薄くて軽い「EXILIM」が登場
そして2002年、カシオが動いた。
デジカメが高性能化高倍率ズーム化高画素化するにしたがって大きく重くなり、使われ方もカシオが当初描いていた「ビジュアルコミュニケーション」というよりは、昔ながらのカメラの延長線上で落ち着こうとしていたのである。
いやそこで落ち着くのはまだ早いと、一度原点に戻るべく投入したのが「EXILIM」。
初代EXILIMは100g以下で厚みは11.3mmの超薄型カードサイズカメラ。毎日携帯して気軽に撮るという新コンセプトのカメラだった。
その分、ズームもないしフォーカスも固定式だったが、まだスマホのない時代、ポケットに入れて持ち歩くビジュアルメモには最適だったのだ。ある意味、今のスマートフォンのカメラに近づいた逸品だった。
とはいえ、EXILIMもなんだかんだいって薄型は維持したものの、ズームレンズを搭載した普通のコンデジになっていくことになる。
その後、薄型ズーム路線を維持しつつ、高性能モデルや高倍率モデルも投入し、画素数も600万画素になって写真として十分なクオリティーを実現。コンパクトデジカメ界はピークを迎えるのだった。
今のデジカメの機能を先取りした製品が続々登場
2008年(10年前だ)、カシオは新しいコンセプトを打ち出す。超高速カメラだ。ソニーが新開発した高速イメージセンサーをいち早く採用。秒60コマの連写やハイスピード動画を実現した「ハイスピードEXILIM EX-F1」の誕生である。
2009年にはよりコンパクトで安くなった「EX-FC100」が登場。猫おもちゃを持って猫と遊びつつ高速連写したものである。
あれは面白かったなあ。今は高速連写も珍しくないけれどもあの頃は画期的だったのだ。
もう1つ、個人的に忘れられないカメラがある。「EX-H20G」である。1代だけで終わってしまったカシオで唯一のGPS搭載コンデジ。
これがすごかったのは、おおまかな地図を内蔵していたことと、GPS+内蔵のジャイロセンサーの組み合わせで屋内でもある程度位置情報をとれたこと。私の知る限り、GPS搭載カメラではこれが一番優秀だった。
2011年、カシオはさらに意欲的でヘンなコンデジを投入する。「EX-TR100」である。
なんといったらいいのかわからないが、薄くて単焦点で見た目はゴツいスマホみたいで、広角レンズを搭載して、カメラ部とディスプレー部がぐりぐりと回転して、簡単に言えば「自撮りメインのコンデジ」だ。
これ、日本では全然売れなかったのだけど、ちょっとしたことで東アジア方面で火が付き「自撮り用カメラ」として大ヒット。「自拍神機」とまでいわれた。品不足となり、在庫があった秋葉原まで買いに来たという逸話があるくらい。
その後、このシリーズは日本ではほとんど発売されなかったので(厳密にいえば一度だけ発売されたけど、海外からの観光客に買いあさられたという噂だ)見たことない人も多いだろうが、そういう製品があったのである。
これがAndroidを搭載してスマホになったら面白いのに、と思った記憶がある。その後、中国や韓国製のAndroid機は自撮り機能に力を入れ、美肌処理も大きく進化している。
普通のEXILIMシリーズは回転するディスプレーや持ちのいいバッテリー、自撮りデジカメで鍛えられたであろう「優秀な美肌処理」などを背景に通常進化。
このシリーズは実にサクサク動いて使いやすくてよくできてはいたのだが、いかんせん、iPhoneを筆頭とするスマホの台頭、高級コンデジやデジタル一眼の間にはさまれ、通常進化ではつらくなる。
そしてカメラ部とディスプレー部が分離してフリーアングルで撮れる「FR」シリーズを2014年に投入するなど挑戦は続けたものの、そのユニークさが受けいれられる前に、コンデジ市場の急激な縮小に耐えられなくなったという感じだろうか。
かくして、ビジュアルコミュニケーションという新しい概念で「世界ではじめて液晶モニターを搭載してなおかつカメラ部が回転して自撮りもできる」デジカメを送り出したカシオのカメラ史を猫写真で振り返ってみるという考えてみたらよくわからん企画だったのだけど、ああカシオがデジカメという市場を開拓し切り開いたのだなあと思っていただければ幸いである。
さて前ページの冒頭写真は、今一番気に入っているカシオのコンデジで撮ったもの。「EX-ZR4000」という超広角ズームを搭載したカメラである。これ、19mm相当からの超広角で、適当に持ち歩いて日常を記録するのにすごくいいのだ。しかも撮った写真をスマホに自動転送してくれる。
現行機は「ZR4100」だけど、後継機はたぶん発売されないので、買うなら今のうちかも。
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老舗のデジタル系ライターだが、最近はMacとデジカメがメイン。ウェブ媒体やカメラ雑誌などに連載を持ちつつ、毎月何かしらの新型デジカメをレビューをしている。趣味はネコと自転車と古道散歩。単行本は『ともかくもっとカッコイイ写真が撮りたい!』(MdN。共著)、『デジカメ撮影の知恵 (宝島社新書) (宝島社新書)』(宝島社新書)、『デジタル一眼レフカメラが上手くなる本』(翔泳社。共著)、『東京古道散歩』(中経文庫)、『古地図とめぐる東京歴史探訪』(ソフトバンク新書)、『古地図でめぐる今昔 東京さんぽガイド 』(玄光社MOOK)。Twitterアカウント @ogikubokei。ブログは http://ogikubokei.blogspot.com/
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