灼熱の上海を熱くした「Cybozu Days 2017 Shanghai」基調講演レポート
中国のサイボウズユーザーはいかにして「壁」を乗り換えたのか?
2017年07月24日 07時00分更新
7月21日、サイボウズは中国の上海において年次イベント「Cybozu Days 2017 Shanghai」を開催した。基調講演では、サイボウズのユーザー企業が次々と登壇し、中国ビジネスにおけるさまざまな壁をどのように越えたのかを語った。
苦節10年で700社を突破したサイボウズの中国進出
Cybozu Days Shanghaiは秋口に開催されているCybozu Daysの上海版で、今回が初開催となる。「壁を超える」をテーマに掲げたCybozu Days 2017 Shanghaiは上海市内のホテルを会場に行なわれ、ユーザー企業を招いた基調講演のほか、中国語での講演やkintoneのユーザー事例を披露するkintone hive shanghaiも開催された。定員500名に対して、登録者数は700名を越え、注目度の高さがうかがえた。
基調講演で登壇したサイボウズ代表取締役社長の青野慶久氏は、今年で10年目を迎える中国の事業について説明した。
2007年に設立された現地法人のサイボウズ中国(才望子信息技術有限公司)は、グループウェア「Garoon」とクラウドサービスの「kintone」の2製品を展開しており、現地採用も含めた従業員は現在83名にまで拡大している。
青野氏は、店舗管理にkintoneを活用しているキヤノン中国、営業管理にkintoneを使っているハウス食品中国、ワークフロー基盤をGaroonで構築している北京オルビスなどの最新の事例を紹介。日系企業を中心に、導入企業数がいよいよ700社を突破したことをアピールした。
とはいえ、法規制や文化が異なり、変化が非常に速い中国でのビジネスは乗り越えなければならない壁が数多くある。これはサイボウズのみならず、サイボウズ製品を使っている日系企業も同じだ。「サイボウズを使えば中国で成功するわけではないけど、成功している企業はなぜかサイボウズを使っている(笑)」と語る青野氏は、サイボウズユーザーである日系企業のゲストを迎え、中国での事業の苦労や可能性について話を聞いた。
表現を真似しているだけの競合には負けない(ベネッセ中国)
最初に登壇したのは、学習教材を宅配する「こどもちゃれんじ」の会員数が100万人を突破したというベネッセ中国 董事長兼総経理の松平隆氏。1989年に台湾のベネッセの立ち上げを経て、2005年にベネッセ中国に参画した松平氏は、「日本での成功事例を捨て、中国でのベストを目指し、数多くのトライ&エラーを進めてきた」と語る。
たとえば、教材は日本でのノウハウを元に、中国でのニーズや研究を元に、ゼロベースから開発し直している。また、日本で多用されているダイレクトメールのような仕組みがないため、コストをかけて体験サンプルを数多く配布し、電話で地道に価値を説明してきた。現在は中国全土の500店舗で体験センターを用意したり、ショッピングモールなどでイベントを展開しており、とにかく商品の価値を訴え続けている。
現在は、利用者の口コミによってユーザーが増え、しまじろう(巧虎:チャオフー)が登場する動画の再生回数はすでに9億回を突破しているという。冒頭に流された10周年ビデオも、子供を持つ親であれば涙腺崩壊確実な秀逸な出来でブランドも確立しつつある。
とはいえ、特定のビジネスが当たると、フォロワーが増えるのも中国市場での洗礼。「ライオンやパンダなど、さまざまなキャラクターが出てきた。われわれは『動物大戦争』と言っている(笑)」(松平氏)とのことで、しまじろうのようなキャラクターを看板に同じようなビジネスを展開する競合も次々と増えている。しかし、松平氏は市場を拡げるという意味で、競合が増えることに関して寛大に受け止める。「そもそも、学習セットで学ぶという市場がなかった。その中で選ばれるのが重要。表現をまねしているだけのところには、われわれは負けない。使っていただければ、お客様も違いがわかる」と語る。
年間に1700万人の子供が生まれ、未就学児だけでも1億人を越える中国。この巨大市場の中では100万人という会員数は、まだまだ伸びしろがある。今後は中国市場においてもアグレッシブに市場を開拓し、「ASEAN諸国にもしまじろうの友達を増やしたい」と松平氏は語る。
変化の速い中国市場での成功の秘訣とは?(セイコーウオッチ中国)
2人目に登壇したのは、セイコーウオッチ中国 董事長兼総経理の吉村等氏。日本たばこ(JT)からキャリアをスタートさせた吉村氏は、大正製薬やカルビーなどで一貫して中国でのビジネスを手がけてきた。いわば中国ビジネス成功の請負人で、実際にセイコーウオッチ中国の売り上げを短期間に大きく伸ばしているという。
もともとセイコーと中国の関係は、1905年に上海に工場を建てたことからスタートしており、すでに100年以上に渡る。戦後もいち早く上海に進出し、現在は全国170の都市で販売されており、修理拠点も20都市におよんでいる。しかし、ビジネス面では変化の速く、パワーゲームとなりがちな中国でのビジネスについていけなかったのが実態。今回の吉村氏のジョインも、こうした中国ビジネスのてこ入れが背景にはある。
全権委任を受けた吉村氏が入ってこの1年で実行したのは、事業の軸をeコマースに移したこと。人気のインフルエンサーを使ったライブ番組を作ったことで、中国の大手コマース事業者であるアリババからもページ上位に載せられようになった。また、商材に関しても、スーツに似合うようなドレッシーな時計から、カジュアルなダイバーウォッチにシフトした。価格は防水機能を持っている外資系の時計に比べて安く、品質は耐水性の低い模造品のはるか上というポジションで製品を展開したことで、在庫切れになるほど高い人気を博しているという。
もちろん、組織や働き方も大きく変えた。コミュニケーションロスを削減するため、11あった部門は3つのグループに統合。グループウェアを重視し、社内ではメールはやりとりしないようにした。また、「会議はするな、資料は作るな」という前職のカルビーのような働き方を取り入れ、案件の調整以外の定例ミーティングは極力しないという。
今後の予定について吉村氏は、「年間計画を作ったが、アリババなどのテクノロジーはすでに数ヶ月単位で進化する。だから、今考えていることは、もはや意味がない。『前だけ向いて仕事をしろ』と、部下にはいつも言っている」と語る。こうしたスピード感でビジネスを進める一方、「今後100年間、セイコーが中国で生き残るためには、単に売り上げの積み上げだけではなく信用が必要になる」(吉村氏)とも考えている。そのための足がかりとして、今後3年でアフターサポートを充実させ、会員制を強化していくという。
厳しい社員教育で銭湯の文化を理解してもらう(極楽湯)
3人目のゲストは日本で38店舗のスーパー銭湯を展開する極楽湯の松本俊二氏。中国には2011年に現地法人を設立し、直営店の1号店を上海の浦東にオープン。その後、2015年に上海の浦西、2016年には武漢と直営店を次々オープンし、現在1店舗あたり年間40万人の客を獲得している。日本に比べても高い135元という強気な料金体系だが、春節のときには2~3時間待ちになる盛況ぶりだ。
松本氏によると、もともと中国にも国営の公衆浴場が存在したが、現在ではすでに廃れているとのこと。一方、同社の調べでは銭湯を展開する業者も2000くらいあったが、きわめて不衛生で不健全だった。「衛生的で、健全な日本の極楽湯を持って行けば、うまくいくと感じた」(松本氏)とのことで、中国への展開を決めたという。
中国進出においては、従業員に日本独自の銭湯文化を理解してもらうのが大変だったという。「お風呂に浸かったことがない社員もいたし、もともと不健全なイメージがあったので、女性の社員を採用するのは大変だった」と松本氏は吐露する。
また、日本人はあくまでスーパーバイザーに徹し、基本は中国人に現場を任せていく方針。そのため、フランチャイズを見越した社員教育には注力してきた。「やはりお風呂屋は特殊な業態なので、しっかり経験を積んでもらう。中国の人たちもおもてなしの心は持っているけど、表現の仕方がわからなかった。だから、けっこう厳しい教育は施してきた」(松本氏)と語る。
ベネッセと同様、極楽湯の成功を見て、スーパー銭湯を展開する競合も増えている。ロゴやサービス名をそのままパクるようなサービスもあるが、松本氏は、「どうせまねするなら、衛生管理や接客まできちんと真似してほしい(笑)」と意に介さない。今後は、中国全土で100店舗を目指し、フランチャイズを拡大。「お風呂という文化を中国全土に広げていきたい」と松本氏は抱負を語った。
いさぎよいまでに製品の話を排除し、中国に進出したユーザー企業の話を聞き出す商売気のない基調講演。その後、最後の岡田武史氏(サッカー日本代表 元監督/杭州緑城 サッカークラブアドバイザー/FC今治 オーナー)の講演まで、「壁を越える」というテーマでユーザーメリットとなる内容を提供するイベントだった。欧米流の差別化戦略より、ユーザーにフォーカスするサイボウズのスタイルを中国の聴衆たちがどのように受け入れるのか興味深い。