レトロゲームの復刻事業に取り組む『D4エンタープライズ』
中の人とTAKERUの出会い
人物紹介
株式会社D4エンタープライズ
代表取締役
鈴木 直人
レトロゲーム総合配信サイト『プロジェクトEGG』でおなじみ株式会社D4エンタープライズのトップ。
株式会社D4エンタープライズ
開発部
丸山 武志
鈴木氏と同じくTAKERUを当時利用していた。
「いつまでも出ないPC-88版のおまけディスクが初めてのTAKERU」
レトロゲームの復刻を手掛けるD4エンタープライズの社員にも、TAKERUを利用したことのある人物がいる。店頭にTAKERUがあるのは知ってはいたが、見た目がキレイでおまけも多いパッケージ版の方に魅力があり、なかなか利用するに至らなかったというのが鈴木氏だ。
当時『メルヘンヴェール』というゲームが好きだったのだが、PC-98版では『Ⅱ』まで出ているのに、当時所有していたPC-88版としては『Ⅰ』しか出ていなかった。どうしても『Ⅱ』がプレーしたかった鈴木氏としては、歯がゆい思いをしていたという。
「そんなときに、『メルヘンヴェールⅡ』につながるストーリーや音楽だけを収録したおまけディスクみたいなものが、TAKERUで発売されたんですよね。これを購入したのが、TAKERUを初めて使った時だと思います」
とはいえ、それほどTAKERUを頻繁に使っていたわけではなかった。何より、パッケージ版ならレジに商品を持っていけばすぐに買えるのに、TAKERUで購入する場合はFDへの書き込みを待たねばならず、長時間その場にいる必要があったからだ。当時は今ほどゲームやPCへの理解がなかっただけに、「あいつ、パソコンゲーム買ってるオタクだ!」と思われるのが嫌だったという。とくに多感な中高生であれば、なおさらだ。わざわざ電車に乗って遠くの人通りの少ないお店で購入していたという話に、うなずく人も少なくないだろう。
それでもTAKERUでちょくちょくソフトは購入しており、印象深かったというのが『ソーサリアン』のシナリオ集。とくに『セレクテッドソーサリアン』は1~5まで販売され、すべてそろえて応募券をTAKERU事務局に送ると、専用ケースとラベルシールが送られてくるというサービスがあったのだ。
小さな会社でもすぐにソフトを販売できたのがTAKERUのよさ
TAKERUでソフトを買ったのは、「パッケージと比べて安かったから」というのが丸山氏。当時高校生だったので、時間はあってもお金がないという状態。同じゲームが遊べるのであれば、少しでも安い方がいいということから、TAKERUをよく利用していたという。初めて購入したのは、『ユーフォリー』というX1用のゲームで、正確には覚えていないが、パッケージ版と比べて1000円くらい安かったそうだ。
「購入すると生メディアが出てきて、自分でドライブに入れて書き込むというのがものすごく斬新に感じました。マニュアルもその場でガーガーと印刷されるという……かなりのインパクトがありました」
X1turboを所有していた時はあまりTAKERUは利用していなかったが、後にX68000へと買い替えるとTAKERU専売ソフトが結構多く、それ目当てで利用することが増えていったそうだ。例えばウィンキーソフトのシューティングゲーム『オルテウスⅡ』など、手ごろな価格でかなり遊べるソフトが多かったという。
「就職した会社がM.N.M Software(現マインドウェア)といいまして、そこはTAKERUでソフトを販売していたんですよね。つまりTAKERUには、ユーザーとしてはもちろん、ソフトを提供するソフトウェア会社側としても接していました」
就職して最初に発売されたのが、TAKERU専売となる『アルガーナ』というアクションロールプレイングゲーム。音楽に古代祐三氏の曲を採用するなど力の入った作品で、かなり好評を得たという。大手のソフトウェア会社であればパッケージで大々的に売り出し、全国ショップで販売できるが、小さな会社は資金力がないことが多く、コストのかかるパッケージソフトはなかなか作りづらい。そういった会社でも立ち上げ時からソフト販売ができるプラットフォームとして、TAKERUは大きな役割を担っていたのではないか、というのが丸山氏の見解だ。
また、M.N.M Softwareは積極的にTAKERUでソフトをリリースしており、丸山氏も新人プログラマーとして採用された直後から、ソフトを作成したという。
「X68000用のスプライトエディターですが、『ぴくせる君』というのが私の商業デビュー作です。「こんなのを作ってるんですよ!」と社長に見せたら、一瞬で「これ、TAKERUで出そうよ」といって決まりました」
このフットワークの軽さが小さなソフトウェア会社のよさであり、そしてこのスピード感を支えていたのがTAKERUならではといえるだろう。
後年はTAKERUで同人ソフトも扱うようになったため、会社でなく個人でも広くソフトを販売できるというのが強みになっていく。丸山氏の友人もいつの間にかTAKERUでソフトを販売していたそうで、感想の手紙などが結構届いていたという話だ。
この連載の記事
-
第5回
デジタル
『TAKERU』約20年ぶりのアキバ登場に大興奮!? レトロPCと一緒に展示された2日間 -
第4回
デジタル
『TAKERU』はSteamの始祖!? “同人ソフト”の天国だった -
第2回
デジタル
今だから話せる!? 「中の人」が語るTAKERUの軌跡 -
第1回
デジタル
30年前に一世を風靡した『TAKERU』はこんなにスゴかった! -
デジタル
ソフトベンダーTAKERU 30周年 レトロPC/ゲームを振り返る - この連載の一覧へ