日本体操協会と富士通は、体操競技における「採点」支援技術を共同研究することで合意した。目視では正確な判定が難しい体操競技において、3Dレーザーセンシング技術を用いることで、より正確な採点を実現する。
目視判定はもう限界!?
体操競技は常に公平かつ正確な採点をめざして、長年努力や改革が行なわれてきた。しかしながら、体操の技術進歩は非常に早く、ひねりの回数など、目視で正確に判定・採点するのは非常に骨の折れる作業。これは演技を目視して手元のシートに点数を書き込む採点スポーツ全般に言えることだが、体操競技は特に、4年に1回のルール変更もあって、審査員にかかる負荷は大きかったという。
そこで目視による判定に加え、ICTを活用して競技者の動作をセンシングし、数値データとして分析できるようにすることで、より正確な判定を可能にする。ポイントは、いかに競技者の動きをデータで捉えるかだ。似たような技術としてモーションキャプチャー技術もあるが、競技者に多数のマーカーを装着する必要があり、競技者曰く「感覚が大きく異なってしまう」ため、実際の競技で利用することは難しかったという。
そこで今回の共同開発では、富士通研究所が開発した「3Dレーザーセンサー」と「骨格認識技術」、日本体操協会が持つ「技の認識に関するノウハウ」を融合。「世界初」という3Dレーザーセンシング技術による採点支援をめざす。
3Dレーザーセンサーと骨格認識技術
技術的には、3Dレーザーセンサーによって人間の動きを立体的かつ高精度に捉える。3Dレーザーセンサーは、レーザーをパルス出射し、対象物から戻ってくるまでの往復時間を計測することで距離を算出する技術だ。光速のレーザーを膨大に出射し、その極少な往復時間差から、人・モノの姿形を立体的に捉える。そうして取得された3Dデータから、骨格認識技術によって、関節位置の3次元座標を推定。ひじやひざの曲がり具合などから、技の完成度が認識できるようになる。
もちろん、こうしたシステムで判定・採点するには、システムが1つ1つの技を予め知っておかなければいけない。そこで日本体操協会の知見が活かされる。モーションキャプチャー技術により1つ1つの技をデータとして登録しておくのだ。ちなみに鞍馬だけでも100種類以上の技があるという。
昨今、バレーボールやサッカーなどでもビデオ判定の導入が進められているが、単純に点数が入ったかどうかの球技と比べ、体操にこうした判定システムを適用するのには、採点スポーツならではの難しさもあったようだ。
例えば、鉄棒などは選手の動きが大きいため、ある程度離れた位置にセンサーを置く必要がある。すると、人物の解像度が低くなり、体操競技に適用できるほどの精度が得られなかったという。そうした課題に対しても、測定対象との距離に応じて画角を自動調整し、遠距離でも解像度を維持する技術を開発するなど、実用化に向けた工夫を凝らしたとのこと。
採点スポーツの革命に
今後の展開としては、2016年度から要素技術の改良や採点支援実証システムの開発を進め、2018年度に競技会などでの技術実証をめざす。まずは鞍馬からシステム開発に取り組み、2020年度頃から鉄棒、跳馬、床など他種目へも順次適用していく。
体操競技の採点は、技の難度をはかる「Dスコア」と美しさ・雄大さなどをはかる「Eスコア」から構成される。Eスコア採点をすべて自動化するのは難しいが、Dスコア採点は目視からかなりの部分を自動化できる見込みだ。審査員の労力は減り、採点時間の短縮にもつながるため、観客に飽きさせないスムーズな競技進行も可能となる。
採点だけでなく、選手のトレーニングにも活用できるそうだ。モーションキャプチャーと違って身体にセンサーなどをつける必要がないため、選手はより手軽に、自分の演技を客観的に振り返ることが可能となる。
従来はビデオを録画して見直すしかなかったが、3Dレーザーセンサーでは体の部位の角度まで分かるため、文字通り3次元で自分の体の動きを見直せるのがメリットだ。ある程度の技は通常の練習で覚えられても、その先の着地の微妙な姿勢などは、3Dデータで数値化できるメリットが大きいという。
また、体操だけでなく、フィギュアスケートなど他の採点スポーツにも適用できる。いずれも技が飛躍的に進歩していく中、目視には限界がきており、その採点を自動で数値化できるのは、「スポーツの革命」(国際体操連盟 理事 渡辺守成氏)といえるほど、意義の高い技術のようだ。
実際に採点のレギュレーションが変わるのがいつになるのかは未定だが、「2020年を目標に実用化をめざす」としている。