ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第402回
業界に痕跡を残して消えたメーカー MS-DOS誕生のきっかけとなったOS「CP/M」を生みだしたDigital Research
2017年04月10日 11時00分更新
マイクロソフトに先駆けてGUIを発売するなど
幅広いビジネスを展開で生き残る
ではDigital Researchはというと、PC-DOSを入手して解析し、結構な部分がCP/Mからの流用であることを知った。そもそもQDOSは、Seattle Computer Productsが自社で8086ベースのマイコンを開発して販売するにあたり、手ごろなDOSがないということで、“CP/M Interface Guide”というCP/Mのマニュアルを参考にしながら、CP/Mベースのアプリケーションが8086で動くように工夫したものである。
したがって、APIなどは当然CP/Mと互換性があるというか、同じになっている。その意味では、ソフトウェア保護の法制度が整った昨今であれば、一発アウトなソフトウェアだったわけだが、当時はまだそこまでソフトウェア保護が発達していなかった。なので仮に訴訟を起こしても、必ずしも勝てる見込みはなかった。
とはいえ、交渉のネタとしては十分な程度には黒いという状況であり、結果IBMはDigital Researchに対する責任の免除の引き換えに、CP/M-86をオプションとして提供するという申し出を行ない、これをKildall氏は受け入れる。
かくして同社はCP/M-86の開発を急ぎ、1981年末に完成。同年末からIBMより発売されるが、問題はPC-DOSが40ドルだったのに対し、CP/M-86は240ドルという価格がついていたことで、結果IBM-PC向けのCP/M-86は商業的な成功を収めることはできなかった。
ただ幸いにも、当時はMS-DOS以外のパソコンがまだたくさんあり、これに向けてMC68000用のCP/M-68KやZilog Z8000用のCP/M-8000が提供されている。
またマルチタスク拡張されたCP/MであるMP/Mを1979年に手がけていた話を先にも触れたが、これを拡張してマルチタスクを同時に実行できるようにしたConcurrent CP/M-86(CCP/M-86)やCCP/M-68Kも1982年から提供され、とくに業務用途などで活用された。
さらにCP/Mを発展させたFlexOSは、インテルの286/386やNECのV60/V70などに対応し、これをベースにIBMはPOS用OSとしてIBM 4680 OS/4690 OSを提供したりしている。
ほかにも、ネットワークでつながるディスクレスマシン用のCP/Netという軽量DOS(あるいはNetwork DOSとでも言うべきか?)の開発や、Compiler Systems Inc.を買収して同社のBASICコンパイラをCBASICとして発売したり、GEM(Graphics Environment Manager)というGUIを、Microsoft Windowsに先駆けて1985年から提供したりしている。
画像の出典は、“Wikipedia”
変わったところでは、やはりTom Rolander氏と一緒にKnowledgeSetという別会社を興し、ここで世界初のCD-ROMベースの百科事典をGlorier(百科事典の出版社)向けに作成したりもしている。
こうした形で幅広いビジネスを展開していった結果、同社はピークで500人を超える従業員を抱え込み、売上も1989年に3600万ドル、1990年に4000万ドルと、そう落とさずに維持していたが、こうした大会社の指揮を取るのはKildall氏にとって本意ではなかったらしい。
結局Kildall氏は1991年に同社をNovellに売却する。Novellはこれを株式交換の形で取得したが、当時の株価換算では買収金額はおよそ7950万ドルほどになる。
買収完了に合わせてKildall氏はDigital Researchから完全に離脱した。これに先立ち1983年には共同創業者であった妻のDorothy氏と別居し、その後離婚している。やはり家庭とビジネスを共存させるのは難しかった、ということかもしれない。
その後Kildall氏は再婚するものの、1994年にモントレーで、52歳の若さで事故死している。Dorothy氏は姓を再びMcEwenに戻し、2005年1月に61歳で亡くなられた。
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