前回のSTAC Electronicsは案外知名度が低い(なにせ編集担当が知らなかった)企業だが、今回は逆に超有名どころを取り上げたい。Netscape Communicationsである。
WWWサーバーとインターネットの誕生
1991年8月6日、CERN(欧州原子核研究機構)のTim Berners-Lee氏は、世界最初のWWW(World Wide Web)サーバーのサービスを開始し、この日からインターネットがブラウザーを使って、それまでよりもずっと容易かつリッチに利用できるようになった。
かくいうこの記事も、ウェブブラウザーで読んでおられると思う。こうした諸々がスタートしたのが、この1991年8月6日というわけだ。
ちなみにWikipediaのWorld Wide Webの写真を見ると、ロンドンのScience Museumに展示されているNeXT Cubeが、まさに最初のWWWサーバーとして運用されていたNeXT Cubeだったようだ。
もっとも最初のブラウザーは、ハイパーテキスト構造こそサポートしていたが、まだ表示できるのはテキストのみであり、使い勝手としては(もうすっかり知る人もいなくなったが)Gopherとよく似た感じであった。
ちなみにそのGopherも、登場はWWWサーバーと同じ1991年だ。ただ1991年当時のインターネットでは、WWWはまだ少し回線負荷が高く、またサービスを行なっているサイトもごく限られており、他方Gopherは比較的負荷の少ない形で情報検索システムを構築できるとあって、わりとすぐ普及した記憶がある。
さて、当初CERNはWWWサーバーの利用を関係者のみに限っており、広く一般に利用できたわけではなかった。一般公開に踏み切るのは1993年の頃である。当時、まだインターネットは広く誰でも使えるという状況にはなかった。
例えば米国の場合、UUNETが一般ユーザー向けにネットワークプロバイダサービスを開始するのは1990年だが、これはAlterNetという独自のネットワークに対する接続サービスで、そのAlterNetの先にインターネットがつながるという構図だった。
むしろCompuServe経由でつないだほうが早い(ただしサービスに限りあり)、というのが当初の状況だったと記憶している。当時インターネットのバックボーンだったNSFNet(National Science Foundation Network)はまだ商用利用を認めておらず、商用が解禁される1992年までは、現実問題として一般ユーザーがインターネットを利用する動機がそもそも薄かった、とも言える。
ちなみに日本はもう少し遅く、1994年頃からいろいろなプロバイダーが胎動を始めていたものの、最初に広くサービスを開始したのは1995年のBekkoameだったと記憶している。
これ以前は、Nifty-Serve(現Nifty)やASCII Netなどさまざまなパソコン通信サービスからゲートウェイの形でインターネットにつなぐという使い方しかできなく、もちろんWWWのサービスは提供されていなかったため、そもそもWWWというものがあることを知らなかった、というのが正確なところだ。
ただ直接UUNETや、日本ではJUNETに接続できていた大学関係、あるいはその関連団体の中では、少しづつWWWを利用できる環境が増えてきつつあった。
世界最初のグラフィカル・ウェブブラウザー
「NCSA Mosaic」
こうしたWWW初期の状況で大きなインパクトを与えたのが、NCSA Mosaicというブラウザーである。名前の通り開発はNCSA(National Center for Supercomputing Applications:米国立スーパーコンピューター応用研究所)がからんでいる。
NCSAはイリノイ州のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の敷地内に置かれており、これもあってイリノイ大の学生も多くNCSAにからんでいる。実際NCSA Mosaicを開発したのは、当時イリノイ大の学生だったMarc Andreessen氏と、イリノイ大で修士課程を卒業し、そのままNCSAで働いていたEric Bina氏という2人であった。
NCSA Mosaicのご先祖様にあたるのは、カルフォルニア大バークレイ校のXCF(eXperimental Computing Facility)に所属していたPei-Yuan Wei(魏培源)氏が開発したViolaWWWである。
Wei氏はもともとハイパーカードのコンセプトを実装するViolaというソフトウェアをUnix上のX Window System環境上で開発していた。ところがたまたまWWWの話を聞きおよび、Berners-Lee氏に問い合わせする。結果、そのソフトウェアをWWWに対応させたViolaWWWを1991年に完成させた。これが世界最初のグラフィカル対応ウェブブラウザーである。
Andreessen氏はこのViolaWWWを1992年に見る機会があり、これに感銘を受けて自分たちもウェブブラウザーを開発することにした。かくして生まれたのがNCSA Mosaicである。
画像の出典は、“NCSAのNCSA Mosaicのページ”
最初のバージョンの開発はわずか6週間で完了し、1993年1月には動作デモが行なわれている。Version 1.0は1993年11月に完成し、無償での配布が始まった。

この連載の記事
-
第852回
PC
Google最新TPU「Ironwood」は前世代比4.7倍の性能向上かつ160Wの低消費電力で圧倒的省エネを実現 -
第851回
PC
Instinct MI400/MI500登場でAI/HPC向けGPUはどう変わる? CoWoS-L採用の詳細も判明 AMD GPUロードマップ -
第850回
デジタル
Zen 6+Zen 6c、そしてZen 7へ! EPYCは256コアへ向かう AMD CPUロードマップ -
第849回
PC
d-MatrixのAIプロセッサーCorsairはNVIDIA GB200に匹敵する性能を600Wの消費電力で実現 -
第848回
PC
消えたTofinoの残響 Intel IPU E2200がつなぐイーサネットの未来 -
第847回
PC
国産プロセッサーのPEZY-SC4sが消費電力わずか212Wで高効率99.2%を記録! 次世代省電力チップの決定版に王手 -
第846回
PC
Eコア288基の次世代Xeon「Clearwater Forest」に見る効率設計の極意 インテル CPUロードマップ -
第845回
PC
最大256MB共有キャッシュ対応で大規模処理も快適! Cuzcoが実現する高性能・拡張自在なRISC-Vプロセッサーの秘密 -
第844回
PC
耐量子暗号対応でセキュリティ強化! IBMのPower11が叶えた高信頼性と高速AI推論 -
第843回
PC
NVIDIAとインテルの協業発表によりGB10のCPUをx86に置き換えた新世代AIチップが登場する? -
第842回
PC
双方向8Tbps伝送の次世代光インターコネクト! AyarLabsのTeraPHYがもたらす革新的光通信の詳細 - この連載の一覧へ











