20世紀に活躍した名指揮者、レナード・バーンスタイン。彼は晩年に来日し、札幌の「パシフィック・ミュージック・フェスティバル」でシューマンの交響曲第2番を指揮しました。そこで、若い音楽家たちの混成オーケストラに対し、リハーサルで以下のように伝えています。
「あなたが、自分は音楽家になれるだろうか、という疑問を抱いたとしたら、その答えは常にNOです。疑問を抱いたがゆえにそうなのです。まるで禅問答のようですが。あなたが、自分は音楽家になる、と思えば、そのとき、あなたは音楽家になっているでしょう」
では、カップ焼きそばも、自分は炒飯になると思えば、そのとき炒飯になっているのでしょうか。頭がおかしくなったわけではなく、まるか食品「ペヤング 炒飯風やきそば」の前でそんなことを考えています。価格は184円でした。
先週「ペヤング たこやき風やきそば」を食べておおいに悩みましたが、今度は炒飯ときた。50年以上続くロングセラー商品「あみ印食品工業株式会社 炒飯の素」を再現したというコラボ商品です。野菜の甘味と濃縮された香ばしいごま油の風味が効いた「炒飯」の味に仕上げたとのことです。
“「あみ印食品工業株式会社 炒飯の素」を再現した”というあたりがポイントでして、要するにこれ、炒飯を再現したわけではなくて、「炒飯の素」を再現しているのですよね。だから炒飯そのものでもなくてもよい、というロジックなのかもしれません。
ソースもかやくも、いつものペヤングとは違います。ソースは少しとろりとしていますし(ごま油の香りもほのかに)、かやくはいつものキャベツではなく、豚肉とたまごとねぎですからね。炒飯要素はあります。
とはいっても、米ではなくて麺なので、どうがんばっても炒飯には見えませんが。カップ焼きそばです。匂いも外見もいつものペヤングとは違いますが、見てくれに関していえば炒飯要素はほとんどありません。
一言で言えば、炒飯の素で味付けしたカップ焼きそばです。いや……その、ほんとうにそうなんです。ソース焼きそばというより、中華風の味になっていまして、ペヤングのイメージはほとんどないです。
塩気は効いていて、ちょっと単調な味になりそうなところを、かやくの豚肉とたまごがうまくおぎなっています。カップ焼きそばとしては、シンプルながらよくまとまっている。ジャンルとしては、中華風の塩焼きそば、と形容すればよいでしょうか。
まるか食品は「激辛か……めっちゃ辛くしたろ!」「超大盛りか……量を2倍にしたろ!」のように、非常にシンプルな発想による製品展開を得意とするメーカー。炒飯の素を再現したというだけあり、化学調味料的なエッジの効いた塩辛さとジャンクな味わいでもって、いつものペヤングとは一味違う焼きそばにしたところは評価できます。ただ、「炒飯風ですか?」と言われると、むずかしいなあ……。
盛田さん「『炒飯(概念)』という感じですね。味としては悪くなくて、もう一度食べたいかと聞かれれば、食べたい、と素直に答えたい完成度はあります。いつものペヤングと大きく違う仕上がりだから、気分を変えたいときにはいいんじゃないでしょうか。結局、炒飯風ってなんだよ、とは思うけど」
炒飯風という時点で、炒飯そのものではないのですから、カップ焼きそばが炒飯風と名乗っても別におかしくはないわけです。たしかに、「だいたいの炒飯ってこんな味だよな」みたいな感じの焼きそばにはなっています。おいしいといえば、おいしい。具材も炒飯っぽいし。
しかしながら、結局のところ炒飯は“飯”なわけで、あの米粒の食感がないと、炒飯風というよりは中華風の調味料を使ったカップ焼きそばにしか思えないのも事実。先述したように、「炒飯の素を再現した」ということですから、そこに文句を言ってはいけないのかもしれませんが。
バーンスタインの言葉を借りれば、これは炒飯風なのだろうか、という疑問を抱いたとしたら、その答えは常にNOなのかもしれません。疑問を抱いたがゆえに。あなたが、これは炒飯風になる、と思えば、そのとき、ペヤングは炒飯風になっているでしょう。たぶん。
モーダル小嶋
1986年生まれ。担当分野は「なるべく広く」のオールドルーキー。ショートコラム「MCコジマのカルチャー編集後記」ASCII倶楽部で好評連載中!
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