現場に寄りそう薬剤師間の「知見」連携を支えるクラウド、新人教育や院外連携にも
日々更新される医薬品情報をkintoneで共有、高知医療センター
2016年11月30日 08時00分更新
医薬品情報の検索性向上に向けて「kintone」を導入
段松氏はまず、検索キーワードを医薬品名に絞ることにした。そうすれば「医薬品名で検索してください」と周知すれば済む。しかし問題は、医薬品名だけで必要な情報にたどり着けるようナビゲートする、窓口がないことだった。
「医薬品名の一覧も、それぞれの医薬品に関する情報もすでに揃っていましたが、これらを横断的に検索できる仕組みがありませんでした。何かわかりやすい入り口を提供しなければ――。そう考えていたときに、引き寄せられるように見つけたのがkintoneでした」(段松氏)
kintoneならばノンプログラミングで検索ポータルを作ることができる。まずは無料で試用し、求める機能要件を満たせそうなこともわかった。“医療現場とクラウド”は、セキュリティなどの観点から相性が悪そうにも思えるが、薬剤局に関しては事情はまったく違うという。
「むしろ、医薬品に関する最新の情報はインターネット上にあるんです。個人情報を扱うわけではないので、院内LANで情報共有をしていた当時から、クラウド化の要望が出ていたくらいです。院内LANにつながっている端末の順番待ちをすることなく、インターネットにつながっている好きな端末から情報を得ることができますから」(段松氏)
実際にkintoneが導入されたのは、2015年春のこと。当初は医薬品の知識が少ない新人が積極的に使うことを予想したが、案に相違して、まず飛びついたのはベテラン薬剤師だったという。幅広い知識を持つがゆえに、細かい部分で正確な情報を確認したくなるのかもしれない。
そして、ベテランが医薬品情報を手軽にチェックする様子を見て、新人たちにもkintoneは浸透していった。最初の半年で900ログイン程度、次の半年では1200ログイン程度まで利用が広がっていった。薬剤師を支える力としてkintoneが浸透していく一方で、DI室はこれまでの大量の手作業から解放され、空いた時間をより有効な業務に割けるようになったという。
kintone上の情報に双方向性を持たせることでベテランの知見を現場の力に
kintoneでシステムを構築する際に工夫した点をうかがったところ、段松氏は「それぞれの医薬品にコメント欄を設けたこと」だと答えた。単純な工夫のようにも感じるが、それがもたらす効果は実に大きなものだった。
「そもそも、新人の薬剤師の教育という課題がありました。薬学部が6年制になりましたが、それでも現場に出てきたばかりの新人が持っている知識は十分とは言えません。現場で身につけていかなければならないものも多くあります」(段松氏)
新人教育にはベテランの力が必要だが、前述のとおり薬剤師が各フロアに分かれて配置されており、薬剤局の中でベテランの持つ知見を新人に共有することは難しくなっていた。その状況を打破するために段松氏は、コメント欄を用意したのだ。
「コメント欄には、現場で実際に見られた症状などが書き込まれます。DI室からの一方的な情報ではなく、現場にいるベテランの地検が詰まったデータベースが作りられていくのです。次に同じ医薬品について調べた薬剤師は、院内の先輩の知見を活かしながら医薬品を処方できます」(段松氏)
クラウド化したことでタブレット活用や院外連携も視野に
kintoneを使ってクラウド化したことによって、インターネット端末とアカウントさえあれば、好きな場所で医薬品情報にアクセスできるようになった。段松氏が「次の一手」と考えているのが、各フロアでのタブレット活用だ。LTE接続できるタブレットを各フロアに配布すれば、病室や患者のいる現場で医薬品情報を参照しつつ、医師や看護師に処方を指示できるようになる。これが実現すれば、各フロアに薬剤師が配置されている意義はより大きくなるだろう。
「インターネットに接続さえできれば使えるので、将来的には連携している医局や、地域の医院などにも開放できるのではないかと考えています。まだ構想の段階ですが。別の方向性として、院内の他の職種でもkintoneが役立つ業務があるのではないかとも思っています」(段松氏)
課題が残っていないわけではない。日々情報が変化する中で、kintoneに登録しているページにリンク切れが目につくようになった。こうしたリンク切れを自動的に検出する機能を実装できないか、横断検索だけではなくアプリを指定した検索機能を実現できないか、段松氏はさらなるシステム拡張について考えを巡らせ続けている。薬剤師が治療現場における縁の下の力持ちだとしたら、kintoneと段松氏は、それをさらに下から支える「地盤のような力強い存在」と言っていいだろう。
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