『Wake Up, Girls!』プロデューサー田中宏幸氏インタビュー
アニメは接客業である――エイベックスが声優を育てる理由
2014年06月13日 17時00分更新
アイドルグループの少女たちの成長物語を描いた『Wake Up, Girls!』(以下、WUG!)。アニメとしては王道の“アイドルもの”になるが、その作り方には挑戦があった。
主役の声優7名は全国オーディションによって選出。アニメ制作サイドでは、キャラクターを彼女たちの個性を重ねるように制作。声優サイドでは、選出メンバーを“歌とダンスができる声優”としてイチから育ててアフレコにのぞみ、イベントで全国を回っているという。
この大がかりな仕掛けのキーマンは山本寛監督、そしてエイベックスの田中宏幸プロデューサー。今回は、田中氏にエイベックスが声優を育てる理由と目指すものを伺った。カギは“愛着の作り方”。人は“自分で手を加えたもの”に愛着が沸く。
田中宏幸氏プロフィール
日本コロムビアで営業職を勤めたのち、2000年にエイベックス・グループ・ホールディングス入社。宣伝部を経て、アニメーション制作部門に。
現在はDIVE II ENTERTAINMENTのプロデューサーとして『Wake Up, Girls!』『這いよれ!ニャル子さん』『トータル・イクリプス』『ハマトラ』『ハナヤマタ』『DRAMAtical Murder』などのアニメ作品を担当。
また、声優ユニット「かと*ふく」(加藤英美里・福原香織)、「ゆーたくII」(小野友樹・江口拓也)などのプロデュースも手がける。
『Wake Up, Girls!』あらすじ
グリーンリーヴズ・エンタテインメントは、仙台で活動する弱小芸能プロダクション。しかし最後の所属タレントに逃げられ、社長の丹下は次の手としてアイドルユニットの結成を思い立つ。丹下の無茶振りにしぶしぶ街に繰り出しスカウトを始めたマネージャーの松田は、公園で一人歌を口ずさむ少女に出会う。その少女こそかつて国民的人気アイドルユニット『I-1クラブ』のセンターを務めながらも、ある事情で脱退した元アイドル、島田真夢であった。
スタッフ
原作:Green Leaves、原案・監督:山本寛、脚本:待田堂子、音楽:神前暁(MONACA)、
キャラクターデザイン:近岡直、色彩設計:辻田邦夫、美術監督:田中孝典、撮影監督:石黒晴嗣、CG監督:濱村敏郎、編集:奥田浩史、音響監督:菊田浩巳、音楽制作:DIVEⅡentertainment、アニメーション制作:Ordet × タツノコプロ、製作:Wake Up, Girls!製作委員会
オープニングテーマ:「7 girls war」(歌:Wake Up, Girls!)
エンディングテーマ:「言の葉 青葉」(歌:Wake Up, Girls!)
キャスト
島田真夢:吉岡茉祐、林田藍里:永野愛理、片山実波:田中美海、七瀬佳乃:青山吉能、久海菜々美:山下七海、菊間夏夜:奥野香耶、岡本未夕:高木美佑
岩崎志保:大坪由佳、近藤麻衣:加藤英美里、吉川愛:津田美波、相沢菜野花:福原香織、鈴木萌歌:山本希望、鈴木玲奈:明坂聡美、小早川ティナ:安野希世乃
松田耕平:浅沼晋太郎、丹下順子:日髙のり子
声優ユニット『Wake Up, Girls!』
2012年にエイベックスと声優事務所81プロデュースが共同で行なった全国オーディションによって結成された7人の声優グループ。アニメ『Wake Up, Girls!』の声優としてデビュー。歌、ダンスなどもこなし、各地でイベントに出演。
メンバーは、吉岡茉祐(島田真夢役)、永野愛理(林田藍里役)、田中美海(片山実波役)、青山吉能(七瀬佳乃役)、山下七海(久海菜々美役)、奥野香耶(菊間夏夜役)、高木美佑(岡本未夕役)。
『Wake Up, Girls!』Blu-ray 第4巻 6月27日(金)発売!
発売日:2014年6月27日(金)
価格:7560円(税込)
収録内容:本編第7話~第8話
特典
Wake Up, Girls!プロフィールカード【久海菜々美】(1枚)
初回封入限定特典
・ドラマCD
・ダンス教則映像『Wake Up, Dance!』
・複製台本(アフレコ時の実際の手書き書き込み印刷有)
・月刊『WU,G!』(特製ブックレット)
・SNSゲーム『Wake Up, Girls!ステージの天使』限定シリアルコード)
初回限定仕様
・ピクチャーレーベル仕様
・三方背BOX仕様(特殊パッケージ)
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Wake Up, Girls! 4 初回生産限定版 [Blu-ray]エイベックス・マーケティング
エイベックスが“声優”を育てる理由
―― エイベックスと言えば、歌とダンスを得手とするアーティストを数多く擁するレコード会社というイメージがありますが、アニメのフィールドで『Wake Up, Girls!』の7人を育てることになった理由を教えて下さい。
田中 今回は山本(寛)監督から「アイドルアニメを作りたい、しかもアニメと声優をリンクさせて新人を育てたい」というお話をいただいたことがきっかけです。ちょうど社内でも“アニメ部門の展開を広げたい”という話が出ていたこともありまして、(私も)やってみたいと思いました。
―― “アニメ部門の展開を広げる”というのは、具体的にはどんなことを。
田中 エイベックスのアニメ部門のビジネスというのは、アニメ制作に対して最初に出資をして、映像ソフトやキャラクター商品などで利益を回収していくスキーム(仕組み)なんですけれども、もう1つ異なる展開として、“声優”にも軸を置けるといいなと。
現在の声優さんは役を演じるだけに留まらず、イベントやライブなど様々な活動をしますよね。うちもステージを長年手掛けている会社なので、アニメ部門でもビジネスの枠を広げようと。
WUG!は前述の通り、新人をイチから育ててアニメのキャラクターを演じてもらい、全国で劇場をライブに見立ててライブツアーのように公開する構想でしたので、まずは新人のオーディションから始めました。
―― エイベックスさんの方針としては、アイドルと声優、どちらを軸にしたいとお考えでしたか。
田中 “エイベックスがやっている”というと、歌やダンスといった演技以外に軸を置いているんじゃないかというイメージで見られがちなので、誤解が出ないように明確にお伝えできればと思うのですが、アニメ部門で育てたいと思っているのは“声優”です。地に足が着いた、演技を軸にした声優さんをきっちり育てていきたいなと思っています。
WUG!では、声優プロダクションの81プロデュースさんと協業の形を取りました。演技に関しては81プロデュースさんが、歌やダンスはエイベックスがレッスンを担当しています。
―― (会社には)歌やダンスという強みがあるにもかかわらず、演技にこだわりを置いたのはなぜでしょうか。
田中 ファンの方々が求めるものを裏切りたくないからです。お客様がキャストを見たときに、「アイドルに軸を置いているな」とか「声優なんだな」というところは敏感に察知されるものなので。WUG!では、あくまで“声優さんがアニメでアイドル役を演じている”という説明をさせていただきながら進めました。
―― アニメのファンが求めているもの、というお話が出ましたが、たとえば他ジャンルのファンとは違った信頼関係の築き方があるということでしょうか。
田中 あると思います。アニメが好きな方は、アニメには現実の世界にはないファンタジーを求めていて、自分のなかで心地良いものにしておきたい。だから“お約束”を押さえたような、予定調和的なものが好まれる。
でも、その一方で“新しい刺激”も欲しているんですね。作品を提供する側としては、アニメは予定調和と新しい刺激のチューニングがすごく難しいジャンルだと思います。まったく刺激がなく、抵抗感がないものだと、さらっと流れていってしまうので。
WUG!は、アニメの作りとしては王道のアイドルものでありながら、新人声優をイチから育てて全国を回ってもらうという、アニメとリアルの両方にリンクしているところが新しい試みだと思います。

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