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高橋幸治のデジタルカルチャー斜め読み 最終回

「これほど身近な時代はない」ネットと法律はどう関わるのか

2016年07月12日 09時00分更新

文● 高橋幸治、編集●ASCII.jp

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クリエイティブ・コモンズの最終的かつ究極的な目標は……?

高橋 「クリエイティブ×法律×インターネット」という観点からいろいろなお話をうかがってきましたけど、いま取り沙汰されている多くの議論の根幹は、時代のスピード感がもたらす実態と法律との乖離という問題に尽きるような気がしますね。

水野 法律のタイプを大雑把に分類するとドイツやフランスに代表される「大陸法」と、イギリスやアメリカに代表される「英米法」あるいは「コモン・ロー」というものがあるんですね。

 大陸法は最初に徹底的に議論を積み重ねて、将来的に起こり得るであろう問題の予測も含めて国民に明示するという考え方で、コモン・ローはそれとは逆に、法律の条文には最低限のことしか書かずなにかことが起きたときには裁判所で議論しようという考え方です。日本の法律は前者の影響が強いと言われています。

 もちろんそれぞれ良い面と悪い面があって、安定的な社会においては大陸法のほうが予測可能性が担保されていて親切でわかりやすいんですけれども、これほど時代のスピード感が上がってしまうと、問題の予測というものがほぼ不可能になってきますよね。そうなると、コモン・ローが持つ柔軟性のほうが時代に即した形態になってきているように思います。

 だから、日本で新しい技術や事象を承認するためには次々と法改正をしないといけなくなるわけです。

高橋 禁止事項が優先されてしまうのもそのへんの事情が関係しているのかもしれませんね。そして水野さんのような人が闘わなければいけない場面も不可避的に増えてくるという(笑)。

水野 それが良いことなのか悪いことなのかわかりませんけどね(笑)。違法を助長しているとか、犯罪者の味方なんてバッシングを受けそうですけど、そこは弁護士として自分なりの一線を作っているつもりです。それがどこまでのなのか、というのはセンスだし、いまの法律家にはこのセンスが求められているように思います。

高橋 そういう意味ではちょっと変な言い方になってしまいますが、水野さんのような仕事というか、法律に対するスタンスが要請されてしまうという時代というのはどこか逆説的ですよね。水野さんのような方が法律的な面から援護射撃をしていかないと、アーティストやクリエイターの表現の自由が確保されないというのはどこか奇妙な状況じゃないですか。

水野 確かに僕みたいな人間が躍起になって活動するまでもない社会が訪れるというのがいちばんいいのかもしれません。クリエイティブ・コモンズの理事でもあり情報学研究者のドミニク・チェンともよく話すんですが、クリエイティブ・コモンズの精神や思想が完全に社会に溶け込んでいったらクリエイティブ・コモンズは不要になるだろうと。

 そう考えるとクリエイティブ・コモンズの究極的な目標は世の中からクリエイティブ・コモンズを消滅させることなんじゃないかというね。それと一緒ですね。これからキャッチフレーズとして使わせていただきます、「俺を殺すことこそが俺の役割だ!」って(笑)。

インターネット時代の新しい著作権ルールとして世界中のさまざまなプロジェクトで採用されているクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの最新バージョン「CC4.0」。2002年に米国で最初のバージョンがリリースされ、今回のバージョンアップは2007年の3.0以来となる


著者紹介――高橋 幸治(たかはし こうじ)

 編集者。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年まで「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに編集長/クリエイティブディレクター/メディアプロデューサーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。「エディターシップの可能性」を探求するミーティングメディア「Editors’ Lounge」主宰。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部にて非常勤講師もつとめる。

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