VOXは新型真空管「Nutube」を搭載した初の製品として、超小型ギター用ヘッドアンプ「MV50」を発売した。
NutubeはVFD(蛍光表示管)で有名なノリタケ伊勢電子とコルグの共同開発によるもので、従来の真空管より低電力で動き、発熱も少なく、小さな筐体に収められる。MV50はそうしたNutubeのメリットをわかりやすく形にした製品だ。
MV50の外形寸法は標準的なストンプボックスサイズのエフェクターと大差なく、重量はわずか540gに過ぎない。ACアダプターと合わせても、ギターのギグバッグに難なく収められる。
にも関わらず、Nutubeを使ったプリ段と、クラスDのパワー段によるハイブリッド構成で、MV50は最大50Wの出力を発揮する。一般的なギター用スピーカーキャビネットと組み合われば、リハーサルスタジオからライブハウスまで対応できるパワーだ。
また、ヘッドフォン/ラインアウト端子にはキャビネットシミュレーターも搭載されており、自宅練習やDTMのような用途にも使える。こうした応用範囲の幅広さもMV50のウリのひとつ。
MV50はサウンドキャラクター別に「CLEAN」「AC」「ROCK」の3種が用意され、店頭価格はそれぞれ2万1600円。同時に発売された小型8インチスピーカーキャビネット「BC108」は1万800円。MV50とBC108のセット販売もあり、こちらはROCK、AC、CLEANともに2万8080円。そして4月末には本格的な12インチスピーカーキャビネット「BC112」の発売も控えている。
VOX開発陣へのインタビュー2回目は、CLEAN、AC、ROCKと3種類用意されたサウンドキャラクターの違いについて。
3つの違いはクリーン、クランチ、ディストーション
―― CLEAN、AC、ROCKと3つあって、それぞれキャラが違う。すると全部欲しくなるじゃないですか。でも、それはよくないと思うんですよ。
江戸・李 (笑)
―― どれかひとつにしたいので、どう違うのかを教えてください。
江戸 まず、クリーン、クランチ、ディストーションで差別化しようというアイデアが当初からあったので、音に関してはその通りの違いです。
ROCKは1959とJCM800のいいとこ取り
―― CLEAN、AC、ROCKの順で歪みが深くなると。では、まずROCKはどんな設定ですか。
江戸 ROCKはブリティッシュ・ロック・サウンドを目指してボイシングされています。ギターをシールド一発でつないで、ハードロック、メタルまで行っても大丈夫だと思います。歪み主体で使う人はROCKを使ってくださいということですね。もちろん、ゲインを下げるなり、ギターのボリュームを絞ればいい感じのクリーントーンも出ますし。
―― 一個あるとロックならなんでもできちゃう感じですね。どれくらいのゲインが来るんですか。
李 回路的なことで言えば(マーシャルの)1959とJCM800のいいところを取って、いい感じにブーストさせたみたいな。
―― その音、好きな人がたくさんいそうですね。
江戸 これは自分の感想ですが、ROCKはJCM800にTS系のオーバードライブをかませた感じの音もするなあと思っているんです。いい意味で真空管だけの歪みじゃない、ちょっとガリッと来るところが、ゲインを上げていくとだんだん出てくる。
―― じゃあブースターはいらない?
李 なくても大丈夫。ゲインはJCM900くらいはありますけど、ゲインを低めにしてボリュームを上げて、ラウドな感じの1970年代の音も出せるし、そういうところは狙って作っています。
江戸 それでいてNutubeのキャラクターというのも聴こえてくるんですよね。ちょっとハイがロールオフされたような。ローミッドに温かさが増したような、ギターアンプのキャビネットから出ている音なのに、質のいいマイクプリを使ってコンデンサーマイクで録ったみたいに聴こえる部分もあって。
―― やっぱりNutubeらしい音というのがあるんですね。
李 あります。

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