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“ギガが減る”時代の必須インフラ、「つながる」ではなく「使える」を目指すこだわり

バス車内にも広がるフリーWi-Fi、その裏側をWi2とラッカスに聞いた

2017年12月20日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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裏側では地道なチューニング作業も続く、フリーWi-Fiならではの努力

――もう少し技術的な裏側を教えてください。当然ながらバスは移動するわけですが、どのように運用管理されているのでしょうか。

Wi2 辻氏:すべてセンター側でリモート監視/管理をしており、障害発生などはこちらでわかります。ただし、営業を終えたバスが車庫に入ると電源もオフになりますから、単なる電源オフと障害との見極めは少しコツがいるところです。

 機器障害の発生に備えて、先ほどお見せしたボックスをバス会社に幾つか在庫しておいていただき、バスが車庫に入ったタイミングで丸ごと交換していただくこともあります。

ラッカス 小宮氏:リモート管理を行うコントローラーソフトもラッカス製で、au Wi-Fi SPOTで使われているものと同じです。物理的に機器交換をすると、センター側から自動的に新しい設定データが送信され、バス会社のSSIDや最新の設定が反映される仕組みです。

 バスでも街中のカフェでもそうなのですが、営業終了後には電源が落とされるので、Wi-Fi機器は自然にリフレッシュされます。そのため、リモートからソフトウェアリセットを行うケースはかなりまれです。また、フリーWi-Fiでは原因特定よりもサービス復旧を優先するケースが多く、そうなるとハードウェアを取り替えるほうが早い。このあたりは、企業内で使う無線LANとは考え方が少し違いますね。

――なるほど。ほかにもフリーWi-Fiならでは、と言える部分はありますか。

ラッカス 小宮氏:バス車内に限らず、フリーWi-Fiの場合は「不特定多数の端末がターゲット」という点も考えなければなりません。実は、端末側に起因する“接続の相性問題”がしばしば発生するのですが、Wi-Fiのスタンダードから考えると「この端末は少しクセがある(標準仕様から外れている)」といったケースでも、なるべく対応したいと考え、こまめにAPのチューニングを行っています。

 せっかく新しい端末を買ったのに、前の端末よりWi-Fiのパフォーマンスが落ちてしまうのは、ユーザーとしては残念じゃないですか。そんなことがないように、個々の端末がどういう特性で動作しているのか、リバースエンジニアリングして最適なパターンを見つけ、ソフトウェアを改修し、先ほど紹介したリモート管理の仕組みで全国のAPに配信する。こうしたチューニング作業を、およそ半年に1回ずつ行っているわけです。

――ユーザーは気づかないかもしれませんが、裏側ではそうした地道な努力をされているのですね。

ラッカス 小宮氏:ラッカスはグローバルのホットスポット市場でナンバーワンのシェア(通信事業者向けWi-Fi市場、2015年Q2 Dell'Oro社調査)を持っており、そのノウハウを生かしてチューニングしていますから、世界中どこの国から端末を持って旅行に来られても、快適につながるはずですよ(笑)。

 先ほども触れましたが、ラッカスのAPは独自のアンテナ技術で“つながる力”が強いのが特徴です。最近は各社とも技術レベルを向上させていますが、その中でもラッカスは最後数メートルの“つながる力”が強いと言えます。つながったら切れない、だから再送も起きない、結果としてスループットが高くなる。これもアンテナ技術のおかげです。

 ただし、その一方で「つながる」と「使える」とは違うカテゴリだということも考えています。最終的には、サービスとしての使い勝手を最適化することが大切ですから。

――「使い勝手を最適化する」とは、具体的にはどういうことですか。

ラッカス 小宮氏:たとえば、現在のスマートフォンはWi-Fiとセルラー(LTE電波)の両方に対応していますが、Wi-Fiに接続できたらそちらを優先しますよね。ただし、場合によっては遅いWi-Fiをつかんでしまって、セルラーに切り替わるまでしばらく通信できないことがあります。バスの場合でも、道を歩いていたら通りかかったバスのWi-Fiに接続され、そのあとバスが走り去ってしまってしばらく通信ができないとか。

――ああ、それはわたしも経験があります(笑)。

ラッカス 小宮氏:そこで、通信状態が悪い場合にはAPの側から「切断してあげる」ことも、使い勝手の最適化のひとつだと言えます。実際にこれは今、KDDIさんなどとチューニングに取り組んでいるところです。これが企業で使うAPならば「つながったらできるだけ切断しない」のが大切ですから、ここでもフリーWi-Fiは少し違う特性があるわけです。

 このようなフィードバックを通信事業者さんからいただき、どんどん細かなチューニングを行っていくことでWi-Fiサービスの品質を高め、結果としてラッカスAPの採用継続につなげていきたいと考えています。ラッカスにとって日本は大きな市場ですから、日本の声も製品に反映されやすいですし、同時にグローバルのノウハウも、製品というかたちで日本のお客様にご提供できます。

フリーWi-Fiの提供を継続するためには「マネタイズ」が課題になる

――さて、日本でも訪日旅行客の増加をきっかけにフリーWi-Fi環境の整備が進んでいるわけですが、今後はどのように発展していくと見ていますか。

Wi2 辻氏:バス市場については、今後もさらに拡大していくと思います。ご存じだと思いますが、最近の高速バスは座席が大きく広くなったり、USBの充電ポートが設置されたりしています。それらと同じように、フリーWi-Fiサービスも「快適なバスサービス」のひとつとして認識されつつあります。

 海外から来られたユーザーだけでなく、最近では日本のユーザーもフリーWi-Fiを積極的に利用するようになりました。この数年で、一般の方が日常的に「Wi-Fi」という言葉を使うようになりましたよね。

ラッカス 小宮氏:以前はセルラーのデータ通信が無制限で使えましたが、データ量の制限ができた3年ほど前から、日本のユーザーの意識も「フリーWi-Fiがあるなら使おう」と大きく変わったのだと思います。

――高校生が「ギガが減る」のを気にする時代ですからね(笑)。

Wi2 辻氏:フリーWi-Fi全体としては、やはり品質改善を続けていくことが課題だと思います。無料だからといってサービス品質の悪いものがあると、フリーWi-Fi全体のイメージが悪くなります。

ラッカス 小宮氏:そうですね、やはりきちんと「使える」サービスを提供しないと。

Wi2 辻氏:またWi2では、2014年から訪日旅行客向けの「Travel Japan Wi-Fi」アプリを提供しています。これをスマートフォンに入れていただけば簡単にフリーWi-Fiにつながるというもので、観光庁の調査でも明らかになった、日本のフリーWi-Fiに対する不満を解消する狙いがあります。

訪日旅行客向けの「Travel Japan Wi-Fi」アプリ。20万以上のWi-Fiホットスポットにフリー接続が可能(画像はWebサイトより)

 同時に、このアプリをたくさんの訪日旅行客にご利用いただくことで、その動向がデータとして分析、把握できるようになっています。このデータには地方自治体などからも興味を持っていただいています。

小売店などは「Travel Japan Wi-Fi」アプリを通じて旅行客向けに広告やクーポンを配信できるほか、行動分析データをマーケティング情報として活用できる(画像はプレスリリースより)

ラッカス 小宮氏:今後の課題としては、エリアを“点”ではなく“面”でカバーする「シティWi-Fi」の整備だと考えています。そのエリア内ならば、現在のようにお店やビルの中だけでなく、街なかを移動しながらWi-Fiが切れずに使える環境ですね。ほかの国ではその整備が始まっており、日本でも小さなエリア(特定の通りなど)ではそうしている所もありますが、まだまだ少ない。

 たとえば、かつてのホテルでは「ロビーに来ればゲストWi-Fiが使えます」というのが多かったのですが、本当は客室で使いたいわけですよね。それと同じように「ここに来れば使えます」ではなく、ユーザーを中心に考えなければならない。そこにまだ少し、ユーザーと提供者との意識のギャップがあると感じます。

 また、フリーWi-Fiの運用では「マネタイズ」も重要な要素になります。ボランティアベースで(提供者側の持ち出しで)フリーWi-Fiを提供開始しても、何年も継続していくのは難しい。2020年の東京オリンピックに向けてフリーWi-Fiを整備するのはいいのですが、その後も3年、4年と提供を続けていくには課題があります。

 これは世界的にも課題になっており、いろいろなかたちで検討されています。たとえば前述したように“面”でカバーすれば、そのエリア内におけるユーザーの動線分析も可能になります。それをマーケティングデータとして生かし、マネタイズしていくというのもひとつのアイデアでしょう。

Wi2 辻氏:そのノウハウはWi2にありますので、そういうお話があればぜひお声がけください(笑)。

 Wi-Fiが“必要なインフラ”として認識されてきたこと、さまざまな施設におけるWi-Fiのプライオリティが徐々に上がってきていることを実感しています。2020年に向けて、フリーWi-Fiを設置される施設は増えていくでしょうね。

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