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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第381回

業界に痕跡を残して消えたメーカー 低価格チップセットの雄C&T

2016年11月07日 11時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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ビデオカード事業に進出
SCSIやLANなどあらゆるパーツにチップを供給

 チップセットに続き同社が手がけたのがビデオカードである。今でこそビデオカードはワンチップで構成されているが、IBMのEGAカードはこんな感じであった。

これだけ部品が載ってれば、フルサイズカードになるのも無理ないところ

 これもチップセット同様に複数のチップをまとめることで、大幅に低コスト化や省サイズ化が期待できる。1987年に出荷されたEGA CHIPSetはこの膨大な数のEGA用の部品を4チップに集約し、これも好評を得る。

 IBMがPS/2向けにVGAをリリースすると、すぐにVGA互換のチップセット(これはI/FはMCA)を作り、さらにXT/ATバス上でVGAを利用できる互換チップとして82C411をリリースする。さらにこれを拡張したSuperVGAチップとして82C451をリリース、これはベストセラーとなる。

 実際初期のPC市場では、この82C451がある種の標準になっており、例えばWindows 3.0のGDIエンジンの内部では、Cirrus Logic GD542xとS3 911、それにこの82C451用向けに専用のBitMap操作用アクセラレーターが標準で搭載されていた。

 このあたりは連載137回でも触れたが、ATIの最初期の製品であるVIP VGAは、82C441のOEM供給を受けて名前だけ変えたものである。

 他にもStarLANと呼ばれる、ツイストペアケーブルを利用したEthernet(*1)のチップセットを1986年に出荷したり、SCSIコントローラーや3270通信コントローラー、IDE/SCSIのディスクコントローラーと、初期にはPCに関わるものすべてに製品を出していた感がある。

 さらには自社内でLSIを設計するためのCAE(Computer Aided Engineering)システムを開発し、これを利用してのICの設計サービスなども始めている。

 これは今で言えばデザインハウスに相当するもので、顧客の要望を聞いたうえで、それにあわせてLSIの論理設計と物理設計を行ない、外部のファブで製造して納品するというものだ。

 半導体業界はちょうどこの頃からいわゆるファウンダリービジネスが成長を始めており、これにあわせて、例えばパッケージだけを行なうベンダーや、テストのみを請け負うベンダーなど、LSI製造に必要なさまざまなサービスが立ち上がっていたため、C&TはLSI製造に関わるすべてを自社で抱え込まずに、設計のみに特化する形でビジネス行なうことが可能になった。

ライバルの出現で
売上に陰りが見え始める

 こうしたさまざまなビジネスを一挙に展開したことで、同社のビジネスは1980年代に急速に伸びたが、1990年に入ると環境は次第に厳しくなってきた。理由は簡単で競合の出現である。

 1987年には台湾のVIA TechnologyやSiS(Silicon Integrated Systems)が創業し、それぞれPC向けチップセットビジネスに乗り出す(製品が出てくるのは1990年代前半の遅い時期である)。

 米国でもOPTiやAMi(American Megatrend Inc.)、ETEQ Microsystemsなどがやはりチップセットを自身で製造し始めていた(AMiは自社製品向けのみで外販はほとんどなかったようだが)。

 もっと厳しいのがビデオカード向けであり、例えば1990年にはS3 86C911が出荷されている。これに先立ち1987年にはCirrus Logicも製品を投入している。あとは細かいところでOAK TechnologiesやTrident Microsystemsなども安価な製品を投入し始めていた。

 競争が激化すると、しばしば価格競争に陥るというのはよくある話である。C&Tの1986~1992年の売上と営業利益を見てみよう。

C&Tの売上と営業利益
年号 売上 営業利益
1986年 6750万ドル 150万ドル
1987年 8020万ドル 1290万ドル
1988年 1億4150万ドル 2210万ドル
1989年 2億1760万ドル 3300万ドル
1990年 2億9340万ドル 2930万ドル
1991年 2億2510万ドル -960万ドル
1992年 1億4110万ドル

 1992年の営業損益は数字不明なのだが、1991年における粗利は36.7%の8250万ドルだったのに対し、1992年には12%の1700万ドル、という数字があるので、おそらく相当赤字だったと思われる。

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