まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第62回
ゼネラルプロデューサー 田中宏幸氏インタビュー
愛されるキャラクター創造が軸――サイバーエージェントの新アニメレーベル CAAnimation
2018年12月29日 15時00分更新
委員会形式以外も模索していきたい
―― ファンドの規模が30億円ということですが、アニメ1タイトルあたりの予算(2億~3億円以上)や、AmazonやNetflixとのタイトル獲得競争という状況を考えると、この規模は十分であると言えるのでしょうか?
田中 このアニメファンドは任意組合の形式で組成されています。僕はこれが良い形だと思っていて、分社化しているわけでもなければ、何らかの社外の組織になっているわけでもありません。自由度が高く、10社以上あるゲーム会社や「AbemaTV」などが、自らの事業を成長させるためのものとして捉え、活用することができるのです。
当然、ゲームとアニメを連動して展開していこうというものは、自分たちが原作となるオリジナル作品となります。出資比率も過半数となるでしょう。もっと言えば委員会方式ではない形も模索しようと思っています。
一方で、原作のある作品については小口の出資を続けていきます。そういった原作・自社オリジナルタイトルで投資のメリハリをつけながらの運用を想定しています。
「AbemaTV」はアニメを3チャンネル編成しています。かなり視聴数が伸びていて、外資プラットフォームと比較しても負けていません。国内のアニメファンに最もリーチしやすいメディアとして選ばれているという自負もありますし、引き続き成長させていく戦略です。
―― そこもグローバルの独占配信を前提とする外資プラットフォームとは異なる点ですね。
田中 そうですね。私たちが投資する企画も国内を重視したものになります。ただもちろん、海外プラットフォームでも配信されますし、そこからゲームに展開されたときには、ワールドワイドに市場が広がることも想定しています。
―― 現在はプラットフォーム間の競争もあって、アニメの調達金額が高騰していますが、競争や調達が一段落するとその状況も変わるとも指摘されています。
田中 そういう観点からも、まず国内で資金調達を実行し、そのうえで海外展開を進めることが堅実ではないかなと感じています。
また、グローバルも含めた配信で本当に果たしてどれだけの人が作品を見てくれているのか、そこからビジネスにつながる可能性はどのくらいあるのかは、目先の「良いディール」だけでなく、そのパフォーマンス、キャラクタービジネスの広がり、生涯収益も冷静に見ておく必要があると思いますね。
―― 現在、企画の開発を進めているということはおそらく私たちがその作品を目にするまで、あと2年程度は掛かると思います。その頃には配信全盛とも言える現状ももう少し変わっていそうですね。製作委員会を組成しないプロジェクトの場合は、そこから派生するライツ(著作権)ビジネスを「誰が」担うのかも課題です。
田中 製作委員会方式はもう生まれてから30年以上経っていますので、環境への変化が当然求められていますね。僕たちはオリジナル作品を中心にビジネスとクリエイティブの両方を動かしていきます。
僕自身もこれまでオリジナルである『Wake Up, Girls!』や『ユーリ!!! On ICE』でその勘所は体得してきたという自負はありますし、それをこの会社に還元していきたいと思っています。
ゲームへの投資も社内外問わず進める
―― どのくらいの人手をかけて企画開発と投資運用を行なっていくのでしょうか?
田中 現在、ファンドの立ち上げと運用で8人、CAAnimationは4人で動かしています。メンバーの重複がありますので、大人数ではありません。基本的には僕と落合が統括しており、落合はCygamesの相談役という立場を務めています。ファンドの投資対象となる社外の案件も含め、2人でゲームとアニメを連携させたプロジェクトを推進していきます。
―― ゲームへの投資についてももう少し教えてください。アニメ以上にゲームは開発費が高騰しており、資本力の大きくないゲーム会社には厳しい時代がやってきています。
田中 そうですね、「アニメファンド」と銘打っていますが今後はアニメだけでなくゲームにも投資していきたいと思います。グループ内のゲーム会社と、社外のパブリッシャー、もしくはデベロッパーも対象です。
特に社外デベロッパー、これまでコンソールゲームの分野で高い実績を示して来た会社と組むときは、アニメとゲームをワンポッドにしたような形での組成も考えています。それは純粋なアニメDVD・BDでの回収を目的とした製作委員会とはまた異なる形になるはずです。
たとえばアニメで3億、ゲームで3億、合計6億円を月の売上が同規模程度となって回収し、2~3年をかけて運用し収益を上げていく、といったことにチャレンジしたいと考えています。ゲームでの回収が見込める企画であれば、アニメの制作費をより潤沢に用意する余地も出てきます。
―― ローンチはしたものの数ヵ月も経たずに終了してしまうゲームタイトルも少なくないなか、アニメとの連携がその運用可能性を高めるということですね。
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