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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第439回

業界に痕跡を残して消えたメーカー IBMとHPC市場でガチンコ勝負を繰り広げたAmdahl

2017年12月25日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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 今回取り上げるAmdahl Corporationは、よく名前の出てくるアムダールの法則を提唱したGene Amdahl博士が興した会社である。

 実はこのAmdahl Corporationは富士通と非常に深い関係があり、最終的には富士通が吸収合併する形になっている。Amdahl Corporationと富士通、というよりはAmdahl博士と富士通のコンピューター事業の中興の祖とでも言うべき池田敏雄氏が深い関係があったというべきか。

 どういう具合に2人が知り合い、そして意気投合して、ビジネスを行なうようになったか、という歴史は立石泰則氏の「覇者の誤算 日米コンピューター戦争の40年」の第十章以降に詳しいが、幸いアスキーには遠藤諭氏の記事もあるので、こちらを見ていただければ概略はわかると思う。ただ今回は富士通との関係というよりはAmdahl Corporation単独での歴史を紹介したい。

IBMを辞めIBMに再就職した
アムダール博士

 Amdahl博士は1952年にIBMに入社後、IBM 704/709/7030といったシステムに携わっている。IBM 704やIBM 7030は連載272回で紹介したが、特にIBM 7030はスパコンの元祖とも言うべきものである。

 ただ博士は1955年に一度退社している。1989年のAmdahl博士へのインタビューによれば、「この組織(IBM)にいる限り、自分の欲しい事柄を自分で制御するのは不可能だとわかった。この組織はますます大きくなるだろうし、その片隅で余生を過ごすのは真っ平だと決めた。」というのが理由だそうで、5年ほど防衛関連企業で勤めた後、1960年に再びIBMに戻ってくる。

 これはIBMからのリクエストで、System/360の開発におけるチーフアーキテクトの職を提供されたことで、以前に比べるとかなりIBMの官僚組織内における自由度が増したから、というのがその理由らしい。

 System/360の開発は1964年に一段落し、その後Amdahl博士はIBM Fellowのポジションに昇格、1966年末に開設されたACS(Advanced Computing Systems) Laboratoryのトップとなる。ACSはいわゆるスーパーコンピューターを開発するためのプロジェクトで、1965年にスタート、1966年には拠点も定まってAmdahl博士も本腰をいれてこれに取り組む。

 もともとACSではACS-1という、強いて言うならCDC 6600に近いようなアーキテクチャーを検討していた。これはおそらくはCDC 6600の発表時にIBM社内に回されたメモの影響が大きかったものと思われる。

Watson Jr.氏がIBM社内に回した覚書。画像はComputer History Museumより

 しかしAmdahl博士はSystem/360との互換性を保ったAEC/360を提案、ACS内部で討議の結果はこのAEC/360が優れているという判断となった。ちなみにAECは“Amdahl-Earle Computer”の略で、アーキテクチャーの検討を行なったAmdahl博士とJohn Earle氏の名前にちなんでいる。

 ところが、実際にAEC/360が開発されることはなかった。理由の1つは、NY州ポキプシー市にある拠点でSystem/360の強化版の開発がACSとは別に行なわれており、こちらが優先されたようだ。1969年5月にACE/360の提案は公式にキャンセルされる。

 幸いというか不幸にもというか、この頃Amdahl博士は椎間板ヘルニアで9ヵ月あまりも入院しており、動けるようになったのは1970年に入ってからである。これに先立ちAEC/360のキャンセルを受けてACS Laboratoryのメンバーは他の研究所に移籍を始めており、8月に最後のミーティングを開いた後でACS Laboratoryは解散、Amdahl博士は9月、IBMを再び退職する。

 ちなみに、池田氏がAmdahl博士と初めて会ったのは「覇者の誤算」によれば1968年の春のこととされる。ACS-1とAEC/360の勝負の決着がついたのは1968年5月なので、まさにACS-1との勝負が行なわれる直前の時期だったのだろう。

再びIBMを辞職し自ら会社を興す

 IBMを辞職したAmdahl博士は、当初あちこちからの引き合いを検討したものの、博士が作りたいような製品を作らせてくれそうな会社はないと判断、自分で会社を興すことにする。これがAmdahl Corporationである。

 当初は博士と、当時はまだ若きファイナンシャルアナリストだったRay Williams氏、それと秘書だけで構成されていた同社の最初の仕事は資金集めだった。

 博士が考えていたシステムを構築するには、およそ3300万~4400万ドルほどかかる(実際には4750万ドルを要した)と見積もられたが、当時はちょうどキャピタルゲイン課税がかかり始めた時期で、景気後退もあって資金集めは難航。1970年中はHeizer Corporationからの200万ドルだけだった。

 ただ1971年には富士通が(Amdahl博士の保有する特許の利用を条件に)500万ドル投資を行ない、後に増資をしている。1972年にはドイツのNixdorf Computersが600万ドルの投資を行ない、ほかの米国の投資家も合わせて2000万ドルほど集めることができた。

 これに続き1973年には株式公開も目論むものの、Amdahl Corporationの株の引受会社が見つからず、しかも株式市場が低迷しているということもあり、引き続き非上場のまま進行せざるを得なかった。

 これと並行してエンジニアも集まってきた。Amdahl博士は直接的にはIBMのエンジニアを1人も引き抜いていないが、ACS Laboratories閉鎖後にIBMを辞めたスタッフが興したMASCOR(Multiple Access Systems Corporation)やBerkeley Computers、Gemini Computersといったメーカーからエンジニアが集まり、設計チームを形成する。

 この設計チームを率いてAmdahl博士はSystem/360互換となるシステムの開発を始めるが、1972年にIBMがSystem/370を発表したことで一度振り出しに戻る。

 設計チームが想定していたマシンとSystem/370は良く似ていたが、System/370が仮想記憶をサポートしていたのに対し、これが欠落していたためである。博士は途中まで進んでいたデザインを一度破棄し、もう一度設計のやり直しを行う羽目になった。

 1974年にはFairchild Camera and Instrument Corporation(Fairchild Semiconductorの出資社)の副社長だったEugene R. White氏がAmdahl Corporationの社長に就任する。

 彼は従業員のうち、製品の完成に直接役立たない約半数を解雇するとともに、マーケティングとフィールドサポートサービスに集中させる。さらにHeizerや富士通への出資増額の交渉も行ない、これで同社は存続し、製品を出すことができるようになった。

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