4K動画のリアルタイム配信 スポーツスタジアムでの5G活用の可能性
日本で5Gは2020年にスタートする計画だ。
もちろん、この年が設定されたのは、東京オリンピック・パラリンピックが開催されるためと言われている。韓国でも、2018年2月に開催された平昌冬季オリンピック・パラリンピック会場周辺などで、5Gの電波が試験的に飛ばされたりもした。
世界が注目するオリンピック・パラリンピックの会場で、最先端の技術を披露することは、その国の技術力をアピールする最高のチャンスとなる。
そのため、日本も韓国もオリンピック・パラリンピックを契機に、5Gによって、新しいスポーツ観戦のスタイルを作り出そうとしているわけだ。
東京オリンピック・パラリンピックにおいては、NTTグループが公式スポンサーとなっているため、会場周辺ではドコモが主体となって、5G関連のデモを披露することになるだろう。
しかし、ライバルキャリアも負けてはいない。KDDIがプロ野球スタジアムにおいて、5Gを用いた新しい観戦スタイルの実証実験をしたのだ。
2018年6月27日、沖縄セルラースタジアム那覇。この日、実施された日本ハムファイターズ対福岡ソフトバンクホークスの試合。KDDIは、3塁側の照明に、5Gの基地局を設置。28GHzの周波数帯を使い、1塁側のスタンドに向けて5Gの電波を発射させた。
1塁側のスタンドには、10台の5Gタブレットを配置した。
さらに、グラウンドをグルッと囲む形で16台の4Kビデオカメラも設置。ビデオカメラで捉えた映像をタブレットで視聴できるという仕組みだ。
ただ、映像をそのまま流すのでは何ひとつ面白くない。
球場内の仮設サーバールーム(同じ部屋には場内販売用の応援グッズなどのダンボールが山積みになっていた)にコンピューターを持ち込み、16台の4Kビデオカメラからの映像を合成するシステムを作り上げていた。
実際にタブレットで視聴してみると、バッターの様子が、上下左右にグルグルと自由な視点で視聴することができるようになっていた。
これは、16台のカメラからの映像を合成し、作り出した映像なのだが、1台のタブレットに対して、1台のGPU搭載のパソコンが専用の映像を作り、配信するという贅沢な構成に作り出された映像となっていた。リアルタイムの映像にもかかわらず、まるでCGのような、ちょっと不思議でありえないような視点で見えるのがかなり目新しさを感じた。
この映像を送信するのが、球場内に作られた5Gネットワークというわけだ。
5Gの特長は主に「高速大容量」、「超低遅延」、「多端末接続」の3つとされている。
4K映像を複数の端末に流すには高速大容量が必要だ。また、目の前でリアルタイムに展開するスポーツの中継に使うには超低遅延が求められる。もちろん野球スタジアムのような数万人が入り、それぞれの人がスマホやタブレットを持つようにあると多端末接続に耐えられなければならない。まさにスタジアムでのスポーツ観戦で、スマホやタブレットに向けて映像を配信するという環境は、5Gネットワークのポテンシャルが最大限に発揮できる場所といえるのだ。
実際に沖縄セルラースタジアム那覇での実証実験を取材したが、目の前で展開されている試合の動きにほとんど遅れることなく、ほぼリアルタイムに映像が手元のタブレットに配信された。おそらく0.5秒ぐらいの遅延でしかなかったようだ。
カメラが撮影し、映像の合成を処理すれば、どうしても遅延が発生してしまう。今回の実証実験では5Gの通信においてはほとんど遅延は発生していなかったが、こと映像処理の部分が0.5秒の遅延となってしまったようだ。ただ、実使用においては、概ね問題のないクオリティーを確保できており、実験は成功と言えたのではないか。
これが、Wi-Fi経由ともなると、さらに通信部分での遅延が発生し、満足のいく配信は難しくなる。このほかにも大量のデバイスがWi-Fiを使っている環境となると干渉がおき、通信に悪影響が起こったりもする。その点、5Gであれば、多数の接続にも強いというメリットが生かされてくる。
ただ、5Gが完璧かと言えば、決してそんなこともない。
今回の実証実験でも、タブレットの前に人が立ってしまうと電波が受信できなくなるという課題もあった。28GHzの電波は直進性が強いため、障害物に弱いという特性がある。
こうした課題も「スタジアムの場合、ドーム球場であれば屋根に基地局を設置して、上から電波を吹くということができる。こうすれば人が障害物になることなく、タブレットやスマホとの通信が可能になる」(担当者)という。
2020年の5Gスタートに向けて、こうした実証実験を積み重ねることで、可能性と課題を徹底的に洗い出しているようだ。