i.Techのトゥルーワイヤレスイヤフォン「FreeStereo Twins」は、国内正規販売の同種の製品としては低価格帯の製品。e☆イヤホンの価格は1万3500円ながら、洗練されたデザイン、必要十分の機能、再生音のクオリティーなど魅力は多い。
i.Techは香港に本拠を置くメーカーで、Bluetoothユニットを内蔵するケーブルやヘッドセットなど、Bluetooth関連製品中心のラインナップを持つ。その中でFreeStereo Twinsは初のトゥルーワイヤレスイヤフォンということになる。
バッテリー内蔵クレードル付き
横長のデザインはまるでヘッドセットのように見えるが、実際にマイクを内蔵し、ヘッドセットとして機能する。イヤフォンの形式としては密閉カナル型。Liquipel社のナノ・コーティング技術で、雨や汗に耐えるIPX4の耐水性能を持たせてある。
この価格帯としてはバッテリー内蔵の充電用クレードルが付属するのがポイント。このクレードルは42.6gと非常に軽く、ややケースのフタが硬く開けにくいことを除けば、持ち歩きに便利で文句はない。
充電ケース内蔵のバッテリーは、USBケーブルを接続して、フルチャージまでに約2時間。これでイヤフォン本体を4回充電できる。イヤフォン本体のフルチャージに要するのは約1時間。
ただし、イヤフォン本体の音楽再生時間は約2時間と短い。重さは片側約6.2g。ほかに比べて特に軽いわけでもないので、もう少しバッテリーの容量を増やせなかったかなと思う。が、そこは軽くて持ち運びのラクなバッテリー内蔵充電ケースで補ってください、ということだろう。
左右と操作のわかりやすさ
この価格帯のイヤフォンはコスト削減のためか、左右ユニットの作りがまったく同じで、外観上もシステム的にも左右の区別がつかないものが多い。しかしこの機種はイヤフォン本体のノズル側に「L」「R」のマーキングがあるので、すぐに左右は区別できる。
左がスマートフォンと接続するプライマリー側。ステレオペアを成立させる手順も含めて、ペアリング操作に関して特に変わったところはない。
操作は上面のシーソーボタンで音量と選曲を、後部のシングルボタンで電源、ペアリング、通話を操作する3ボタン式。左右とも同じ機能が割り振られている。
同価格帯では、たった1つのボタンで、プレス、ホールド、ダブルプレス、トリプルプレスなど、トリッキーな操作を要求するマルチファンクションボタンが主流。この機種もマルチファンクションタイプながら、音楽と通話にボタンが分かれているので、かなりマシ。贅沢を言えば、左右のボタンに別の操作をアサインしてもよかったのではないかと思う。
装着性については独特の横に長いデザイン、そして本体からノズル開口部までの長さが結構あることから、付属のスタビライザーは装着して使うのが無難のように思えた。
コンプライのイヤーピースで固定してしまえば装着位置は安定するが、頻繁に着脱を繰り返すなら、シリコン製のイヤーピースとスタビライザーの組み合わせの方がラクに使える。ループ状のスタビライザーは耳への当たりも柔らかく、長時間の使用も苦にならなかった。
ボーカルが前に出てくる音質
内蔵するドライバーは、比較的大きな8mm径のダイナミック型で、これをうまく無理せずに鳴らしている印象がある。再生帯域はやや狭いが、高域端、低域端ともに落ち方がスムース。中音域の情報量は豊富で、ボーカルが歪み感なく前に出てくるところがいい。音声コーデックはSBCのみ対応だが、この特性ならコーデックにスポイルされる部分を気にする必要はないように思える。
難を言えば中高域に若干のピークがある。合わせて低域が出ないことに不満を感じるなら、コンプライのイヤーピースに交換するといいかもしれない。シリコンのイヤーピースの軽い装着感は捨てがたいが、フォームチップは高域を若干削ってくれるし、密着度が上がると低域の音圧感も上がってくる。
もうひとつ惜しいのは動画再生時の音声ズレがあること。音楽の演奏動画では気になる。そして気に障るほどではないが、電波が不安定になると定位のドリフティングが始まり、右チャンネルのドロップも起きやすいことだ。
ただし、このBluetooth周りの現象はトゥルーワイヤレスイヤフォンには付きものであり、1万円台後半の機種とくらべて特に劣るわけでもない。気軽にトゥルーワイヤレスの利便性を楽しめる、コストパフォーマンスのよさが魅力の製品だ。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ