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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第156回

QUEENブライアン・メイのギターを日本人製作家が作るまで

2016年10月29日 12時00分更新

文● 四本淑三

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セオリーに縛られない自由なギター

―― でもレッド・スペシャルはギターの設計としてなっていない、という評価もありますよ。

伊集院 それは偏見です。ものすごい幸運が重なった結果だろうとは思うんですけど、それも含めて唯一無二のものなんですよ。一般常識であるとか、変な楽器業界のセオリーに縛られていない。本当に自由な発想、まったくほかのなにも真似をしていない。作れば作るほど、調べれば調べるほど、そうなんです。

―― ギターの作り方がわかっているプロだったら、ああいう風にはならないでしょうからね。

伊集院 ならないですね。でも、それがちゃんと機能している。もう完成してから50年以上も経っているのに。それに、あのブライアンの音を悪く言うギタリストはいないと思うんですよ。サウンドの好き嫌いはあっても、誰がどう聴いてもブライアンの音ですから。

―― そしてあのギターはどんどん神格化されていく。

伊集院 逆にいろいろ尾ひれがついて、あのギターは弾きにくいとか、ギターとして良くないとか。たしかに弾きにくい部分、扱いづらい部分はあります。だけど、あれはブライアンが自分のために作ったものなので、万人が弾きやすいものである必要はない。それを補って余りあるいいところもたくさんあるんです。

―― それはどこでしょう。

伊集院 まずピックアップの直列配線。ピックアップが3つあって、足していくと出力が2倍になる。実際にはインダクタンスなんかがあって、単純に2倍になるわけではないですが、感覚的にはものすごくストレートに扱える。そしてフェイズアウトにしたときの劇的な効き方。

 でも、直列につないでいい音が出るわけないと言う人もいる。ああいう配線は一般的ではない。だから試しもしないで、おかしいと言うわけです。レッド・スペシャルはすべてにおいてそうなんです。たとえば指板のペイント、ゼロフレット。それに、あんな構造のトレモロユニットやブリッジはないですから。

友人所有のKz Pro。指板は高級木材のエボニーに似せるためオーク材に塗装され、表面はツルツル。ヘッド側の弦の支点はナットではなくゼロフレット。ナットで安定したピッチを得られないため考えられた仕組みで、最近はめったに見ない。しかし開放弦と押弦時の音の差が少なく、ギブソンが2015年型のレス・ポールに採用するなど利点も見直されつつある

―― おかしいと言えば全部が変わってますからね。

伊集院 ただ、良くないのは、ネックがめちゃくちゃ太いんですよ。クラシックギターみたいで、それは単純に弾きにくい。でも、そのおかげでサスティンがあったり、音に与える影響も大きい。研究すればするほど、いろんな部分が理にかなっている。だから、あの音を出したければ、完成度の高いオリジナルに近いレッド・スペシャルが、どうしても必要になってくる。

 あの、やたらにブリッジに近いピックアップの位置も、ものすごく大事です。ボヘミアン・ラプソディのソロのあのフレーズで、倍音が上手く反転して美味しい音になるかならないか。それはピックアップの位置や高さも含めて、かなりシビアな要素で決まるんです。だからレッド・スペシャルはレッド・スペシャル。それ以外に言いようがない。

同じくKz Pro。電気系の特徴は直列接続された3つのピックアップと、各ピックアップ独立したオン/オフとフェイズスイッチ。リアピックアップはブリッジ直近にレイアウトされているため、単体では微弱な信号しか拾えず使い物にならない。よってセンターピックアップと同時に使うしかないが、それが様々なマジックを生む

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