高級腕時計の開発には厳しい時代
腕時計ほど小さくて、メカニズムの塊で、見ていて楽しいモノはほかにない。
何百年もの歴史ある時計の世界は、時に世界中の全メーカーが“正確さ”に集中的に凝ったり、ある時は防水性能に凝ったり、時に小ささや薄さ、軽量さやデザインに執念を燃やす時期がある。
その栄枯盛衰は、新素材や新技術、エンジニアや職人などの人が絡んでいて極めて楽しい世界なのだ。
今や、電波腕時計が1000円で買える時代になり、発売時には45万円していたクォーツ式腕時計なら100円で買える。モバイル型セシウム原子時計の登場を待たなくても、正確性はすでに現代の“GPS衛星電波時計”で10万年に1秒の誤差だ。筆者をはじめ多くの人はその精度もせいぜいラーメン・タイマーに使うのが関の山なのだ。
もう腕時計においてはほとんどのジャンルの競争が終わってしまい、今、世界では他社のOEM提供用ムーブメントを拝借したオシャレ風ミニマル腕時計の洪水だ。
電気自動車とまではいかないが、パソコンや万年筆と同じくらいには、腕時計も今や誰もがメーカーになって新デザインの商品を生み出せる時代になってしまった。
しかし、実際の腕時計ビジネスはなかなかタフで、表層だけのデザイン開発やベルトとのコンビネーションのオシャレな提案だけでは、すぐに多くの競争相手が現われる。
1万円台のリーズナブルな腕時計だけではビジネス上の厳しさは加速するばかりだ。そして今では販売の中心は単価がより高額な上位クラスの腕時計へと推移している。
こんな時代に、腕時計の最大基本要素である歯車を含め、ほぼすべてのパーツを一から開発、製造して、いまさらながら世界で一番薄い腕時計を作ったクレージーな会社がある。
筆者が子供の頃からオマージュしていて、大好きで、日本が世界に誇る腕時計製造の老舗のシチズンだ。15年ほど前、Linuxを搭載した「WatchPad」というクレージーなスマートウォッチを一緒に作った会社だ。
腕時計は毎年年初に開催される欧州の「バーゼルワールド」でその年の新商品のお披露目が行なわれるが、今回筆者が夏の盛りに予約衝動買いしてしまった「Eco-Drive One(AR5000-50E)」(以降、エコ・ドライブ ワン)も同会場で展示されていた製品の一つだ。
年初にウェブのニュースで見て、夏に偶然寄り道した日本橋三越の腕時計売り場で実機サンプルを確認。衝動的に予約して、先月11月25日にやっと受け取った。
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