気をつけたい沼への大きな入り口
問題はMMCX対応機としてこのイヤフォンは安すぎることだ。ちょっとしたケーブルを選ぶと、簡単にイヤフォンの価格を超えてしまう。気に入った色、気に入った質感のケーブルが選べるのは魅力だが、それに加えてケーブルによる音質の違いを云々し始めると、沼に落ちる。マニア予備軍ホイホイ的なヒキの強さには要注意だ。
今まではSHUREの「SE215」がそうした筆頭の機種で、シングルのダイナミック型ながら音質的にもバランスが良く、かつリケーブルもできる。実売価格は1万円前後だから、ハードルは半分以上下がってしまったわけだ。安く済ませたいなら「断線しても簡単に交換できる」ことを、まずはMMCX対応のメリットと考えたい。
音質に関しても、値段なりに満足度は高い。ドライバー構成から言えば、高域はもう少し伸びてほしいし、中高域の解像感もバランスドアーマチュアとしては、もうちょっと欲しいところ。でも、それはほかのハイブリッド型と比べた話であって、価格帯で言えば、コンペチターはシングルのダイナミック型がふさわしい。
小口径のダイナミック型を使ったものの中には、バランスドアーマチュアに匹敵する高域の解像感と、タイトな低域がバランスした機種もあるが、Bd005Eの美味しいところは、下に伸びた低域の量感にある。ローエンドの音圧感からか、独特のコンプレッション感をともなうように感じられ、上の帯域を邪魔しない。低域に重点を置いたシングルのダイナミック型は、おおむね全体的な解像感に不満が出てくるが、その点でBd005Eにはハイブリッド型の利がある。
加えてそれがリケーブルもできるイヤーモニター型となれば、全体のコストパフォーマンスはびっくりするほど高い。一度試して音が気に入らなかったとしても後悔のない値段だ。安くて遊べる機種としてもお勧めしたいが、ぽっかり空いた沼の入り口にはくれぐれも気をつけて。
四本 淑三(よつもと としみ)
北海道の建設会社で働く兼業テキストファイル製造業者。
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