
今回のことば
「創業1年目から18年間に渡って黒字だった。だが、創業者も一度赤字を出したという実績を作っておきたかった」(サイボウズの青野慶久社長)
赤字の背景は広告投資と「裏ミッション」
サイボウズが発表した2015年度(2015年1月~12月)連結業績は、売上高が前年比17.6%増の70億1300万円、営業損益は前年の2200万円の黒字からマイナス3億8100万円の赤字、経常損益は前年の700万円の黒字から、マイナス3億3800万円の赤字、当期純損益は前年の1100万円の黒字から、マイナス2億1700万円の赤字となり、創業以来、初の赤字決算になった。
だが、サイボウズの青野慶久社長に悲壮感はない。
「パッケージと、クラウドの収益率には大きな違いがあり、そのビジネスの転換期にある」としながら、2015年度は、同社の次代を担うクラウドサービスの地盤づくりへの投資のひとつとして、クラウド関連の広告を積極化。クラウド市場におけるブランドづくりに力を注いだことを示してみせる。前年度も広告費は14億8000万円と大量に投下したが、2015年度は、18.0%増となる17億4600万円へとさらに積み増しした。ここに赤字転落の要因がある。
実は、青野社長は2014年度にも赤字を見込んでいたが、結果として黒字化したことを受けて、「どこかでアクセルを踏み切れなかったところがあった」と反省。2015年度は、期初から8億円の赤字計画を打ち出し、より強く広告投資のアクセルを踏み込んだともいえる。
創業以来初の赤字は、将来に向けた先行投資の意味があり、いわば計画通りの赤字というわけだ。
そして、「裏ミッション」として、次のようなことも語る。
「サイボウズは、創業1年目から黒字化し、これまでの18年間、黒字が続いている。これがそのまま継続し、常に黒字体質を維持しなくてはならないということが定着したまま、次世代にバトンを渡すようなことはしたくはないという気持ちがあった。創業者も、一度は赤字にした、という実績を作っておきたかった」と語る。
負債は30億円にのぼるが、固定負債がゼロで、短期の流動負債のみ。現預金は24億円、自己資本比率は51.3%。財務面でも余力を持った形での赤字計上となっている。
2016年度は、売上高が前年比14.1%増の80億円、営業利益、経常利益、当期純利益は黒字転換し、いずれも1億円を目指す。
「2期連続での赤字は、パートナーに対して、不要な不信感を抱かせる温床にもなる。だが、必要があれば、アクセルを踏み込む」として、状況次第では2期連続の赤字もいとわない考えだ。

この連載の記事
- 第539回 IBM、生成AIをビジネス活用のプラットフォームへ
- 第538回 三菱電機、意思決定プロセスを簡素化、検査不正問題へのアンサーは?
- 第537回 DXの追い風を受け、中核事業のLumadaを中心に安定成長を目指す、日立製作所 小島啓二社長
- 第536回 ワークロード/データ管理は単一のプラットフォームが理想と9割以上が回答、HCIからハイブリッドクラウドへと進むNutanix
- 第535回 シャープ創業111年、技術の先にある新しい技術
- 第534回 新社長で飛躍目指す弥生、クラウド会計、事業コンシェルジュ、その先
- 第533回 適切で危険を回避できる出張、働きがいの育成、コンカーの構想
- 第532回 VAIOの変革、プレミアムニッチからWindows PCの定番機の領域へ
- 第531回 人類とAIの共生への一歩を進めたマイクロソフト、「Microsoft 365 Copilot」の価値
- 第530回 Web 3に本腰を入れるKDDI、αUのメタバースで行き交うものとは?
- 第529回 続く物価高騰、インクジェットは消費電力の削減にもいい、エプソン販売
- この連載の一覧へ