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半世紀うなぎ嫌いだったライターが美味いと唸ったうなぎ缶

2016年07月29日 17時00分更新

文● 四本淑三

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よりによって新製品がうなぎだった

 羽田の缶詰メーカーの谷啓製作所から、試作品ができたので感想を聞かせてほしいと荷物が届いた。

 谷啓製作所は、開けた缶の切り口で手を切らない「ダブルセーフティープルトップ」を世界に先駆けて開発した、日本が世界に誇るべき町工場である。プルトップを開けた瞬間に、フタ、缶ともに切り口が内側を向くようにすればいいというアイデアを、社長の谷内啓二氏が長年の経験と職人としてのカンで実現したものだ。

開栓後のダブルセーフティープルトップ。切り口が内側に丸く折りたたまれ直接手に触れない

 この缶の実物を、私はコルグのツナ缶を模したチューナー入り「チュナ缶」で初めて目にした。このプルトップは海外の大手食品メーカーでも採用実績がある。フタを開ける際に金属粉が出にくいことから、パンを封入する容器としてISSにも搭載された。いわば谷啓製作所は、下町ロケットみたいな町工場なのだ。しかしながら国内の食品メーカーでこの技術に追従する動きは、なぜかない。

 ならばと谷啓製作所は、ついに缶の中身まで自社で作り始めた。まだまだ駆け出しのインディーズ食品メーカーだから、スーパーでは買えず、もっぱら通販に頼るしかないのだが、アイデアがおもしろい上に、美味しい。

 特に私が気に入っているのは、ジンギスカン味のラム肉缶だ。ビールのおつまみ兼備蓄食料として、底をつく頃に箱買するという、いわゆるローリングストック法と呼ばれるスタイルで備蓄している。これは以前、当媒体にも記事を書いたことがある

 そんな尖った工場の試作品なので、もちろん興味津々である。しかし荷物の入ったダンボールを開けてみると、中には、長いものの絵に巻かれた缶が入っており、思わず「えー」っと声を上げてしまった。

 う・な・ぎ。よりによって、うなぎなのか、と。

 土用丑の日にしか食べないうなぎを、いつでも食べられるよう、災害時の非常食として缶詰にできないか。そういう企画の元に開発されたという。ごはんとうなぎが一緒に入っているので、タンパク質と炭水化物が一度に摂れる。長期保存が効いて栄養価の高い、携帯可能なうな丼のようなものだ。

 なるほど、日本人にとってうなぎはハレの食べ物だから、もし災害時に非常食としてこれが準備されていれば、メンタル面で大いに助けられるのではないか。もちろん、うなぎが好物の人に限るが。

 件の缶詰は、よっぽど夜中に腹が空いて食べるものがないときに開けることにしようと決め、そのまましまったのだが、そういう夜中は意外と早くやってきたのだ。えいやよとプルトップを開けて以降、一気に缶は空になった。

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