まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第62回
ゼネラルプロデューサー 田中宏幸氏インタビュー
愛されるキャラクター創造が軸――サイバーエージェントの新アニメレーベル CAAnimation
2018年12月29日 15時00分更新
軸はキャラクタービジネスにあり
「ゲームの販促」に留まらないアニメ制作を
サイバーエージェントが「CAAnimation(シーエーアニメーション)」という新しいアニメレーベルを立ち上げた。グループ会社のCygamesにはすでにアニメ事業部門があるなか、新レーベルにはどんな狙いがあるのか? エイベックスで『Wake Up, Girls!』などを手がけ、2018年2月にサイバーエージェントに移った田中宏幸氏(CAAnimation ゼネラルプロデューサー)にお話を伺った。
―― 新レーベルの立ち上げについては、直後に様々なメディアも取り上げられ、大きな注目が集まりました。まずはあらためてその狙いを教えてください。

田中宏幸氏。CAAnimation ゼネラルプロデューサー。日本コロムビアで営業職を勤めたのち、2000年にエイベックス・グループ・ホールディングス入社。宣伝部を経て、アニメーション制作部門に。数々の人気作をプロデュースしたのち、2018年にサイバーエージェントへ移籍。主な担当作品に『プリティーリズム・ディアマイフューチャー』『這いよれ!ニャル子さん』『Wake Up, Girls!』『ユーリ!!! on ICE』『ゾンビランドサガ』など
田中 ゲームとアニメを連動させてヒットさせていくための企画・原作開発が大きな目的となります。アニメについては僕がビジネスの座組を組んで、ゲームについてはエグゼクティブプロデューサーの落合雅也が企画・統括し、連携を図りながらプロジェクトをスタートさせようとしています。
もう1点は投資・資金調達で、2017年9月に立ち上げた「CA-Cygamesアニメファンド」が基盤となります。このファンドはCygamesとサイバーエージェントが組成し、ファンド総額は30億円となっています。こちらは僕も含めたスタッフが運用責任者となって、先ほどの企画・原作開発したタイトルへ投資します。現在約5~7本のタイトルを開発中です。
また、すでに10月より原作のあるアニメタイトルの放送が始まっていますが、これに対して「AbemaTV」への優先配信権や、ゲーム化の権利を取得するため、出資を始めています。これからも毎クール2~3本へ出資していく予定です。
企画・原作開発と投資・資金調達という2つの面があるのですが、僕自身エイベックスから移ってきたということもあって、パッケージやライブの経験を活かしつつ、サイバーエージェントグループが強みとするゲームや配信といったキャラクタービジネスの新領域へのチャレンジを進めます。
―― これまでも同じグループ企業のCygamesではアニメ部門を立ち上げ、ゲームのアニメ化についても積極的に展開されています。
田中 そうですね、ノウハウは蓄積されてきています。ただ、あくまでゲームが主であり、アニメはそれを支える存在であるという形が多かったような気がします。
CAAnimationでこれからやろうとしているのは、ゲームとアニメを同時に連動して展開していくということです。グループ内のゲーム会社10社以上とも連携を進めていきます。
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―― ゲームが主ではない、という点についてもう少し詳しく教えてください。メディアミックスコンテンツのIP(著作物)の1つとしてゲームを位置づけるということですか?
田中 そうですね。あくまでキャラクタービジネスなので、キャラクターと世界観・設定をクリエイターと一緒に作り込んでいき、その成果としてゲームやアニメに展開されるということですね。
じつは、5年くらい前から落合に「こういうことをやりたいんだけど……」と相談は受けていたんです。でもある種のアニメ文化の特殊性もあり、ゲームやITの側からアニメに対してアプローチするというのは、なかなか難しいものがあるのです。
たとえばスタジオをおさえたり、製作委員会を組んだり、そのなかでどういった、人・権利・ポジションを踏まえて動けばよいのか、といったことは外から見る限りわかりにくいのです。
―― たしかに属人的な部分が大きかったり、商流が外から見えづらかったりしますね。

『ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。』 © matoba/SQUARE ENIX·「ベルまま。」製作委員会
田中 そのため、アイデアがあってもなかなか実行できないという状況にあったというのが正直なところだと思います。アニメとゲームって似ているようで、文化・商流をはじめ人材やスキルも異なっているんですよね。だから、そこで間に入る人が大事なんだと思います。
―― 「配信」という面からは、近年、NetflixやAmazonが世界独占配信を前提に、日本のアニメタイトルに大きな予算を投じて調達しているとされます。そのことが、製作委員会のあり方にも大きな影響を与えているなか、この新しい取り組みはどういった意味を持つのでしょうか?
田中 海外の配信モデルは基本BtoBでファンの人たちにふれる前にディールがまとまっていきますよね。あくまで、BtoBの世界ですからそこだけに依存していくのは先々厳しいのではないかと。
一方、ゲームはどこまで行ってもBtoCの世界です。ファンの人たちの支持がお金という対価に変換されて、投資がリクープされていきます。僕は、これはとてもフェアな世界だと思っているんです。本来、アニメのDVD・Blu-rayといったパッケージもそういう世界だったはずなのですが、メディアビジネスとして厳しい時代を迎えてしまっています。
―― パッケージ市場が縮小する一方で、田中さんもWake Up, Girls!などで手がけたライブエンターテインメントの分野は伸びています。まさにファンの支持が直接ビジネスとなっています。
田中 たしかにそうなのですが、ライブの場合は確保できる会場・席数にキャップ(上限)があります。サイバーエージェントは、インターネットを主戦場としているメディア企業、代理店としての基盤がある上でゲーム事業を展開していますので、ファンの熱意という点では共通なのですが、キャップが実質存在していないというのが違いとして大きいと思います。

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