自然遺産の知床でテレワークはいかが?
北見市が進める人材回帰戦略、オホーツク海の「サケモデル」
2016年04月15日 06時00分更新
北見市が描く「サケモデル」
北見市は、港から遠く「輸送コストのかかる地域」と言われる。製造業も苫小牧や旭川と比べると少なく、主力の第1次産業でも、「いいものは採れるが付加価値が作り出せず、作って終わりになりやすい」(松本氏)という。
そこでITによる産業振興に着目。北見工大のリソースを活かし、企業誘致ができないかと考えた。松本氏が焦点を当てたのが、「都会の中小・ベンチャー企業の技術者不足問題」だ。
「首都圏では大手や特定の業界にIT人材が集中し、中小・ベンチャー企業は慢性的にIT人材不足に悩まされている。それなら北見工大生を紹介したらどうか。その代わりに、北見市に拠点を置いてもらって、学生が3~4年東京で経験を積んだら、自由に北見市に帰って来れる。そんな仕組みを作れないかと考えた」。
企業側は人材不足を解消でき、北見市は企業誘致が見込める。もちろん、最終的にどこで働くかは学生の意志だが、北見市にも地元に残りたいのに東京で働かざるをえないという学生は多いそうで、仕組みがうまく回れば、企業・学生・北見市の「三方良し」となるわけだ。
北見市の学生が、東京で育ち、やがて故郷に帰る。この仕組みが、川で産まれ、海で育ち、やがて「母川回帰」するサケに似ていることから、いつしか「サケモデル」と呼ばれるようになった。2013年頃から取り組みが始まり、今回の参加企業のうち、アイエンター、アンブルーム、ウィルリンクシステム、エグゼクション、要の5社も元々「サケモデル」で市と関わりがあったそうだ。
ただ「学生はちゃんと帰ってくるか」が懸念だ。市と企業で協定が結べればいいが、それも難しいという。松本氏は「確かにその懸念はある。企業も何らかの理由で北見進出が難しくなるかもしれないし、学生が東京に残りたいと思うかもしれない。ただ,少なくとも市でも企業の進出意欲をしっかり見定めるし、北見工大の学生ともつながっているので、学生の意志に反して東京に縛られるなら、北見市内の別の企業を紹介するといった支援ができる」としている。
本物のサケは、なぜ母なる川へ戻ることができるのだろうか。驚くことに、母川回帰のメカニズムは、現在に至っても定説がないという。それでもサケは帰ってくる――。
現在は学生と一緒にプログラミング教室などをやり、採用に結びつきやすい場の創出にも取り組んでいる。「サケモデル」としては、すでに10社程度が賛同し、北見工大から毎年1~2名程度継続採用すると決めた企業も出ているという。
「ふるさとテレワーク」の話は、こうして取り組んでいるところに立ち上がった。「最初はテレワークというと『主婦が在宅で』というイメージだったが、『企業のサテライトオフィス』という形態もあると聞いて、『サケモデル』に通じるところがあると考えた。取り組んでみて、企業誘致もいきなりはハードルが高いので、テレワークで試せる環境というのは効果が高いと感じている」(松本氏)
企業誘致に必要なこと
今後の方針については次のように語る。
「サケモデル」については、「道内出身の学生が4割しかいないこともあって、北見工大だけでは厳しいと感じた。そこで北見市の専門学校や札幌市の私大とも連携しようと働きかけている。私大は9割が道民で、地元で働きたいという志向も強いので、連携による効果は高いはず。札幌市も課題は同じなので、前向きな話ができている。また、こういうことをやっているのだと学生や親への周知も強めていきたい」(同氏)。
サテライトオフィスの運営についても、「市の予算で継続していく。北海道庁としてサテライトオフィスを作っていくような新たな動きも出始めている」(同氏)という。
肝心なことは何だろうか。
松本氏は「企業誘致やふるさとテレワークのような考え方には、環境や設備を用意するだけではダメで、『なぜその場所?』という『この場所でこその企業メリット』を提示する必要がある。北見の場合は、それが『北見工大の人的リソース』。ただ、その価値を自治体から発信してもなかなか伝わらないので(苦笑)、一緒に発信してくれる企業や、価値を共有できる地域の人材が本当に重要だと感じた。それらを意識ながら、これからも地域のPRを続けていきたい」と述べている。
今回の実証事業は2月末で終了した。が、どの実証地域も取り組みは継続されていく。前途にはまだ、さまざまな課題があるだろうが、こうして多くの地域や企業が足並みをそろえたのは「大きな一歩」である。今後、人口減少、女性の活躍、超高齢社会を迎えるにあたって、「東京の仕事をどこでもできる環境」の整備は待ったなしだ。「ふるさとテレワーク」が根付いていくよう、これからも応援していきたい。
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