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「AIが人間を助け、人間がAIを助ける」相互補完的な協働が最大のパフォーマンスを発揮する

“人間+AI”の新たな働き方、アクセンチュアが道のりを説明

2018年12月20日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 アクセンチュアは2018年12月12日、「人間と人工知能(AI)の協働(コラボレーション)」をテーマにした記者説明会を開催した。書籍「HUMAN+MACHINE 人間+マシン:AI時代の8つの融合スキル」の著者である同社 CTOのポール・ドアーティ氏、監修者である同社 保科学世氏が出席し、アクセンチュアが考える未来の仕事像やその実現に向けた課題、日本企業に対するインパクトなどを語った。

アクセンチュア CTO 兼 最高イノベーション責任者のポール・ドーアティ氏、 アクセンチュア デジタルコンサルティング本部 アクセンチュアアプライド・インテリジェンス日本統括 兼 アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括マネジング・ディレクターの保科学世氏

「人間かAIか」ではなく「人間とAIが相互補完的に協働する」未来像を提示

 説明会ではまずドーアティ氏が、書籍「HUMAN+MACHINE 人間+マシン:AI時代の8つの融合スキル」から、いくつかの重要なポイントを紹介した。同書は人間の労働者とAIとの“協働”がどう進化していくのかをテーマとして、多数の実例も紹介しており、米国では3月に、日本では先月日本語版が出版された。

書籍「HUMAN+MACHINE 人間+マシン」で語られている主要なポイント

 ドーアティ氏はまず、本書が伝えるメッセージのひとつとして「『人間か、マシンか』ではなく『人間+マシン』の協働こそが未来の仕事像である」という点を強調した。過去数次の産業革命と同じように、AI活用に向けた取り組みでも「マシン(=AI)によっていかに人間の能力を強化/拡大していけるのか」を考えるべきであるというスタンスだ。

 さらに、AIの進化はSF映画が描くような脅威をもたらすものではなく、「人間の仕事を奪う」ものでもないと語る。たとえば世界経済フォーラムが今年発表したレポートでは、「AIによって、2022年までに7500万の雇用が失われる一方で、1億3300万の新たな雇用が創出される」と結論付けられている。

 ただし、企業が「現在のアプローチのままで行ける」と考えるのは「誤解だ」と否定する。過去の産業革命で企業は「プロセスの標準化」「プロセスの自動化」を達成してきたが、次の波(第3の波)は「適応力のあるプロセス」であると同書は述べる。そのためにビジネスを再創造し、適応力と柔軟性のあるビジネス構造に作り替えていくことが求められると、ドーアティ氏は語る。たとえば同書では、企業は業務プロセスを「一連のタスクの集合体」と捉えることから脱却し、柔軟に再接続可能なノード(タスク)のネットワークのように考えるべきだと指摘している。

 新たなアプローチは、企業従業員(労働者)にも求められる。「雇用の数は増えるが、仕事の内容は変わるだろう。それにどう備えるかだ」。新たな仕事のカテゴリーとして“人間がマシンを助ける”仕事も考えられるという。たとえば自社のAI戦略を考える仕事、AIアプリケーションを開発する仕事をはじめ、“自社の顔”であるチャットボットの顧客コミュニケーションを改善するAIトレーナーの仕事、大量のAIアルゴリズムを適切に維持管理する仕事などを挙げる。AIが行った判断理由を説明し、その判断結果に責任を持つ(必要に応じて修正を施す)のも、人間にしかできない仕事だ。

 “人間かAIか”の二者択一ではなく、AIが人間を助け、人間がAIを助ける相互補完的な協働は「多くの企業において、これまで具体的に考慮されてこなかった」とドーアティ氏は語る。同書ではこれを「ミッシングミドル(失われた中間領域)」と名付けるとともに、最も高いパフォーマンスを達成するのはこのミッシングミドル領域が具体化されたとき、つまり人間とマシンの協働が実現したときだと説明している。ただしこのミッシングミドルを埋めるためには、前述した適応力のあるプロセスの再創造も求められることになる。

同書ではAIが人間を助け、人間がAIを助ける相互補完的な協働形態を「ミッシングミドル」と名付け、注目している

 ドーアティ氏は、これからの企業(や産業振興を図る政府)には、大きく3つの「チャレンジ(課題)」があるとまとめた。ひとつは、AIとの協働時代に生まれる新しい仕事のジョブスキルを定義し、持続的な教育(再教育)を行っていくこと。「これがAI社会における最大のポイントだ」。2つめは、AIのトレーニングに用いるデータの信憑性、信頼性を確保すること。そして最後に、この取り組みには終わりがないということである。「AIは進化し続けていく。ここで終わり、というゴールはない。常に前進していかなければならない」。

現状はグローバルと大きな意識差、AIとの協働において日本企業が持つ強みは

 続いて登壇した保科氏は、特に日本社会において「人間とAIとの協働」が不可欠なものとなる理由について説明した。

 まず、日本社会には少子高齢化に伴う労働人口不足の問題がある。厚生労働省のデータによると、2030年の国内推定就業人口は6169万人、一方で推定成り行き労働需要は7065万人。つまり、2030年には896万人ぶんの労働力不足に陥ることが予測されている。AI活用による業務生産性の向上で、この労働力の需給ギャップを埋めなければならない。

 「サービス/接客など労働集約性の高い産業では、すでに有効求人倍率が高い(=人手不足の)のが現状。こうした産業からAI活用が進んでいく、というか『進めざるを得ない』状況になっている」

 さらに企業がAIを最大限活用した場合の潜在的な経済効果は、特に日本において高いと予測されていることも指摘する。2035年の各国推定GVA成長率(GDP成長率にほぼ相当)を見ると、日本は、AI活用が進まないベースラインシナリオでは成長率0.8%にとどまるが、AIの最大活用シナリオでは2.7%と3倍以上に達する。他国ではこれほどの差はなく、保科氏は「日本こそAI活用を考えるべき国だ」と語る。

2035年の各国GVA成長率。AIを最大活用した場合、日本は成長率を約3倍に伸ばせると予測

 ただし、日本の労働者における「AIとの協働」への意識と行動は、グローバル平均とはかなり乖離しており、端的に言えば「遅れて」いる。

 アクセンチュアが11カ国で実施したグローバル意識調査「Future Workforce」(2017年9~11月実施)によると、「AIと協働するために新たなスキルを習得することが重要」と考える労働者は、グローバル平均では83%に達するのに対し日本では46%。同様に「過去1年間に、AIとの協働に向けたスキル習得に取り組んだ」労働者の割合は、グローバル平均が68%であるのに対し日本では24%だった。

 さらに、日本の労働者はAIが自身の仕事にどのような影響を与えるのか具体的なイメージが持てておらず「漠然とした不安を抱えている」ことも、同調査からは明らかになっている。

アクセンチュアのグローバル調査によると、AIとの協働に対する日本の労働者の意識、行動、理解は他国と大きく乖離している

 こうした意識乖離の背景について保科氏は、AIについての議論が技術的なものに偏り、人間とAIの協働に対する具体的なイメージが語られてこなかったのが要因ではないかと語る。「ミッシングミドルと呼ぶとおり他国でもあまり語られてはこなかったが、日本においては特にそうなのではないか」。その課題を解消するための一助として、同書では多数の協働事例を取り上げることで具体的な姿を伝えようとしていると述べた。

 今後、AIに対して積極的な姿勢を取るならば優位性を得られる可能性のある国内業界の例として、保科氏はサービス/接客業、製造業を挙げた。高品質なサービス/接客を提供する人材とノウハウが豊富で「AIに教える際に、良いお手本となる人やデータがある」ため、また製造業ではマシンの“手足”となる産業用ロボットの大手メーカーが多く、AIとの協働時代において発展性が高いためだとしている。「世界的に見ても強みのある部分を生かしながら、日本ならではのAIサービスを作っていかなければならない」。

 なお同書では、人間とAIの協働を通じて高い価値を生み出すための5原則を「MELDS」とまとめている。従来とはまったく異なる業務アプローチを検討する「マインドセット」、ミスや失敗を奨励しそこから積極的に学ぶ「エクスペリメント(実験)」、AI利用における責任を考慮し制御していく「リーダーシップ」、学習データのバイアスや鮮度を意識する「データ」、ミッシングミドルを埋めるための「スキル」の各頭文字をつなげたものだ。

成功事例から導き出した5つの原則として「MELDS(メルズ)」を掲げている

 そのほか保科氏は、アクセンチュアにおける取り組みとしてオープンイノベーションを推進する「アクセンチュア・イノベーションハブ東京」や、多数のAIエンジンを統合管理する「AI HUBプラットフォーム」、学習データの公平性を担保する「Fairness Toolkit」などのツールを提供していることを紹介した。

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