まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第60回
中国・配信・CG――アニメビジネスの最新事情を数土直志氏に訊く
他国のカネでアニメを作るとき、何が起きるのか?
2017年08月21日 17時00分更新
配信はアニメをどう変えるのか?
―― 前回のインタビューでは海外でのTVアニメ放送枠が失われたことで、そもそもの視聴機会が失われてしまったという状況をお話いただきました。そこから、現在ではNetflixやAmazon.comといった外資系の配信プラットフォームが、次々とアニメ作品を配信し、一部では制作資金をも提供するというように変化しました。今のお話にあった「どういったポイントをおさえるか」という点にも通じますが、そこではマス向けなのか、コア向けなのか、といった作品の方向性も大きく影響するように思えます。
数土 まさに千差万別ではあります。アニメからは少し離れますが、Amazon.comが数日前(註:取材時点)、アガサ・クリスティ作品の映像化を発表しました。これは上手いなと思ったのですが、アガサ・クリスティは沢山の本を出している。映像化によってAmazonのなかで本が売れるわけです。配信専業ではないAmazon.comは、自分たちの抱える商材やサービスとの親和性の高い映像を求めていく方向に進む可能性があります。
Netflixはもっとわかりやすく、彼らのユーザーに支持されているSFアクションや、「デビルマン」「ゴジラ」「プロダクションI.G」「湯浅政明監督」といった海外にも名の知れたブランドを重視しています。逆に言えば、数字が読めない作品というのは、あまり求めていないのではないかなと思います。
8月2日に開催された「Netflixアニメスレート2017」において公開された湯浅政明監督の最新作『DEVILMAN crybaby』のPV。
―― ひと言に配信プラットフォームといっても、指向がかなり異なるわけですね。調達される作品や、彼らから資金提供を受けて制作される作品も当然その影響を受ける、と。
数土 個人的にNetflixが良いなと思うのは、彼らが日本のアニメ市場からは2000年代に少なくなっていった、OVAでよく見られたようなSFアクションに、リバイバルの機会を与えていることですね。
当時のSFアニメが好きだった、今は日常系ばかりじゃないか、と残念がっていたアメリカ人は僕の知り合いにもいて。Netflixは再び彼らを呼び戻してくれているのではないか。彼らは、アニメファンというよりも、広い意味でのギーク、つまりゲームファン・SFファンであったりするからです。Netflixによって日本のアニメの幅が再び広がるはずです。
サンジゲンが制作した「ID-0」などはまさにその好例と言えると思います。あんな「ど真ん中」のSF作品はなかなか成立しませんから。国内でパッケージを売るだけでは、正直難しい面もあるのではないかと思います。でも、グローバルで見ればNetflixのような配信サイトではとても見られるはずなんですよね。「BLAME!」なんかもそうかもしれません。
「BLAME!」はNetflixと劇場同日公開が話題となった。
―― なるほど。一方で、今のように大きな資金をいつまで彼ら配信プラットフォームがアニメ制作に投じてくれるのか、という心配の声もあります。カタログが充実すれば、当然絞り込みも起こってくるのではないかと。
数土 それはその通りですね。ただ、Netflixはそこまでの本数をそもそもピックアップしていません。確かに制作側から見ると大きな資金を得ているわけですが、Netflixからすれば、細く長く続けて行くつもりでいるのではないかと。Netflixは日本のアニメを調達することによって、世界の一般市場でのシェア拡大を図っていますが、一方でそのことで日本の市場での存在感を増しているかと言えば、そこまでではありません。
―― 確かに。日本国内であれば、テレビで無料放送を見たり、録画するという選択肢もあるわけですからね。
数土 この疑問をNetflixにぶつけたことがあるのですが、「日本のアニメは欧米でとてもよく見られている」と、むしろターゲットは欧米なのです。でもサブジャンルじゃないんですか? と聞いても、「いやメインカテゴリの1つなんだ」という答えが返ってきました。
ではアジアではどうか? 日本のアニメは確かに人気です。しかし、Netflixはアジアではそこまで普及が広がっていないんです。ここでも今後アニメは武器になりますよね。
そういう意識があるのであれば、少なくともアニメというジャンルを続けていくだろうと。そして続けていくのであれば、常に新作は供給されなければなりません。そう考えると、簡単には今の流れは途絶えないだろうな、と思うわけです。
―― 言い方を変えれば、Netflixとしては日本のアニメは投資に見合う数字が取れるコンテンツであると。
数土 Netflixは基本的に数字を開示しない会社なので、そう断言するわけではありませんが、そのように見ている可能性は大いにあると思いますね
ただ、怖いのは欧米の外資にありがちなのですが、経営陣や担当者が変わるとガラリと方針も変わることです。かつてのカートゥーンネットワークがそうでした。日本のアニメを沢山流してくれていたのに、担当者が変わった途端、「日本のアニメはいらない」と言い出して、途端に番組表から無くなってしまった。これは配信でも起こりうる可能性はあります。ですから、いずれにしても彼らに依存しすぎるのは考えものです。
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