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松村太郎の「西海岸から見る"it"トレンド」 第201回

身近で目立ち始めたこれまでとは違う「自転車」と、シェア○○の悪い部分

2018年02月21日 10時00分更新

文● 松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII編集部

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 放置自転車は、日本の駅前で発生する問題として、昔から語られてきました。マナーやモラルの問題以上に、歩道のスペースがなくなり、人と車が接触しやすくなる安全面の問題も大きいと言えます。

 駅前の駐輪場が整備がすすみ、通勤や通学に駅までの自転車が絶対必要な人への対策も進んでいますが、たまたま今日自転車で駅まで行きたい人にとっては、すでに月極で埋まっている駐輪場を前にして、そもそも「自転車」という移動手段を諦めるしかない事実を突きつけられたりします。

ロゴからもわかるかもしれませんが、アメリカではあの自動車メーカーのフォードがシェアバイクのビジネスに参入しているのです

使うとき以外はコストを払わなくて良い
“持たない世代”にとっての理想的なサービス

 「そうだ、シェアサイクルだ!」

 共有の自転車を駅前で乗り捨てれば、駐輪場のことを気にすることなく、また誰かが乗って行ってくれるだろうから駅前の放置自転車の問題も解決するんじゃないか。これは確かにうまくいきそうに思えます。

 持たない世代、シェア世代のアイディアとして、「シェア○○」や「○○シェアリング」が急速に広がっています。

 たとえばクルマで考えてみると、駐車代やガソリン代、メンテナンス費用、車検費用、保険、税金などのすべての費用が含まれていて、使うときだけ料金を支払えば、あとのことは気にしなくて良いという、素晴らしいサービスです。

 米国では、駐車場も税金も比較的安いため、日常的にクルマを使うなら、割と早い段階でコストメリットが薄れてしまいます。しかし東京では、駐車場のコストだけで、カーシェアリングを利用するコストメリットが勝ります。

シェア○○の悪い部分

 先日日本のドラマを見ていたら、「ともだちシェアリング」なるサービスが利用されている様子を見て、なるほどと思いました。ともだちを日頃からメンテナンスするコストも、気も使いたくない。それでいいのか? という疑問の余地は大いにありますが、シェア○○のロジックとしては成立しています。

 しかし、本当は「気まで使わなく良い」わけではないのです。

 先日日本に戻って品川駅の港南口を歩いていたら、赤いシェアサイクルの自転車が駅前の歩道を埋め尽くしていました。1列の自転車ラックでは到底収まらない、5倍ぐらいの台数の自転車がすでに埋まっているラック周辺に向けられている様子は、不気味さすらありました。

 品川駅で自転車を降りて電車に乗り換える、というシェアサイクル利用者の行動パターンに対して、完全に返却ラック側の容量不足を引き起こしていたわけです。

 ラックに戻せばあとは私の責任ではない、という利用者の「シェア○○利用者」としての価値感が、結果的にシェア○○が街から排除される原因を作り出している。そんな様子を目の当たりにしたようでした。

バークレーでも放置自転車の新たな問題

 さて、サンフランシスコ周辺都市には、「Ford GoBike」といわれるシェアサイクルのラックが急速に普及しています。片道3ドル、1日9ドルといった価格で、自転車を利用することができるサービスを、あの自動車メーカーのフォードがバックアップする点はなんとも面白い構図です。

 というのも、戦前のバークレー周辺ではキーシステムという企業が巨大な路面電車網を築いていました。しかし、自動車メーカーであるGMなどによって設立されたベンチャーによって敵対的買収が行なわれ、路面電車はすべて廃止、バス路線へと転換されました。クルマの代替となるものを地域から排除した歴史がある中で、今度は自動車メーカーが代替交通手段の肩を持っているのは、どういう心境の変化なのでしょうか。

 このシェアサイクル、ラックはこまめに設置されていますが、それでもあくまでラックからラックへの移動となるため、完全に自由な移動を自転車で楽しむには至りません。そこで広がり始めたのが、新しいシェアサイクルの仕組みです。

 LimeBikeはその名の通り、ライムグリーンに塗られた自転車を、ラックなしでシェアする仕組みです。自転車にはGPSが備わっており、アプリから身近な自転車を探して、好きな場所に乗り捨てて良いというものなのです。

本来は誰でも停めることができる公共のラックですが、シェアバイクの「LimeBike」の自転車が停められていることが増えてきました。このサービスの利用者にとっては便利かもしれませんが、利用していない人や自分の自転車を停めようとした人にとっては、公共のリソースにただ乗りしているように感じるかもしれません

 アメリカでは、自治体が歩道に自転車をくくりつけることができるラックを用意しており、そこに自転車に内蔵されるロックをつければ乗り捨てられるのです。標識のポールでもOKなので、住宅地でも乗り捨てることができます。

 サービス側からは、工費が高く一定のスペースを占有してしまう専用ラックを設置する必要がなく、すぐに地域で利用できる点をアピールしています。

 シリコンバレーエリアでは、サンフランシスコ市内でJUMPという赤い自転車がUberと連携し、また北京のスタートアップであるOfoも、同じくラックがないシェアバイクのサービスをスタートさせ、注目を集めている最新のシェア経済と「エコ」のサービスになっています。

 と、サービス側の立場で説明すれば、ラックなしで移動のさらなる自由さを手に入れたシェアサイクルとなるのですが、そのアプリを使っていない人からすれば、単なる“放置自転車”にほかなりません。

 当然のことながら、自分の自転車で移動してきてレストランに入ろうとしたら、目の前の公共の自転車ラックがLimeBikeで埋まっていた、なんていうことが起き始めているわけで、結局のところ都市のリソースを奪い合う競争を繰り広げることになってしまっているのです。

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