日本IBMは4月4日、ITインフラのインテグレーション/保守サービスを手がけるグローバル・テクノロジー・サービス(GTS)事業の戦略説明会を開催した。顧客側のニーズ変化に合わせ、マルチベンダー/マルチクラウド対応、Watson/コグニティブ能力の適用による自動化などを推進していく。
説明会には、日本IBMでGTS事業を率いるヴィヴェック・マハジャン氏が出席した。
GTSの目指す位置付け、キーワードは「サービスインテグレーター」
マハジャン氏によると、IBMのGTSは「世界最大のITインフラサービス事業体」であり、金融や製造、流通などの大手企業に多数の顧客を持つ。グローバルでは約4兆円、日本では4000億円ほどの年間売上を持ち、IBM全体の約4割(日本では5割)がGTSビジネスによる売上だ。マイナス成長だった2016年のIBMにおいても、GTSビジネスは売上、利益とも伸ばしている。
今年のGTSビジネスについて、マハジャン氏は「キーワードは『サービスインテグレーター』だ」と語った。現在の顧客が求めているのは「ビジネス成果」であり「IT成果」ではない。こうした顧客側のニーズ変化を背景として、マルチベンダー/マルチクラウド環境にも一元的に対応する、新たな存在を目指すという意味だ。マハジャン氏は、顧客ITインフラにおける状況変化を次のように説明する。
「まずはハイブリッドクラウド。顧客企業はすでに、パブリッククラウドだけでは自らのニーズを満たせないと理解しており、ハイブリッドクラウドの取り組みを進めざるを得ない。また、マルチベンダー化への対応。(IBM調査によると)顧客企業は、平均で6社のベンダー製品/サービスを管理しなければならないのが現状だ」(マハジャン氏)
そうした顧客の現状に対応すべく、GTSではIBMの製品/サービスにこだわらない、マルチベンダー/マルチクラウドへの対応を進めてきた。今回の説明会では特に、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureといった競合クラウドの名も挙げながら、顧客ニーズに応じたサービスを提供していく姿勢を強調した。
「AWSを使うけれど、(インテグレーションや保守は)IBMにやってほしいという顧客もいる。なぜか。24時間365日のサービスデリバリや“Always On”の落ちないサービスは、クラウド時代になっても必要だが、IBM以外にはなかなかできないからだ」(マハジャン氏)
IBM GTSでは全国72のサービス拠点を通じ、24時間365日体制でマルチベンダーインフラの保守サービスを提供している。この保守サービスの導入によって、ITサービス品質の向上とコスト削減を実現している事例も紹介された。
ITインフラの自動化、IBMのノウハウ+コグニティブで差別化を図る
もうひとつ、これからのGTSが取り組みを強化していくのが「オートメーション(自動化)」である。さらなるサービス品質の向上と効率化、コスト削減を目指すうえでは、これが大きな鍵を握る。IBMでは、ここにWatsonのコグニティブ能力も活用できると考えている。
マハジャン氏は、IBMが考えるITインフラ運用の自動化ロードマップを示しながら、GTSの現在位置を示した。すでに「ITプロセス/ビジネスプロセス双方の自動化」や、アナリティクスと可視化を通じた「深い洞察と改善」を実現するサービスは提供できているが、コグニティブ能力の取り込みはこれから本格化していくという。
具体的なコグニティブ活用としては、ITインフラに対する障害予兆検知サービスが検討されているという。グローバルに蓄積されているITサービス関連データを、Watsonが分析、洞察することで、事前に障害発生の可能性を通知しプロアクティブな対応につなげることができる。マハジャン氏は、30年以上にわたるサービス知見の蓄積、Watsonのコグニティブ能力、そしてGTSのサービスデリバリ能力が揃うIBMだからこそ可能なサービスであり、今年はここに注力していきたいと語った。
なお今回の説明会では、既存の「ワークプレース・サポート・サービス(WSS)」にWatsonの能力を組み込む新サービス「WSS with Watson」も発表された。WSSは、従業員向けのITヘルプデスクサービスを実現するセルフサービスポータル、エージェント、モバイルクライアントケア分析といったサービスを顧客に提供するものだが、ここにWatsonを使ったチャットボットを設け、問い合わせへの対応業務をより効率化するものだ。
また昨年11月に買収を発表したSanovi Technologiesのテクノロジーを取り込み、災害対策(DR)環境におけるサービス切り替えの自動化を実現するソリューションも、今秋をめどに国内提供開始予定だとしている。