広く普及した最初の仮想記憶ミニコンピューター
VAX-11
1977年、DECは新しいVAX(Virtual Address eXtentsion)アーキテクチャーを採用したVAX-11/780を発表する。
画像の出典は、“Computer History Museum”
32bitアドレスを採用するとともに、アプリケーションから見たアドレス(仮想アドレス)と実際の物理的なメモリー配置(物理アドレス)を分離して管理するメカニズムである。
仮想アドレスそのものを実装したのはIBMの方が早い(1970年のOS/VM1とかOS/VM2 SVSなど)し、UNIXの反面教師となったMulticsも仮想アドレスをサポートする。DECがラインナップしていたミニコンの市場では、ノルウェイのNorsk Dataが1969年に出したNord-1がやはり仮想記憶をサポートしている。
とはいえ、IBMを別にすると広く普及した最初の仮想記憶マシン、もっと正確に言えば広く普及した最初の仮想記憶ミニコンピューターとして登場した。
このVAX-11は非常によく売れた。CPUはTTLベースで構築され、5MHz駆動であった。性能は、VAX-11/780で稼動するDhrystoneの性能が1MIPS、あるいは1VAPS(VAX MIPS)と定義されているので、大雑把に1MIPSと考えればいい。メモリーは最大8MBまで搭載可能であった。
これに続き、VAX-11/725~VAX-11/787までのラインナップがそろえられる。VAX-11/720・730・750あたりは低価格版で、VAX-11/750で0.6MIPS程度。一方VAX-11/785は7.5MHzまでクロックを上げた高性能版であり、他にVAX-11/780をデュアル化したVAX-11/782や、VAX-11/785をデュアル化したVAX-11/787もあった。
ただ当時はデュアルといってもOS(VAX/VMS)が対応しておらず、完全にサポートされるようになるまで時間が必要だった。
第二世代を投入するも
絶対性能の低さが悩みの種
VAX-11シリーズを第一世代とすると、第二世代が1984年に発表されたVAX 8000シリーズとなる。こちらは内部にECLを採用、動作周波数は最大22.2MHz(サイクル時間45ns)まで向上した。
最初の製品はファミリーのミドルレンジとなるVAX 8600で、最終的にはVAX 8200~VAX 8800シリーズまで展開されている。VAX 8800では最大4Pのシステムも可能になっており、OSもこれをサポートするものとなった。
第二世代と同じく1984年に投入されたのがMicroVAXシリーズで、TTLベースながらVLSIの採用により基板の小型化を実現したことで、デスクサイドやデスクトップでの利用も可能となった。
さらに1987年には、MicroVAXシリーズをCMOS化したCVAXと呼ばれる新しいプロセッサーが登場、これを採用したMicroVAX IIIやVAX Station 3000シリーズなども投入されている。
このCVAXの製造でCMOSプロセスを獲得した同社がメインストリーム向けに投入したのが、第三世代のVAX 6000シリーズ(1988年)とVAX 4000シリーズ(1990年)である。
VAX 6000は当初はCVAXのチップをそのまま利用したが、後にはVAX 4000と同じく、第二世代のCMOSチップであるNVAXに切り替えている。
ハイエンドのVAX 6000 Model 660は83MHzのNVAXチップの6P構成で、1GBのメモリーと重厚な拡張I/Fを持った構成となった。一方VAX 4000シリーズは当初からNVAXチップを利用し、最終的に100MHzまで引き上げるが1P構成、I/Fは簡単なQBusのみだった。
この頃の同社の悩みは、絶対性能の低さである。1990年といえば、インテルはもう486/50MHzをリリースしていた頃で、MotorolaのMC68030やSun MicrosystemsのSPARC、MIPS R3000などが広く普及していた時代である。
NVAXの100MHz版が出たのは1996年で、1990年の最初のNVAXは35MHz駆動でしかなかったため、CVAXやNVAXは性能面でかなり見劣りした。
以前Alliance FXシリーズやConvexの時にも触れたが、VAX 8000シリーズの絶対性能はそう高くなく、VAX 6000/4000シリーズはCMOS化したことで消費電力は下がり、実装密度は上がったが、絶対性能そのものでいえばたいして増えていない(当初はむしろ動作周波数が落ちた分下がった)から、これをなんとかしないといけなかった。
苦し紛れというわけでもないだろうが、ハイエンド向けに1989年に発表されたVAX 9000シリーズはECLベースのチップをMCM(MUlti-Chip Module)で搭載するというお化けで、それでも動作周波数はわずかに62.5MHz。
性能の低さを補うべく、125MFlopsの演算性能を持つベクトルプロセッサーをアクセラレーターとして搭載できるようにしていたが、このベクトルプロセッサーを搭載する1Pの最小構成が99万7000ドルはいくらなんでも高すぎた。
とりあえず1980年代から沸き起こってきたワークステーション向け市場には、MIPSのR2000/R3000を搭載したDECstation 2000/3000/5000を投入し、それなりにシェアは得たものの、同社のこれまでのソフトウェア資産がほとんど生かせない(OSのレベルで別物だった)こともあり、根本的な対処を迫られた。
これに向けて同社が開発したのがAlphaチップである。Alphaの歴史は、連載291回のASCI Qで説明しているため今回は割愛するが、DECはAlphaを採用した製品を1992年から大々的に投入する。
デスクトップにはDEC 3000AXP、スモールサーバー向けにDEC 4000 AXP、メインフレームクラスにはDEC 7000/10000 AXPがそれぞれラインナップされた。
ただこのAlphaの投入は、やや遅すぎた。創業から1992年まで、DECはずっとOlsen氏が社長兼CEOとして経営してきており、IBMに次ぐ二番手のポジションを確保していたが、1990年以降は赤字に転落する。1988年~1993年の売り上げと営業利益を見てみると、以下の具合である。
1988年~1993年の売上と営業利益 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
売上 | 営業利益 | |||||
1988年 | 114億7500万ドル | 13億600万ドル | ||||
1989年 | 127億4200万ドル | 10億7300万ドル | ||||
1990年 | 129億4200万ドル | 7400万ドル | ||||
1991年 | 139億1100万ドル | -6億1700万ドル | ||||
1992年 | 139億3100万ドル | -27億9600万ドル | ||||
1993年 | 143億7100万ドル | -2億5100万ドル |
1992年に巨大な赤字が出ているのは、この年に行なったリストラのせいであるが、そんなこともあってOlsen氏はこの年に社長を降り(CEO職はこの時まで存在しなかった)、代わってRobert Palmer氏が社長兼CEOに就任する。
就任後、まずは猛烈なリストラを掛けて建て直しを図ろうとするが、1994年には再び1億8300万ドルの損失を計上する。しかも売り上げも次第に減少するようになった。
最大の理由は、稼ぎ頭だった従来のVAXの製品ラインの売り上げがどんどん落ちており、Alphaベースのサーバーの売り上げがそれを補うに至らなかったことである。
このため、Palmer氏はDECのさまざまな部門や製品の切り売りを始め、さらには1997年5月にはインテルを相手取っての特許侵害訴訟を起こし、7億ドルの賠償金をゲットする(このあたりの経緯は連載119回で触れた)が、これも同社の売り上げ減少や赤字を補填するには十分とはいえなかった。
結局Palmer氏は1998年、同社を96億ドルでCOMPAQに売却して、DECの名前は消えることになった。ちなみにこの時点での同社の従業員は5万3000人余り。1980年代には最大で13万人あまりの従業員を抱えていたことを考えると、ほぼ3分の1に縮小したことになる。
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