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ムール貝食べ放題なぜできた?favyが語る飲食業界がそう簡単にデジタル化しない理由

飲食店の利益率を20%まで向上させるビジネスモデル作り

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 2015年7月に設立された株式会社favy(ファビー)は、月間400万人が利用する外食特化型のグルメ情報メディア『favy』、飲食店向けの無料CMS『favyページ』で注目を集める急成長ベンチャー。だが最近では、飲食市場に特化したマーケティング企業としての姿を見せ始めている。

 2016年2月には、自社で運営するマーケティングの実践場でもある店舗「C by favy」をオープン。開店以来満席が続いており、1日で50キログラム以上のムール貝をさばくなど、飲食店としても順調な営業を続けている。

C by favy名物の国産ムール貝

 C by favyについて同社の代表取締役社長である髙梨巧氏は、「ビジネスのもとを獲得するための場」と位置づける。ここで実践したマーケティングを飲食市場に拡大させ、「飲食店の利益率を20%まで向上できるビジネスモデルを作りたい。そのためには、現在の飲食市場規模18兆円をさらに3兆円程度拡大させる必要がある。この目標を実現するため、事業拡大を進めたい」と大きな野望を掲げる。

 favyが目指す、飲食店の新しいビジネスモデル作りとはどんなものなのか。

favyの髙梨巧代表取締役社長

昼はオフィス、夜は飲食店となる二毛作

 東京、西新宿にある飲食店C by favy。2月にオープンしたこの飲食店は、昼は飲食業に特化したマーケティング事業を展開するfavyのオフィスとして活用され、夜は飲食店としての営業を行っている。

 favyの代表取締役社長である髙梨巧氏は、「オフィス、そして飲食店と二毛作をやっている。格好いい、いわゆる採用のためのキラキラオフィスではなく、ビジネスのもとをとるためのオフィス」だと語る。

昼間の間はfavy社員が実際に利用するオフィスになる

 飲食業向けマーケティングビジネスを手がけているといっても、飲食店側からするとfavyのような事業者には懐疑的な見方も多いという。だがその疑念を解く鍵が、この店舗には詰まっている。

 「飲食店側がもっているのは、『この人は、自分からぼったくろうと思っているんじゃないか?』という懸念。そのような飲食店に、では、この店(C by favy)に一度来てみてくださいと実際に見てもらうと、相手は驚く。本気で飲食店をやっていることが伝わる。さらに、店で実際にやっている取り組みを伝えると、『うちのお店のコンサルをやってくれないか』、『同じ顧客管理システムを使いたい』といったリクエストが逆にあがってくるようになった」(髙梨氏)

 店を訪れた飲食店関係者が驚くのも無理はない。この店舗は、単なる二毛作にとどまらない各種マーケティングの取り組みが行われている。その中で成功したものを、多くの飲食店が活用し、取り入れていくことがfavyのビジネスのベースとなっている。

 このようなリアルな実店舗を始める以前に、そもそもfavyが行っていたのは、外食特化型のグルメ情報メディアである『favy』と、飲食店向けに店舗のウェブページ作成を支援する『favyページ』だった。だが、収益の面も含めて、重点はIT側にあるわけではない。これらマーケティングのためのタッチポイントを生かす重要な仕組みがじつは店舗側に潜んでいる。

 そのために、C by favyでどんな取り組みが行われているのかを紹介しよう。まず、マーケティングの場としての活用である。飲食品メーカーの用語で「前だし」といわれる、本格販売前のテスト販売とそれを受けた改善を行うPDCAの実施だ。

 フルクラウド対応のレジシステムには顧客のプロファイルデータが記録され、店舗の販売データとリアルタイムで呼応する。たとえば特定のメニューを頼んだ顧客の場合、同時に赤ワインの注文が多いといった、メーカーや産地にとって活用できそうなデータが取得されていく。

 もちろん店舗を訪れる顧客は、マーケティングデータ提供のために集まったわけではない。これらの仕掛けによって、低価格で食事ができることを知っており、顧客にとっても、お得に食事ができるというメリットがあるから成立している。

 「お客様に出している食品のいくつかには、食品メーカーのスポンサーがついている。店頭でお客様の声を聞く、マーケティング調査の場としてもこの店は機能している」

 このようなメーカー向けの飲食店開拓支援事業は以前からfavyの主要な収益だったが、現在、リアル店舗の活用でより加速している状態だ。

メニュー表にあるA/Bテストの一例。アンケートに回答すれば無料で食事ができる

 代表的な商材のひとつに、C by favyで扱う国産ムール貝がある。実はこのムール貝、これまでは廃棄されていたものだった。そこにfavyは目を付けた。

 牡蠣や帆立を養殖場には、関係のないムール貝が勝手についてくる。養殖業者にとっては、このムール貝は余分なもので、排除すべき存在になっていた。とはいえ、海外から輸入されるムール貝は、決して安くない価格で売られている。廃棄されていた国産ムール貝が商材として販売できるようになれば、養殖事業者にとっては新しいビジネスとなる。

 「牡蠣を養殖しているとついてくるムール貝」は、業者からすれば養殖しているわけではないので、いわば天然もの。商品を流通する商社にとっても、魅力的な商材だ。養殖と表記すべきなのか判断は難しいものの、そもそも国産ムール貝が日本に定着すれば、飲食店にとっては強力な商材の1つとなる。

 このような観点からC by favyでムール貝をテスト販売したところ、一日あたり50キログラム以上を販売することに成功した。

 「これまでムール貝が捨てられているという事実を知っていても、これが売れるものだとは知らない、売り方がわからないから商材になってこなかった。面白い商材があるから、売れるかどうかテスト販売して試してみる。うまく売れるとわかれば、産地にとっても、流通事業者にとってもプラスになる。そういう仕掛けをしていくのが、我々favyのビジネスになる」

 すでに実績を作っているだけに、髙梨氏の表情は自信に満ちている。

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