“わかっている人間”が舵を握るべき
―― 商工会だけでなく、観光協会や市の関係者たちが定期的に集まって、情報交換やアイデアを出していくといったことは?
松本 それはしていませんね。
坂田 行政・観光協会とは並んでいません。並ぶとダメです。
―― お、なるほど。調整、調整になっちゃうと。
坂田 らき☆すたに関しては、一部のある程度知った人間が考えていかないと、版元のスピードに絶対ついていけません。意思決定の速さが違いますから。
―― もともと伝統的なお祭りがあって、その日程にあわせて動かなくてはいけないという〆切が明確に設定されていますし、やはりこれまでの実績を下回ると寂しいから、がんばらなきゃ……というのはありますよね?
松本 今年はこういうことをやったから、来年はそれ以上にと、たしかに思います。ちょっと意外なところを突きたいとか。そのぶん産みの苦しみもありますけれど、やり甲斐もあります。
―― いま様々な地域が聖地として名乗りを上げています。先ほど地元のお店でお話を伺ったときも、大洗に行ったというお客さんがおられたとのことでした。そこに競争はあるのでしょうか? 各地域が色んな取り組みを進めていますが、ライバル意識や危機感があるのか、あるいはそうではないのか? 老舗、レジェンドでもある鷲宮としてはいかがでしょう。
松本 わたしはアニメツーリズム協会が立ち上がって、聖地を88か所選定するというのは、とってもプラスだなあと思っています。そういった場所がいっぱいあるほうが、特に地方都市には良いのではと思っています。ぽつんと1つだけ在るよりも、いくつかまとまっていたほうが、『じゃあそっちにも行こうかな』となりますし、PRもしやすいですよね。
鷲宮は「何もなかった」から自由にできた
―― ずばり鷲宮の「我々はこうだ!」という特色があれば。
松本 特色……。何もないのが特色じゃないですかね(笑)
―― (笑)
坂田 大洗さんと比較すると、あちらは海があって観光施設もあります。鷲宮はそれがないなかで、それでも訪れる人たちがいるというのが特色。そこがマイナスであり、意外とプラスなのかなと。
―― なるほどですね。何もないからこそ、何でもできる、という感じですか。
松本 意識せず自由な発想でできるかなと。
坂田 各地に聖地が生まれていますが、ホントに2人とも他所と争うとか、負けてられないとか、まったくないんですよ。
―― 広域連携になれば、自分のところがターゲットになっていなくても、近くならば寄ってくれるかもしれませんからね。
松本 鷲宮に宿泊施設がないということは、隣の地域に良い影響を出せているのでは。ライバルにするよりも、手を組んだほうが良いでしょう。
坂田 いま埼玉県が秩父・川越・入間・鷲宮を対象としたスタンプラリーを開催しています(取材時)。その打ち合わせの際に提案したのが、鷲宮で何ヵ所か回ってらき☆すたグッズをもらうのではなく、地域をぐるっと一周してもらえるように、グッズと聖地を紐づけしないほうがいいのではと。そのほうが結果的に相互乗り入れになるので、各地域に興味を持ってもらえるきっかけになると思うので。
―― 最後に、「これからウチにもアニメ作品を呼んできて盛り上げるぞ!」と考えている地域があったとして、先進地域としてアドバイスはありますか?
坂田 偉い人は黙っていろ、ということじゃないでしょうか(笑)
松本 すごくわかりやすいひと言(笑)
坂田 たとえば商工会の場合、(アニメの聖地になったとしても)いままでの売上や地域イベントのみの経験から可否を判断されてしまうでしょう。ですから、その組織内でアニメに興味がある若い人の意見を尊重して、おカネだけ出してあげるというのが一番良いと思うんですよ。
我々が好きにやれたのは、当時の会長が「好きにやれ」と言ってくれたからなので。
―― 盛り上がり始めた頃の記事を読むと、当時の会長さんは“わからない”“らき☆すたは読んでない”けれども、“ファンが好きならそれで良い”と仰っています。この姿勢は良いなと思いました。
坂田 有り難いですね。
松本 担当者の目線で言いますと、仕事だと思ったら結構キツいです。たとえばイベント事は基本、土日開催ですよね。そのときに『これ休日出勤手当は出るのかな』と考え出した途端、企画自体を止めたり先延ばしにしたくなりますよね。まずは自分が楽しめる人じゃないと難しいとは思います。
もしくは担当者のやる気を起こさせるような環境ですね。もしかすると先ほどの「上司は口出すな」につながるのかもしれません。自由にやらせる部分も必要だと思います。
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