従来型ストレージのアーキテクチャでは間に合わない、DX時代のストレージインフラ
「いよいよSDSが企業に浸透」Dell EMCがScaleIOなどSDS製品紹介
2017年09月25日 07時00分更新
「“Software-Defined”という言葉が世に出て久しい。すでにSDDC(Software-Defined DataCenter)やSDN(Software-Defined Network)は、エンタープライズ顧客でふつうに利用されるようになっている。そして、SDS(Software-Defined Storage)もいよいよ、顧客の基幹システムに浸透し始めた」
Dell EMCは9月22日、最新のSoftware-Defined Storage(SDS)戦略と、「ScaleIO」を中心とした同社SDS製品ポートフォリオに関する記者説明会を開催した。
日本でもエンタープライズ市場への浸透が始まったSDS
EMC ジャパン SDS事業担当ディレクターの林氏は、まず本稿冒頭に掲げたようにコメントしたうえで、ストレージ市場におけるSDSのシェアの伸びや、その背景にある顧客データ環境の変化などを説明した。
調査会社のWikibonによるグローバル市場予想を見ると、今後10年間でストレージ市場の様相は大きく変わることになる。EMCも得意としてきた従来型エンタープライズストレージ(SAN/NAS専用機)のほとんどの部分が、SDS(サーバーSAN)に置き換わるという予想だ。SDSのCAGR(年平均成長率)は、2012~2016年で23%、2014~2020年だと38%にも及ぶ。一方で、従来型エンタープライズストレージはCAGRマイナス16%で市場が縮小していく。
なぜ、従来型エンタープライズストレージからSDSへと企業ストレージの主役が移り変わるのか。その背景には、企業が保有するデータ量の爆発的な増大がある。一言で言えば「従来型ストレージのアーキテクチャのままでは追いつかなくなる」からだ。
ビジネスのデジタルトランスフォーメーションが進む中で、企業ストレージには従来からの構造化データ、非構造化データに加えて、IoTやビッグデータ、AIなどで用いられる“次世代ワークロードデータ”群が大量に蓄積されるようになり始めた。林氏は、国内市場でも昨年(2016年)からこうした変化が見られるようになり、企業の保有データ量は「2020年に向けて飛躍的に増大」していくと語る。
こうしたデータ環境の変化に伴って、企業がストレージインフラを選定する際の「選定基準」にも変化が生じている。正確に言えば、選定基準として挙がる項目自体は変わらないものの、データ量がこれまでの100倍、1000倍という勢いで増えるなかでは、従来型アーキテクチャの延長上で機能強化しても間に合わない。そこで、まったく新しいアーキテクチャを持つSDSへの需要が急拡大することになるわけだ。
すでに海外では企業におけるSDS導入も進みつつあるが、日本ではまだこれからの段階だ。ただし、林氏は「大手企業を中心として、実際に『SDSで検証したい』という声を相当聞くようになっている」と語る。その理由のひとつとして、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)が普及し始め、そのストレージ部分に組み込まれていることでSDSに対する抵抗感が薄れたのではないか、と林氏は述べた。
Dell EMCのSDSポートフォリオと「ScaleIO」の特徴
Dell EMCでは数年前から、SDS製品のポートフォリオを段階的に拡充してきた。現在では用途とニーズに合わせ、ブロック(SAN)ストレージの「ScaleIO」、ファイルストレージの「Isilon SD Edge」「Unity VSA」、オブジェクトストレージの「Elastic Cloud Storage(ECS)」、さらにストリームデータストレージの「Pravega(Project Nautilus)」をラインアップしている。加えて、他社のSDSである「VMware vSAN」や「Microsoft S2D(Storage Spaces Direct)」「Nutanix NDFS」に最適化された構成のPowerEdgeサーバー(「VMware vSAN Ready Nodes」など)も提供中だ。
同日の説明会ではこのうち、ブロックストレージのScaleIOについて詳しく紹介された。ScaleIOは、ソフトウェア、最適化構成済みハードウェア(ScaleIO Ready Nodes)、コンバージドインフラ「VxRack」のストレージコンポーネント、という3つの形態で提供されている。
他のSDS製品と比較した場合のScaleIOの特徴は、さまざまなハイパーバイザ/OSが混在するヘテロジニアス環境をサポートすることだ。またQoSを設定できるため、他のアプリケーション(ワークロード)に影響を与えず、同じサーバーノード上に“共存”させることもできる。もちろん、ScaleIO専用のサーバーノードを用意して“外付けSAN”のように使うことも可能だ。こうした特徴により「データセンター全体に及ぶSDSを構築できる」と、同社シニア システム エンジニアの中村雅史氏は説明する。
また、ストレージ無停止でのノード追加/削除が可能であり、従来型ストレージの更改作業で生じていたデータ移行の作業が不要になる。データ量が爆発的に増大するなかで、データ移行にはますます大きなコストがかかるようになり、リスクも高かった。そのため、データ移行が不要という特徴は顧客に歓迎されているという。
ScaleIOは、最小3ノードから最大1024ノードまでの構成を取ることができ、ノート追加/削除(あるいは故障)に応じて自動的にノード間のデータ分散(再配分/再構築)が実行される。また、第三者機関であるESG Labのパフォーマンステストでも、ノードの追加によってパフォーマンスがリニアにスケールしていくことが示されている。
中村氏は「SDSのイメージとして、導入コスト(ハードウェアコスト)が大きく下がるものと思われがちだ。ScaleIOでは、もちろんそこも下がるのだが、もっと下がるのが『運用コスト』だ」と述べた。前述したようにストレージ更改におけるデータ移行が不要になることだけでなく、データの自動再配置、稼働状況がわかりやすいダッシュボードなど、効率的な運用を可能にする機能が盛り込まれており、エンタープライズ顧客でも容易にそのメリットが享受できるという。
米シティグループがグローバル導入、コストを60%削減
ScaleIOの導入事例として、米シティグループ(Citigroup)のストレージインフラ更改案件が紹介された。複数のデータセンターでScaleIOを導入し、グローバルに展開するグループ各社に“Storage as a Service”を提供しており、現在では総容量が80ペタバイト以上に及ぶという。
導入前、同グループでは「年間40%増」という勢いでストレージ容量が増加していた。そして従来型ストレージでは将来的に維持が困難になること、またCapExとOpExのコスト節減が見込まれることを理由として、ブロック、ファイル、オブジェクトの各ストレージでSDSの採用に踏み切った。そのうちブロックストレージ向けのSDSとしてScaleIOを採用している。その結果、パフォーマンスが40%が向上したうえに、コストを60%削減できたという。
林氏は、国内ではソフトバンクが最大規模の導入顧客であると述べ、現在ソフトバンクでは社内システムすべてをScaleIO上で運用していること、今後は外部向けサービスにもScaleIOを適用していく方針であることを紹介した。
なお、他社SDS製品ではブロック/ファイル/オブジェクトストレージを統合したユニファイドストレージもある。ScaleIOのユニファイド化について質問したところ、統合することでパフォーマンスネックが生じ、高速データベースなどで求められる性能に適合しない「中途半端なものになる」(中村氏)。Dell EMCとしては、それぞれの用途に個別最適な製品を提供していく方針であり、現時点ではユニファイド化の予定はないとした。
また、ScaleIOは導入規模が大きくなるほど経済的なメリットも高まるが、必ずしもエンタープライズ/大規模環境だけをターゲットとしているわけではないと林氏は説明した。
「小規模ならvSAN、大規模ならScaleIOと区別しているわけではない。ScaleIOは3ノードから構成できる。たとえばESXハイパーバイザを使わず“素”のLinux上でデータベースを動かしたい、それをSDS化したいといったニーズにも、ScaleIOならば対応できる」(林氏)