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持ち運べる史上最強のヘドアン? CHORDの「Hugo2」と「Poly」が国内発表

2017年03月17日 15時30分更新

文● 小林 編集●ASCII

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DAVEを除けば世界最強をうたう、CHORD自慢のポータブルDAC

 発表会ではCHORDから4名が来日して登壇したほか、DAC設計者のRobert Watt氏およびライターの佐々木喜洋氏によるHugo2の技術解説もあった。

ブログMusicTO GO!の運営に加え、オーディオライターとしても活躍中の佐々木喜洋氏

Robert Watt氏。DAC64以来、FPGAを利用したCHORDのD/Aコンバーターの設計にはすべてかかわっている。

 Hugo2は、CHORDの20周年モデルとして2014年に登場した「Hugo」の第2世代機。その後、DAVEなどで培った技術を取り入れつつ、より高精度な再生にこだわった製品だ。またリモコン操作に対応したり、フィルター切り替えによる音質変化を楽しめたりと機能も追加されている。

CHORDによる技術解説動画

 CHORDのアプローチは、汎用のDAC ICは使わず、FPGA上で独自にプログラミングしたデジタルフィルターを使う点が特徴だ。CHORDが自社の製品に使用する独自開発のデジタルフィルターは“WTA(Watts Transient Aligned)フィルター”と呼ばれており、その精度を示すのがタップ数である。

 従来機種Hugoでは約2万6000タップあったが、Hugo2では倍近い精度の4万9195タップにまで増やした。タップ数を増やせば、より正確なタイミング情報が得られ、空間表現などに差が出る(関連記事)。

FPGA(Atrix-7)

実際にサンプリングしたデータとデータの間を補完して、元の滑らかな信号に近づけるのがデジタルフィルターの役割だ

CHORDのDACは独自のアルゴリズムで市販DACを大きく上回る精度が出せる

 Hugo2のFPGAはMojoと同じザイリンクスの「Atrix-7シリーズ」となる。電力消費の少なさを重視しているそうだが、Hugo2はMojoよりも筐体が大きく、電力供給にも余裕が出るため、より高い負荷をチップに掛けられる。つまりその性能をフルに引き出した複雑な処理が可能になるわけだ。FPGA内蔵のDSPコアやメモリーなど論理回路の99.8%を使いきり、約800mWの電力を消費するとのこと。

 水晶クロックは104MHzで動作する。一般的なDAC ICを使ったシステムでは6MHzのクロックを使うのが主流であるため、約20倍(17~18倍)高速とのこと。高速なクロックは高精度のWTAフィルターを実現するためで、WTAフィルターの処理には208MHzで並列動作する45個のDSPコアを利用する。一般的なDAC ICと比較して約500倍の処理性能を持っているという。

WTAフィルターについての解説

ノイズシェーパーについての解説

 なおWTAフィルターは2段階あり、1段目で16fsのサンプリングレート(705kHzまたは768kHz)、2段目で256fs(11.2MHzまたは12.2MHz)の精度まで向上できるという。秒数で言うと実に81ナノ秒の短さだ。従来は8fs(352kHzまたは384kHz)と16fsだった。使用するWTAフィルターの段数(1段または2段)に加え、別モジュールで用意したHFフィルターのオン/オフをユーザー選択できるので、4種類の音の違いを切り替えて楽しめる。

 DAVEから導入したノイズシェーパーはHugo2でも搭載。104MHz動作の7次フィルターで、性能は260dBとのこと。従来の1000倍の性能とのことだ。ここは音の空間表現、特に奥行き感の再現に大きく影響する部分だという。

 FPGAではWTAフィルター、ノイズシェーパーの処理を実行したうえで“パルスアレイ信号”という6bitのPWM信号を生成する。

D/A変換部=パルスアレイDACにも言及

 FPGAから出力されたパルスアレイ信号は、“パルスアレイDAC”と呼ばれる回路を通してアナログ化する。パルスアレイDACはフリップ・フロップ回路と抵抗を組み合わせたもので、複数のセットを用意し、並列動作させている。CHORDは、このセットをエレメントという単位で呼んでおり、HugoやMojoでは片チャンネルあたり4エレメントだったが、Hugo2では10エレメントに増やした(ちなみにCHORDの最上位機種「DAVE」は20エレメントある)。

FPGAから出力されたPWM信号をアナログ信号に変換する部分。フリップ・フロップ回路と抵抗を組み合わせている。画像は4エレメントのMojoの例で、近くにクロック(XTAL2)も見える。

 複数のエレメントを使用するのは、スイッチング動作のタイミングを少しずつずらして動作させることで、時間軸方向の精度(音量の推移)を向上させられるからだ。動画やそこから切り抜いた模式図では、10段階の音量を表現している。仮に3の音量を表現しようとした場合、PWMでは10回の動作のうち、3回ぶんだけ「+」、残りの7回ぶんは「0」の信号を送る、といった感じの動作をする。

 エレメントが1つしかないと、スイッチング動作をするために常に10回ぶんの時間が必要になるわけだ。エレメント数を増やせば、信号の立ち上がりと立ち下がりの間隔が縮まり、音量変化へのレスポンスがより速く、高精度になる。

一般的なDACでは1系統のエレメントしかない。図のようにボリュームの3段階目を表すためには3回分、2段階目であれば2回分パルス信号を入れるが、これだと時間軸方向の情報量が足りない。

そこでCHORDはエレメント数を増やしている。Hugo2の場合は1チャンネルあたり10のエレメントを持つ。

各エレメントには同じ信号を流すが、タイミングを少しずつずらしている。これによって音の立ち上がりや立ち下がりの動きをスムーズに補完できる。

 また原理的にノイズに強いのもパルスアレイDACの特徴だ。音楽信号に応じてノイズフロアが上下することで生じる歪の一種である“ノイズフロア変動”もほとんど生じず、-175dBと非常に低いノイズフロアを実現しているという。また、困難というDSD信号でのノイズフロア変動歪への取り組みについても、DSDフィルターの改善で成果を上げている。

ノイズがなく滑らかなCHORD製DACの出力波形

ヘッドフォンアンプはディスクリート構成、シンプルかつ最短経路を

 ヘッドフォン出力はディスクリート構成。二次のアナログノイズシェーパーを使って、負荷と歪を低減しているとのこと。純A級動作でピーク出力は2.75Wと高出力。出力ワット数の高さに加えて、出力インピーダンスが0.025Ωと非常に低い点も特徴となる。

 測定値としては、ダイナミックレンジは126dB Awt(A特性音圧レベル)。ノイズは2.6μV AWTで、測定できるノイズフロア変動はない。歪率は0.0001%(3V、300Ω)、出力は8Ωで1050mW、33Ωで740mW、300Ωで94mWとなる。

ヘッドフォンアンプ部はディスクリート構成

ヘッドフォン出力に関する解説

高出力であることに加え、低インピーダンスでも変動が少ない

ノイズフロア変動

33Ωでのチャンネルセパレーション

ジッター

最短経路でシンプルに信号を伝達するというコンセプト

DAVEをのぞけばこれを上回るDACはない。ポータブルオーディオの新しいリファレンスになるだろうとWatt氏。

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