ハイパフォーマンス向けの16FF+を
低コスト化したプロセス16FFC
前回のテーマに絡むアップデートを2つお届けしたところで、今回の本題となるメインストリームの話である。まずは16FFCについて。16FFCは2015年10月に発表された。2015年10月というのは、TSMCが16FFの量産に成功。16FFに続き16FF+の生産を開始し始めていた頃である。
16FF+はハイパフォーマンス向けのプロセスに位置づけされるが、これを低コスト化したのが16FFC(16FF Compact)である。要点は以下のとおり。
- プロセスの製造工程を若干簡素化することで低コスト化と製造工程の短縮化
- SRAMの実装面積をやや縮小(ロジックあるいはI/Oについては変更なし)
- 動作パラメーターを若干変更
- 動作電圧を0.55Vまで下げることで省電力化
TSMCの説明では、SRAM以外は既存の16FF+の設計がそのまま使えるという話ではあるが、動作パラメーター(SPICE corners)を変更している関係で、TSMC自身がSPICE(アナログシミュレーション)を実行しなおし、必要ならパラメーターを調整することを推奨しているので、実質的には完全に別とまではいかないものの、大分設計のやり直しが発生する。
もっとも16FFCはそもそもの目的が低コスト化と低消費電力化であり、逆に言えば動作周波数はそれほど上がらない(無理にあげると16FF+よりも消費電力が増える)ため、既存の16FF+の設計をそのまま16FFCに持ってくるパターンは少ないと考えている。
むしろメインストリーム~バリューレンジのモバイル向けSoCや、16FF+ほどの性能が必要ない代わりに低コスト化が必要なASIC、例えばデジカメ内部の画像処理エンジンやセットトップボックス向けのチップなどを狙ったプロセスとなっている。
PC市場で言えば、CPUには適さないがバリュー向けのGPUとか、(最近はあまりニーズがないが)SCSIやSATAのRAIDコントローラーなどには利用できる可能性があるものだった。
ただ結局16FFCを使ったGPUチップは、PC市場向けにはない(NVIDIAはサムスンの14LPPに行ってしまった)が。この16FFCは2016年にリスク・プロダクションがまず始まり、2016年末には本格量産に入っている。
また今年3月に明らかにされたのは、16FFCが自動車業界向けの基準であるAutomotive Grade 1を取得したことだ。
Automotive GradeというのはAEC-Q100という自動車向け半導体の品質基準の中で定められている動作温度保証範囲であり、Grade 0が-40~150度、Grade 1が-40~125度、Grade 2が-40~105度、Grade 3が-40~85度、Grade 4が-40~70度となる。
自動車向けといってもいろいろで、室内の機器だと真夏の炎天下なら室内温度が50度近く、計器パネルの中は70度近くまで上がる可能性があるので、Grade 4だとぎりぎりでGrade 3がほしいレベルだが、エンジンルームの中だと100度を超えることがしばしばあるので、Grade 1が最低でも必要で、できればGrade 0というあたりである。
すでに自動車業界向けにはGrade 1やGrade 0の半導体製品は多く存在するが、その大半は130nmか180nmといった比較的古いプロセスのことが多く、従来の自動車のECUにはこれで十分であっても、最近のADASなどにはプロセスが古すぎて必要な性能を出すチップが作れないことがあった。
もちろんADASの機器そのものがエンジンルームに入る可能性は低いが、例えばLIDAR(レーザーを利用したレーダー)やミリ波レーダーなどはエンジン周辺部に装備されるため、こうしたものの制御にはGrade 1やGrade 0に対応した、しかも性能の高いプロセッサーが必要になる。16FFCはこうした市場向けにも利用されることになる。
ちなみにTSMCによれば、16FFCでは1レイヤーの製造にかかる時間は平均1日未満まで短縮されているそうで、これは28nmや20nmプロセスよりも高速とのこと。これもあって、16FFCは2016年頃にはLong-lived Processになるだろうと説明していた。
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