ウイスキーが海の底で寝かしたら味が変わる、すばらしくおいしくなる。そんな話、信じられますか?
海底で寝かせたウイスキー
2017年6月、株式会社トゥールビヨンは海底で寝かせたウイスキー「Tourbillon(トゥールビヨン)」を引き上げました。海底貯蔵したのはアイラ島のシングルモルトウイスキー10年ものと、ハイレンドのグレーンウイスキー43年もの2種。これらを南伊豆のヒリゾ浜沖の水深20mの海底に2016年11月から翌年6月までの7ヵ月間寝かせたということ。
現在、梱包を検討し、販路を含め販売に向けて準備中。販売価格は未定ですが、アイラシングルモルト10年ものは3万円から5万円程度。ハイランドグレーン43年ものはその倍程度になる見込みだそうです。
海底にウイスキーを寝かせるといっても、ボトルは蝋封するので海水が入り込むわけではありません。酸素が入ってくるわけでもないので、酸化によって熟成が進むわけでもありません。
では、なぜ味が変わるというのでしょう?
理屈より飲んでみなくては。トゥールビヨンの柳谷智宣代表に試飲の機会をいただき、寝かせる前のウイスキーと海底で寝かせた後のウイスキーを飲み比べさせていただきました。
本当に味が変わる? 飲み比べてみた
実物の海底貯蔵ウイスキーを見させていただいたところ、フジツボがわずかながら表面についていました。ボトルの状態は個体差が出る中で、フジツボがつくのはまれなほう。ですが、沈没船から引き上げた宝物のようでロマンがあります。
●アイラ10年はまろやかに
まずはアイラシングルモルト10年もの。驚きました。香りも味も明確に違います。寝かせる前のものは、アイラらしいヨードチンキを思わせる個性的な香り。ストレートで飲むと、力強く、ピリピリとしたスパイシーさが喉に残ります。
海底で寝かしたものは、香りがあきらかにまろやかになっていました。ヨードチンキのインパクトが薄れ、甘い香りが加わっています。口に流すと力強いけれどふっと抜けるような味わい。後味にほんのりソルティな風味を感じます。
少し水を加えて飲むと甘味と柔らかさが増します。寝かせる前も飲みごたえがあっておいしいのですが、こなれて飲みやすくなったという印象です。
●ハイランドグレーン43年はもともと極上でさらに変化
もう一方は、ハイランドグレーンの43年もの。実は寝かせる前のものからして、かなりの高級酒。グレーンウイスキーは一般的に風味が軽く個性が少ないという評価があります。ですが、柳谷氏によると「寝かせることで化けるグレーンがある」。高価ですが、味に惚れ込んで今回海底貯蔵ウイスキーに選定したということ。
ハイランドグレーンの43年ものは寝かせる前のものも信じられないくらいおいしいのです。上質なバニラのような甘い香りがして、飲んだ後はシナモンのような風味が口に残りました。海底で寝かせたものは、香り、風合いがさらに柔らかくなりました。甘い風味が軽やかに口に広がり、ひらひらと踊って幻のように消えていく。こちらも若干のソルティな風味を感じました。
寝かせる前も極上においしいし、寝かせるとまた違ったおいしさ。飲み比べてみると変化も楽しめました。
うわ~、なんでこんなに変化があるのでしょう!
海中の“音”が影響?
なぜウイスキーを海底で寝かせると味が変わるのでしょう。先ほども書いたように、蝋封で細心の注意を施していますし、トゥールビヨンではこれまでの試作でウイスキーの成分に海水が混じっていないことを研究機関で検証しています。
柳谷氏は味の変化の理由を、音による振動だと語りました。「海中には波や複雑な音がたくさんあるじゃないですか。それが波で伝わる。超音波でお酒の味を変化させるというのもありますが、それに近い理屈だと思います」
超音波でワインの味が変わる「Sonic Decanter」という製品をかつてアスキーで紹介しましたが、確かにこちらも超音波にかける前と後ではワインもウイスキーも風味が変わりました。
超音波だと機械的な印象ですが、海だと自然の複雑な音、海ごとに個性あるふくよかな音があふれ、ロマンを感じます。
海底でお酒を寝かせたお酒はウイスキーがはじめではなく、国内では以前より海底で寝かせたワイン「SUBRINA(サブリナ)」が市販されています。トゥールビヨンはサブリナを手掛けるコモンセンスの協力を得て、同じ浜でウイスキーを沈めています。
また、MHD モエ ヘネシー ディアジオ社は海底にシャンパーニュの貯蔵庫を建造するプロジェクトを2014年から始めています。海底貯蔵のお酒は今後さらに話題になる可能性があります。ただし、貯蔵の環境を整えるのは簡単ではありません。
ウイスキーを寝かせた南伊豆は外海。太平洋からの波の脅威はもちろん、夏は台風があるので破損のリスクが伴います。ウイスキーを寝かせた期間が11月から6月だったのは台風の時期を避けたため。
では、波が少ない落ち着いた海がいいのではと思うと、それだと海底が「静か」すぎて味の変化が少ない。適度に「うるさい」海で、さらに地域の方々が理解して協力して下さる環境ではないと海底貯蔵はできません。地域の方々に理解されないことには海にお酒を沈めたら大変な問題になります。
トゥールビヨンはそれらをすべてクリア。様々な困難を考えると海底貯蔵ウイスキーが成り立つと思うと奇跡的に感じます。
原価BARから海底貯蔵ウイスキーに
なぜ海底貯蔵ウイスキーをはじめたのでしょう? 柳谷氏にお聞きしたところ「ウイスキーは高級酒であるか、長く寝かせるかしか価値がつけられなかった。ですけど、海底貯蔵ウイスキーは約1年で付加価値がつきます。これまでにない新しいビジネスの可能性があります」と意気揚々と答えてくださいました。
ただし、今回のTourbillonの関しては「販売価格がやや高めになってしまうことが心配です。ロマンを求めてよすぎるお酒を選んでしまいました。今自分が在庫をストックしている状態なので、もし販売してもし売れなかったら一生かけて自分で飲みます」
え? 売れなかったら自分で飲むって。
もともと無類のウイスキー好きだった柳谷氏。実はハイランドウイスキーの43年ものという高級酒を選定したのは、柳谷氏の誕生年と同じ1972年ものに運命を感じたというのも理由のひとつ。味もびっくりするくらいおいしく突き動かされたそうです。
柳谷氏は、入場料さえ払えばこだわりの洋酒やカクテルをすべて原価で提供するという飲食店「原価BAR」の責任者のひとりです。お酒が好きでこうじて原価BARを手がけるようになり、原価BARのつながりで海底貯蔵ワインを手掛けるコモンセンスと縁ができたと言います。柳谷氏が海底貯蔵ワインの存在を知って原価BARで仕入れたことがきっかけ。
「海底貯蔵ワインをどういうふうに寝かしているかご興味がありますか?」
「(お酒全般好きなので)興味があります」
「では、もぐりますか?」
上記なようなやりとりを経てコモンセンスに伴い柳谷氏も南伊豆に足を運ぶようになったということ。海底貯蔵ワインの魅力に触れるうちに「大好きなウイスキーも海底貯蔵でおいしくしたい!」と実験的でウイスキーを仕込みはじめたことがスタート。
不思議な縁で結ばれた海底貯蔵ウイスキーはロマンがつまった味でした。Tourbillonの販売情報の詳細は今後明らかになります。原価BARに足を運ばれた際に「海底のやつ、ありますか?」と声をかけてみるとよいかもしれません。
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ナベコ
寅年生まれ、肉食女子。特技は酒癖が悪いことで、のび太君同様どこでも寝られる。30歳になったので写経を体験したい。Facebookやってます!
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