音楽のジャンルを問わない性能
ただ、太くてゴワッとした感触のケーブルはマイナス要素かもしれません。いかにも丈夫そうで絡まりにくく、全体の堅牢性を考えればいいチョイスなのですが、グレーのシースーは業務用の線材のようで、見た目の釣り合いはいまひとつ。特に女性はどうなんだろうという気が。
それでも、実際に使ってみると、そういう細かいことはどうでもいいように思えてきます。
まず一聴してわかるのはワイドレンジな特性。特にローエンドのレスポンスがしっかりあることです。正弦波のピッチをどんどん落としていって、可聴帯域の下限まで大きく音量が変わらないイヤフォンは珍しい。
そして聴き込むほど良さを感じるのが、中高域のフラットさ。ほかのイヤフォンから取り替えた直後は、高域側が足りないように感じるものの、それは特定の帯域にピークを持たず、耳につく成分がないため。実際にはハイエンドまでしっかりレスポンスがあり、低域とのつながりも自然で文句ありません。
ダイナミック型一発としては解像性能も望外で、低域の空気感、中高域の奥行きといった、音場感を構成する微細な情報も伝えてきます。ダイナミック型一発でこれができるなら、下手なハイブリッド型はいらないのでは、と思えるくらい。こうした印象も、ピークを持つ特定の帯域にマスクされないから。総じて、チューニングの筋が通っているところには感心します。
よくできたオーディオ機器は音楽のジャンルを問わず使えるものですが、このMA750もそれに当たります。使いやすく丈夫な、ちょっと贅沢なイヤフォンとして、オススメです。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ