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日本のスポーツ事業の問題点と解決策とは

スポーツのビジネス化は企業依存を脱却し、コンテンツ強化が必要

2018年12月20日 06時00分更新

文● 本田雅一 編集● ガチ鈴木 /ASCII編集部 写真● 曽根田元

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マイナースポーツの常識を打ち破るT2PACの取り組み

 こうした”電波による放送”から”ネットによる配信”へと発想を転換することで、スポーツ事業の枠組みを刷新しようという取り組みとして高橋氏が挙げるのが、2017年に開催された「T2アジア太平洋卓球リーグ(T2APAC)」という、アジアを中心にグローバルに市場を広げようとしているプロ卓球リーグの事例だ。

 T2APACは世界の各国から24名の男女トップ選手が集まり、4チームに分かれて約半年間で全228試合を行い、勝敗やランキングに応じて賞金150万ドルが分配されるという、卓球界最大のプロリーグだ。

 賞金総額は、例えばコンピューターゲームを用いた「eSports」などと比べて大きなものにまでは成長していないものの(eSportsは1日開催のイベントでも優勝賞金だけで1億円を超える大会が数多く存在している)、卓球というこれまで大きなお金が動いてこなかったスポーツジャンルの大会としては異例の規模だが、そこにはスポーツ事業に関する新しい可能性が秘められている。

「卓球をプロ化」するため、リーグそのものの編成や試合の配信、ルール設定など、細かな部分を調整し、エンターテインメントとしての可能性を高めるためにあらゆることに取り組んでいるのだ。

 そのうちのひとつは”会場”にある。

 T2APACはマレーシアの映画スタジオで開催された。スタジオ内には卓球台を囲む観客席の他、トレーニングや練習用の卓球台なども配置され、テレビのリアリティショーさながらに、選手たちが過ごす様子や試合以外の練習風景なども中継され、盛り上げるための演出も随所に施される。

 卓球という競技は、スピーディーで駆け引きの要素もあり、また精神面での揺れが試合の流れを大きく変え、エンターテインメントとしての素養は十分だ。実際に観戦してみると、テニスよりも決着がつくまでの時間が短く、展開もどんどん進んでいき、息をつく暇もない。

 しかし、卓球にはプロスポーツ産業として発展するために欠けている要素もあった。

 最大の問題は、その迫力やスピードを「体験」することが難しいことだ。卓球台はご存じの通り小さく、さらにボールも小さく視認しにくい。さらに、しかもボールの速度が速いため、大きな会場で多くの観客を集めてプロの試合を見せるには無理がある。

 卓球台の近くにいれば感じられるダイナミックな試合展開やスピード、驚くようなボールの変化や緊張感などを感じにくいのである。

 そこでT2APACは、生観戦を中心としたビジネスモデルではなく、ネット中継を前提としたビジネスモデルとすることで、新しいスポーツビジネスの枠組みを作ろうとしている。 「卓球のように市場として大きくなっていないスポーツジャンルは、プロ化に向けて新しい枠組みを作りやすい。そうした中で、テクノロジーと融合したとき、どんな事業の可能性があるのか。そのよい事例がT2APACだ(高橋准教授)」

 3回目となる次回は、T2APACの例をもとにコンテンツ産業としてのスポーツの可能性を考えていきたい。

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