神奈川県逗子市のギター工房、Kz Guitar Works(ケイズギターワークス)が、初のオリジナルモデル「Kz One Standard」を発表した。
セミホロウ(中空)の軽いボディーにセットネック。動きのなめらかなケーラー製のトレモロユニットに、ゴトー製のロックペグという、チューニングの安定に配慮したモダーンなパーツ構成。直列接続された3つのピックアップは、オン/オフとフェイズ切り替えの組み合わせで、13通りのサウンドバリエーションが得られる。
Kz One Standardは、逗子の工房で製作されるオールハンドメイドのギターで、細かいオーダーも効く。価格は税別35万円からスタート。まったくもって安くはないが、ほかのギターには代えがたい魅力がある。
このギターを設計したKzの伊集院 香崇尊(いじゅういん かずたか)氏は、ブライアン・メイのアイコンでもある「レッド・スペシャル」のオフィシャル・シグネチャーモデル「Brian May Super」を制作したことで世界的にも知られている人だ。
レッド・スペシャルは、少年時代のブライアンが、父親のハロルドとともに作り上げたもの。「世界一有名な自作ギター」と言われ、クイーンの独創的ギターサウンドの秘密を握る鍵として、長年憧れてきたファンも多いはずだ。しかし、ギターを設計した経験がない父子が考えたもので、普通のギタリストには扱いにくいと言われてきた。
そうした点を熟知している伊集院氏が、一般的なギタリストにも扱いやすく、かつレッド・スペシャルのサウンドキャラクターを維持できるギターとして、ゼロから設計したモデル、それがKz One Standardなのだ。
今回は、そのKz One Standardについて語る前に、そのトリガーとなったレッド・スペシャルとは、そもそもどのようなギターなのか。私の友人が、限定生産されたレプリカモデル「Kz Pro」の1本を持っているというので、まず、その実物を見せてもらいに行った。
インターネットで暴かれる「あの音」の謎
ところで、このKz Proの所有者である私の友人については、単に友人と呼ぶのみに留めておきたい。先を読めばわかるが、この友人には素性を知られてはならない理由がある。そのため、私と同い年でありながら、今は一部上場企業の代表取締役であるという、極めて大雑把なプロフィールしかお伝えできないのが残念である。
しかし、Kz Proは会社の社長室にあるというので入ってみると、壁にはコードフォームの一覧表、床にはVOXのValvetronix、VOXのワウ型ドアストッパー、Ampegのロゴ入が入った椅子、棚にはフライヤーのトレブルブースターやVOXのブライアン・メイ・シグネチャーモデルのVBM-1が並んでいて、いろいろわかりやすい。いいのかこれで。
そして、これがKz Guitar WorksのKz Pro。美しい!
―― で、これ、いくらしたの?
友人 90万くらいですかね。
―― きゅ、きゅーじゅーまんえん! しかしまたなんで、そこまでブライアン・メイにハマりましたか。
友人 音ですよ。あの変な音。ほかのギタリストとはぜんぜん違う音じゃないですか、クイーンのギターって。小学校のときに聴いて感銘を受けて、どうやってこんな音を出しているんだろうと。我々の世代って、大体そうじゃない。
―― ジャケ裏に「No Synthsizers」って書いてあったりして。それで、あのギターさえあれば、あの音が出るんだと思ってたよね。
友人 まあ、いまになって思うんだけど、まったく同じ機材を揃えたからって、同じ音が出るとは限らない。信号を解析すると同じような音は出ているのかもしれないけど、やっぱ指使いとか手癖みたいなものが、一番大きいのかなって。
―― 一度、追い込んでみるとわかるよね。でも、僕らが子供だった1970年代には「100年前の暖炉の木を使ってお父さんと作った」みたいな朴訥とした話しかなかったけど、まあ最近はいろんな情報が出てきて、それがおもしろかったりするんだろうね。過去の謎解きみたいで。
友人 やっぱりインターネットのせいじゃないですか。いままで謎のベールに包まれていた事実が続々と。私がKz Guitar Worksを知ったのもインターネットだし。
Image from Amazon.co.jp |
なおレッド・スペシャルの詳細については、DU BOOKSから出ている「レッド・スペシャル・メカニズム クイーンと世界をロックさせた手作りギターの物語」が詳しい。ブライアン・メイ本人が様々な種明かしをし、内部構造がはっきりわかるレントゲン写真まで載っていて素晴らしい。 |
―― それ、いつ頃の話ですか。
友人 10年ちょっと前。探していたんですよ、ブライアン・メイのギターのレプリカを。そしたらBurnsから安いコピーが出ているというので、まずそれを買ったんだけど、どうも本物と違う。
―― 形だけ似たようなものじゃ嫌だと。
友人 それで、インターネットの掲示板があるのね、アメリカの。そこにマーク・レイノルズという、実際にブライアン・メイのギターのレストアに付き合ったイギリス人がいて。いろいろ細かい話をしていたら、もう全然違うものに思えてきて。そうしたらスティーブ・ターピンという人がカリフォルニアにいて、その人がRS Guitarsというブランドで、レッド・スペシャルスタイルのギターを作っている。2000ドルちょっとだったかな。それを買ったの。でも、それも本物とちがう。
―― なんかもう取っ替え引っ替え大変ですな。
友人 で、日本にはKz Guitar Worksという工房があると、その掲示板に載っていたんですよ。
―― 灯台下暗しっていうか。
友人 まず「Kz Junior」というモデルを買ったわけね。それはKz Proの廉価版というポジションなんだけど、フィンガーボードはエボニー、トレモロユニットはウィルキンソンのローラーサドル付きだったりして、逆にギターとしては、そっちの方が当たり前でよくできている。こっち(Kz Pro)は、その廉価版を元に、普通そういう風には作らないだろうってところまで、本当にオリジナルの細かいところまで再現しているんですよ。
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