MMCXは接続規格乱立時代の救世主になり得るか?
もちろん難点もあります。まずBluetoothなので、動画コンテンツでは音声がズレる。そして本体は柔かい素材とはいえ、折りたためません。ケーブルが細く柔らかいので耐久性も不安です。
そしてMUC-M2BT1は、あくまでもソニーのXBAシリーズ向けアクセサリーだという点です。同じMMCX端子が付いているからといって、ほかのメーカーのイヤフォンも使えるかというと、そうとは限りません。
MMCXはSHUREが使い始めてイヤフォン用に普及した規格で、様々なメーカーが採用しています。ただし、メーカー間の互換性は取れていません。同じMMCX端子を使っていても、プラグのケースや、ジャックのスリーブに各社独自の形状を採用しているため、接続できないケースも多々あります。したがってXBAシリーズ用に売られているMUC-M2BT1が、対応機種以外に接続できなくても、メーカーにはなんの責任もありません。
しかしながら、他社製のイヤフォンが「接続できる場合」もあります。手元のイヤフォンではSHUREのSE215、ELECOMのEHP-R/HH1000Aが、MUC-M2BT1と接続できることを確認しています。また、そのほかのイヤフォンについてもユーザーや販売店の報告がネットに上がっています。MUC-M2BT1の公称出力は、約10mW+約10mW(32Ω)なので、接続さえできれば大抵のイヤフォンは鳴らせるでしょう。
このように互換性で問題のあるMMCX対応製品ですが、さまざまな応用が効く点で、ユーザーにはメリットのある規格です。
たとえばマニアックなところでは、JEITAが「バランス接続」用に4.4mmの5極端子を使った規格を発表しました。これはL/Rラインで共用していたグランドを独立させ、特性の改善を図ろうというもの。現状、そのための端子が各社バラバラなので統一したらどうかということです。
しかし、4.4mmといえばスタジオのパッチベイに使われるプラグで、結構太くて長い。iPhoneから3.5mmプラグが消えるとウワサされるご時世に、ニーズがあるのかと言えば謎で、モバイルなら2.5mmプラグ、据え置きアンプとの接続ならミニXLRでいいんじゃないかという気もしないではありませんが、だからと言って4.4mm規格があっても困りません。
こうした無線有線入り乱れての接続規格乱立時代にも、MMCX端子対応のイヤフォンなら、ケーブル交換だけで対応できる。Bluetoothにも、昔ながらの3.5mmステレオミニにも、そして規格がどうなろうが有線のバランス接続にも。
そこで改めて気になるのは、やっぱりMMCX端子自身の互換性。バランス接続のために4.4mmの5極プラグを規格化できるなら、こちらもなんとかならないかと思うのですが、いかがなものでしょうか。
著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)
1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ