する中で、Qlikとしても単なるプロダクト提供にとどまらず、顧客企業のデータ戦略により積極的に関与していく方針だ。
冒頭で触れた、企業における“データ活用への期待と現実のギャップ”を埋めるためには、まずはそうした実態があることを広く発信すること、さらに教育コンテンツの提供とそこへのフィードバックや議論を通じて「企業が考えるきっかけづくりを図ることが大事だ」と述べる。
「特に今回の(データリテラシー指数の)調査結果では、データリテラシーによって企業業績にも差が出ることが明らかになっており、これが(企業の取り組みを促す)ドライバになるのではないか。企業経営にかかわる話であり、経営判断としてトップダウンで動きやすい」
また、同調査において特に日本企業の課題と指摘している「データ活用の拡散度」を高めるために、BIに対する従来のイメージを変えて分析シーンを拡大すること、AI/機械学習などの自動化/支援機能によってユーザー層を拡大すること、そしてエッジデバイスへの組み込みを通じて新たな現場でのデータ活用を進めること、の3点を挙げた。
「たとえばDWHやDBに格納されたデータとPC上のExcelデータを組み合わせて分析したいが『それはBIツールではできない』と思い込んでいる顧客も多い。Qlikならばそれができると紹介することで、導入につながるケースもある。また『データやBIには詳しくないから……』と尻込みされる顧客でも、AIなどが自動生成し、提案するものを選ぶくらいはできる。こういうことの繰り返しで、データ分析の取り組みを企業内に拡散していくことができるだろう」
北村氏は、これからの企業経営における「全社的なデータ戦略」の重要性を繰り返し強調した。現状はまだ多くの企業で、特定の部門のみが個別にデータ分析を行っているのが実態であり、データ戦略とアナリティクス戦略が乖離しているケースも多いという。
「企業内で『データを集める人(担当者)』と『アナリティクスをする人』が別、という話もよく聞く。本来それらの戦略は一体でなければならないのでは、と問うと『そうなんですけどね……』という反応。もちろん、われわれもいきなりすべての課題を解決できるわけではないが、まずはデータカタログを整備する、Analytics Readyなデータレイクを構築するなど、できるところから一歩ずつ、一緒にやっていきましょうと呼びかけたい」