現場に赴くのは事業品質を高めるため
1月の社長就任時、久保社長は社員に向かって「私はキヤノンS&Sの歴代社長にように威厳も貫禄もない。だが、いままでの社長との最大の違いは、社員の一番近くにいる社長である」と宣言してみせた。
もともと複写機の営業一筋だった久保社長は、営業現場の状況を熟知している。社長就任前から最前線の現場を訪れ、社員とのコミュニケーションを通じて事業を成長させてきた手法は、社長就任後もそのままだ。
実際、社長就任以来の8ヵ月間で、全国約30拠点を直接訪問。2年以内に全国185拠点をすべて訪問する考えだ。
「全拠点を訪問することを目標に掲げた社長は私が初めて」と久保社長は笑う。
もちろん、訪問することに目的があるわけではない。その場で社員との会話を通じて、会社の方針を直接伝えることで、キヤノンS&Sの事業品質を高める狙いがある。
現場の社員と話し、社員を育てる
「5000人を超える所帯とはいえ年間約100人の社員が辞めている。なぜ、これらの社員が辞めることになったのか。その理由のひとつには、社員をしっかりと育てられなかったのではという反省がある」とする。
一般的に営業会社は3年で3割、5年で5割の社員が退社するとも言われている。長続きしない職種のひとつでもある。
「仕事についていけない」、「先輩のように働けない」などの理由も多い。だが、なかには「社員を育てようという意識が感じられない」という厳しい声もあったという。
「年間100人という数字は、10年継続すれば1000人。それだけの人がキヤノンS&Sに不満を抱いて去っていった。辞めた社員から、次の職場に行ってキヤノンS&Sを辞めなければ良かったという声も聞くこともあるが、一度でも強い気持ちで辞めたいと思わせてしまったことは事実。言うは易しであることはわかるが、社員を育てること、もっとコミュニケーションを強化することに力を注ぎたい」
直接現場をみて、若い現場の社員と会話をすることに力を注いでいる理由のひとつはここにある。
一方で、社員が辞めたら補充すればいいという発想が社内にあることも悪しき文化のひとつだと位置づける。
この連載の記事
-
第606回
ビジネス
テプラは販売減、でもチャンスはピンチの中にこそある、キングジム新社長 -
第605回
ビジネス
10周年を迎えたVAIO、この数年に直面した「負のスパイラル」とは? -
第604回
ビジネス
秋葉原の専門店からBTO業界の雄に、サードウェーブこの先の伸びしろは? -
第603回
ビジネス
日本マイクロソフトが掲げた3大目標、そして隠されたもう一つの目標とは? -
第602回
ビジネス
ボッシュに全株式売却後の日立「白くまくん」 -
第601回
ビジネス
シャープらしい経営とは何か、そしてそれは成果につながるものなのか -
第600回
ビジネス
個人主義/利益偏重の時代だから問う「正直者の人生」、日立創業者・小平浪平氏のことば -
第599回
ビジネス
リコーと東芝テックによる合弁会社“エトリア”始動、複合機市場の将来は? -
第598回
ビジネス
GPT-4超え性能を実現した国内スタートアップELYZA、投資額の多寡ではなくチャレンジする姿勢こそ大事 -
第597回
ビジネス
危機感のなさを嘆くパナソニック楠見グループCEO、典型的な大企業病なのか? -
第596回
ビジネス
孫正義が“超AI”に言及、NVIDIAやOpen AIは逃した魚、しかし「準備運動は整った」 - この連載の一覧へ