どん底からの起死回生
zipドライブが会社を救う
新しい製品とはZipドライブのことで、1994年末に市場投入された。ZipドライブはBernoulli Diskとはまったく異なっており、少なくともベルヌーイの原理は利用していない。
ただSyQuestよりは安価で、ちょうどFDDとHDDの中間といったあたりか。とにかく低価格にこだわった構造であり、これが理由で初期にはClick of death(死のクリック)という現象が多発した。下の動画がそれである。
さて、ここからIomegaは再び急成長する。Zipドライブは本体199ドル、100MBカートリッジが19.95ドル、25MBカートリッジが9.95ドルという値付けをなされたが、これは驚くほど爆発的に売れた。
発売初日は即座に売り切れとなり、1995年1月末時点でのバックオーダーは1億7500万ドル相当に達している。結局1995年度の同社の売上げは3億6200万ドルに達した。2ドル近辺で低迷していた株価は、1995年中旬には20ドルあたりまで戻している。
この当時のZip人気を物語る1つのエピソードとして、本体そのものではなくZipのロゴが入ったTシャツや帽子、ペンといったグッズの売上だけで8万ドルを超えていたことが挙げられる。普通は販促用に無料で配るようなものが、これだけの売上を見せるのは珍しい。
Iomegaの建て直しを終えたWenninger氏は1994年に辞任、後任にはKim Edwards氏が就く。1996年には、より大容量のJazドライブも発表された。
こちらは当初1GBで、後に2GBも追加されている。さらに1998年にはデスクトップ向けのテープドライブであるDitto(Photo04)、1999年には超小型メディアであるClik!など、さまざまなラインナップを拡充していく。
画像の出典は、“Wikipedia”
こうしたラインナップの充実もあって、1996年の売上げは12億ドル、翌1997年には17億ドルもの売上に達している。その1997年の営業利益は1億7000万ドルを超えており、なるほどSyQuestがひとたまりもないわけである。
国内の話をすると、1995年にはセイコーエプソンと代理店契約を結んでおり、1996年には日本法人としてアイオメガ株式会社も設立され、国内でも本格的に拡販がはじまっている。
ちなみにこの1996年5月には、株式分割を行なったにも関わらず株価が82.6ドルまで高騰しており、このあたりがIomegaの頂点といっていいだろう。
フラッシュメモリーの台頭で
世代交代の波に飲まれる
ではこの後どうなったか? ということで、おなじみForm 10-K(有価証券報告書)から売上と営業利益、社員数を拾ってみた結果がこちらである。
| Iomegaの売上と営業利益、社員数 | |||
|---|---|---|---|
| 年号 | 売上 | 営業利益 | 社員数 |
| 1996年 | 12億1277万ドル | 9996万ドル | 2926人 |
| 1997年 | 17億3997万ドル | 1億7771万ドル | 4816人 |
| 1998年 | 16億9439万ドル | -7597万ドル | 4865人 |
| 1999年 | 15億2513万ドル | -6474万ドル | 3907人 |
| 2000年 | 13億0018万ドル | 1億4823万ドル | 3429人 |
| 2001年 | 8億3109万ドル | -1億2000万ドル | 2097人 |
| 2002年 | 6億1436万ドル | 7186万ドル | 850人 |
| 2003年 | 3億9134万ドル | -3713万ドル | 591人 |
| 2004年 | 3億2866万ドル | -3547万ドル | 462人 |
1998年の突然の赤字転落の責任を取る形で、Edwards氏も1998年に辞任。後任にはRockwell Automationから来たJodie K. Glore氏が就くが、一度衰退傾向が出てきた会社の勢いを止めるのは難しかった。
なにが理由であったかといえば、これまた「市場の飽和」に尽きる。2000年の製品別売上を抜き出すと、純粋にすべての製品の売れ行きが落ちていることがわかる。
| Iomegaの製品別売上 | |||
|---|---|---|---|
| 1998年 | 1999年 | 2000年 | |
| Zip | 11億8300万ドル | 12億 300万ドル | 9億8800万ドル |
| Jaz | 4億1700万ドル | 2億5900万ドル | 1億6200万ドル |
| CD-RW | 2400万ドル | 1億2400万ドル | |
| PocketZip(Clik!) | 200万ドル | 1300万ドル | 2000万ドル |
| Ditto | 8100万ドル | 1900万ドル | 500万ドル |
| その他 | 1100万ドル | 700万ドル | 100万ドル |
CD-RWは1999年に投入された外付けのCD-RWドライブのことだが、もうZipともJazともなにも関係のない、単なるPCの周辺機器である。こうしたもので売上を持たせようとしたのだが、焼け石に水であった。
ではなぜで飽和したかというと、フラッシュメモリーの台頭である。1990年中旬から投入されたさまざまなフラッシュメモリーベースのメモリカードは、当初こそ小容量であったが、毎年倍増に近い勢いで容量を増やし、これを利用するデジタルカメラの普及もあって、あっという間にZipの容量に追いついた。
CompactFlashを例に取れば、1994年の発表時には2MBの容量だったのが、2000年にはすでに256MBが登場している。2002年には1GBのものも投入されており、これまでZipやJazなどを利用してきた用途がこうしたメモリカードで代替できるようになってきた。
2000年頃にはもっと汎用的なUSB Flash Drive(いわゆるUSBメモリー)も広く普及するようになっており、もはやリムーバブルメディアそのものの需要がなくなった。
Glore氏も2001年3月に辞任、後任には当時CFOだったBruce R. Albertson氏が就くが、Albertson氏も同年5月に辞任という具合に、同社はこのあたりから完全にマネジメント層が事実上不在の状況が続き、急激に売上げを失っていく。
社員数の激減も、リストラによるものも少なくなかったが、自発的に辞任した人も多かったと聞く。それでも倒産する前に、EMCに買収されただけまだマシというところか。
EMC買収後の2013年、LenovoとタイアップしたベンチャーであるLenovoEMCにIomegaのブランドは移管されており、現在もIomegaの名前を冠した製品が存在する。ただ、果たしてそのブランド名にどこまで意味があるのか、筆者には正直わかりかねる。

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