おめでとう! 愛媛県立八幡浜工業高等学校、福岡県立香椎工業高等学校のみなさん
快挙達成! 日本の高校生がロボットの世界大会WROで金・銅、勝因はこうだ
2016年12月01日 15時00分更新
国内予選1,300チームから勝ち進んで世界で実力を見せつけた
55カ国から代表が参加する世界最大級のロボットコンテストWRO2016(World Robot Olympiad 2016)が、2016年11月25~27日、インドのニューデリー近郊で開催された。WROは、2004年にシンガポールサイエンスセンターの発案により始まった競技会。世界中で調達できる汎用型教育向けロボットとして「LEGO MINDSTORMS」を採用し、小学生・中学生・高校・17歳以上の学生が参加するもので、2~3名でチームを組み、世界で2万を超えるチームが参加する。
今年は、日本から出場したチームが、金メダルと銅メダル、ほかにも入賞が3チームと好成績をおさめた。我たちWRO Japanとしても大変にうれしい成果をあげることができた。「LEGO MINDSTORMS」は、よくご存知の方もおられると思うが、WROのようなコンテストが開催され、熱い競技が繰り広げられていることを、この機会に知っていただけるとさいわいだ。
日本では、夏休み期間中に、北は北海道から南は沖縄まで34地区で予選会を開催。2016年9月18日に、東京都江東区の体育館で開催されたWRO2016 Japan決勝大会では、参加者や見学者、ボランティアスタッフを含め1,000人を超える人たちが集まった。この国内の大会には1,300チームが参加、決勝大会を勝ち抜いた13チームが、今回インドで開催された国際大会に日本代表として進んだ。
レギュラーカテゴリ高校生部門で金メダルを受賞
WROは、大きく2つの部門からなっている。自律自走するロボットが場所や色を判断して課題をクリアする「レギュラーカテゴリ」と、ロボット使ったソリューションを企画・製作・プレゼンテーションで競う「オープンカテゴリ」だ。今回、このレギュラーカテゴリの高校生部門で、愛媛県立八幡浜工業高等学校のチーム名「YTHS Orange Ⅴ」が、みごと“金メダル”を獲得した。同校は、2011年にも金メダルを獲得したことがあるという“名門校”である。
レギュラーカテゴリは、スピードと正確性を競う競技で、約1m×2mほどのコースにある課題を、自律走行のロボットがすごいスピードでクリアしていく。具体的には、オブジェクトを指定されるところまで搬送するのだが、その機構はモーターやギアを巧みに組み合わせ実現する。小中高それぞれ別の課題であり、それにあわせて難易度が上がっていくしくみだ。
メカニクス、エレクトロニクス、プログラムなどのテクノロジー全てに高いスキルが求められ、さらにそれを組み合わせることではじめて解決できる競技だ。そして、それらのスキルの裏には、科学や数学が求められる。また、競技の朝に「サプライズルール」というものも発表され、ロボットをバラの状態から組立ててプログラミングする必要もある。ここで求められるのがエンジニアリングスキルであり、品質の高いロボットを実現するための開発スキルである。
今回の国際大会では、レギュラーカテゴリは、予選・準々決勝・準決勝・決勝ラウンドと4ラウンド制で競った。予選は、約80チームから64チームに絞り込まれ、準々決勝で32チーム。そして準決勝で16チームに絞り込まれた。今回の八幡浜の勝因は、まさに本番当日の朝に発表された「サプライズルール」への対応方法だった。他のチームとは異なり、決勝以外ではトップ3に入れなくても「ゴミ箱を積み上げる」というサプライズルールに挑戦し続けた。
他のチームは、主にサプライズルール以外のポイントは満点を取って早いタイムをとる作戦だった。彼らは、準決勝・決勝あたりからサプライズルールへの対応に力をいれはじめたが、決勝でサプライズルール対応を失敗し満点を取れない。それに対して、予選から一貫してサプライズルールに対応をしてきた八幡浜は、着実にその確度をあげてきて、決勝では八幡浜だけがサプライズルールをクリアし、満点をゲットし優勝するという結果となった。
決勝でのパーフェクト走行(0:45あたりの歓喜、1:10あたりの歓喜)
ほかにも八幡浜は、チームの役割分担を明確にして、互いに信用し任せるということでも最高の結果を導いた。このような役割分担、うまくいっているときはいいが、失敗が続くと互いの領域に対して口を出したくなるもの。しかし、八幡浜は、予選ラウンドからのサプライズルール対応の失敗を繰り返したときも、お互いを信用し任せることができた。国内の地区予選前から一緒に戦ってきたチームワークが国際大会での結果を導いたといえる。
昨年は、レギュラーカテゴリ高校生部門で日本が銀メダルと銅メダル、金メダルは台湾チームに輝いた。今年、八幡浜の後にその台湾チームが走行、サプライズルール対応を失敗すると、優勝できないために途中でロボットを取り上げリタイアを宣言。優勝しかねらっていなかったのか、とても悔しそうな表情が印象的だった。また、別コースでだが、準決勝で上位だったロシアやタイも同じく、サプライズルールを失敗するとチームメンバーや応援団から悲鳴に近い声が響いていた。
なお、同じレギュラーカテゴリ高校生部門では、帝塚山高等学校が5位に入賞、小学生部門では大阪市立平野西小学校&大阪市立喜連東小学校のチームが8位に入賞している。参加チーム数から考えても、こちらも、十分に輝かしい結果で拍手を送りたい。
オープンカテゴリ高校生部門で“銅メダル”を受賞
もう1つの「オープンカテゴリ」は、ロボットでの課題解決システムを開発しプレゼンテーションするものだが、銅メダルを受賞したのが福岡県立香椎工業高等学校のチーム名「KASHII WPC」だ。現在のビジネスでは、イノベーティブな製品やサービスが求められるが、このカテゴリはまさにイノベーティブな提案が求められる。「レギュラーカテゴリ」が、ミッションをクリアする精度と速度を評価基準とするのに対して、オープンカテゴリの評価基準は、創造性の高さ、制御やデザイン、そしてプレゼンテーションである。
今年の国際大会で提示された課題は「RAP THE SCRAP!」と名付けられたもので、ゴミのリサイクルに関連するソリューション。2m×2m×2mのエリア内で、製作物をデモンストレーションしつつ、審査員にプレゼンテーションする。国際大会では英語のプレゼンテーションと質疑応答が必要となる点も、グローバル社会での活躍が期待される子ども達にはいい機会となるものだ。
初日は、朝から夕方までブース設営。2日目の本番、国際審判員が2名1組となり各チームのブースをまわってくる。異なる国際審判員が3回ほどまわってくるのだが、各チームのプレゼンテーションは最大5分間、その後、2~5分の質疑応答が行われる。ちなみに、「レギュラーカテゴリ」は、LEGO MINDSTORMSおよびLEGOのパーツ以外の使用は認められないが、「オープンカテゴリ」は、LEGO MINDSTORMS本体(マイコンが搭載されているインテリジェントブロック)によって制御されていれば、レゴ以外の部品も利用可能となっている。
香椎は、廃油からアロマキャンドルを生成する再生プラントをつくりあげてきた。電気ポットを改造し廃油を温め、アロマオイルと混ぜ合わせロウソクを生成する。3回のプレゼンテーションにおいて、実際に動作させるデモで2回失敗してしまった。しかし、このミスも寸劇によって救われたという。3人で寸劇を披露し、ソリューションの意味や、システムの構造や特徴を余すことなく国際審判員に伝えた。この寸劇が国際審判員の興味・関心を引きつけ、デモのミスも気にならないようなプレゼンテーションを行った。
また、他のチームよりも多く国際審判員からの質問があった。これはこれまでの実績からみて、国際審判員が興味を持っている証拠である。印象に残るのは、香椎のブースはカーテンがされて、中が見えない時間が多くあった。他のブースは常にオープン状態で、国際審判員以外の多くの人がブースを訪れて見てくれる。香椎はこれらをシャットアウトし、審査以外の時間をデモやプレゼンテーションの精度をあげていたようである。コーチは「彼らはシャイだから」と笑っていたが、結果として銅メダルを獲得できているので作戦だったと考えられる。
表彰式のようす。オープンカテゴリ高校生部門には横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校が4位に入賞している。
日本では、ようやくプログラミング教育が注目されてきている。2020年には、小学校で必須科目となるとされている。しかし、海外ではプログラミング教育というよりもコンピュータサイエンス教育、あるいは、STEM教育(Science、Technology、Engineering and Mathematics=Artを加えてSTEAMとも)と表現されるとおり、プログラミング以外のコンピューターは当然として次の議論がはじまっている。日本は、プログラミング教育こそ注目されてきたが、まだこの方向にはあまり動けていないように見える。
WROは、名前のとおりロボットが対象であり、ロボティクスが主たる領域となる。ロボティクスは、メカニクス、エレクトロニクス、制御工学などが対象であり、ここにプログラミングが含まれる。しかし、ロボティクス以外にも、リサーチ、アイディア、プレゼンテーション、プロジェクトマネジメント、コミュニケーション(英語含む)、チームワーク、リーダーシップと、まるで総合格闘技のように多くの学び要素を含んでいる。
WRO Japanとしては、今回紹介したロボット競技を通してグローバルに活躍する若者が増える事を期待し、2017も継続しWROを日本で開催する予定である。今回のWRO2016 Indiaで活躍した高校生たちに大いなる拍手を送っていただけるとともに、WRO Japanでは、一緒に子ども達に学びと挑戦の機会を提供するボランティア、スポンサーを募集しているので関わっていただける方はぜひお声掛けいただきたい。また、WROは、小中学生や初心者でも気軽にはじめてチャレンジする工夫がされていることも特徴。興味のある方はぜひ参加も検討してみていただきたい。初参加に向けた体験会等のイベント情報は、WRO Japanの公式サイトやFacebookをチェックしてほしい。
最後に、今回、印象に残ったことのひとつに、レギュラーカテゴリ高校生部門の銀メダル、銅メダルは、内戦が続くシリアのチームが受賞したことだ。シリアはオープンカテゴリ中学生部門でも銀メダルを受賞していた。シリアのコーチで日本語が堪能な大学の先生と知り合うことができたが、国際情勢において緊迫が続くシリアであるが、子ども達のチャレンジ機会を頑張って提供しているとのことであった。
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