どこの誰ともわからない奴の言葉など聞くに値しないという風潮
このところさまざまなメディアで例の「保育園落ちた日本死ね!!!」という匿名による投稿が話題となっている。
待機児童の問題に対して筆者がここで持論を披露するつもりはないものの、やはりどうしても気になるのは、2月29日の衆議院予算委員会で質問に立った民主党の山尾志桜里氏に対するヤジである。これもすでにご存知のこととは思うが、自民党の平沢勝栄氏をはじめとする数名の議員が「誰が書いたんだ」とか「本人に会ったのか」とか。要するにインターネットというメディアにおける匿名性の自由を全面的に否定するかのような態度を露骨に表明したわけである。
まぁ、今回の問題はこの国が抱える無数の深刻な実情を指弾した投稿だったため、論争の舞台が国会にまでに及び、議員によるヤジをめぐる是非に発展したわけだが、もっと日常的な場面においてもこの匿名性に対する不信や嫌悪を目にしたり耳にしたりする場面は少なくない。
そうした匿名性に対するネガティブな感情の根底には「それなりの意見を述べたいのであれば素性を明らかにしろ」といういかにも正論風な圧力のようなものがあり、裏を返せば「どこの誰ともわからないような奴の言葉など聞くに値しない」というあからさまに排他的な思考が見え隠れしている。
インターネットが一般の市民の道具となってすでに20年以上が経った現在でも、この実名/匿名の問題はことあるごとに浮上してきて、つねに匿名性への批判が一定の影響力を発揮し続けている。
意見や見解の多様性を認める観点に立てば、もちろんそうした批判もあってしかるべきで、逆に匿名性の擁護だけが過剰に支配的になるのもこれまた均衡を欠いた事態なわけだが、実名性=信頼性、つまり社会的な地位や経歴が発言の正当性を担保するような風潮が強まる危険があるのであれば、私たちはいま一度しっかり匿名性の意義と価値を再認識する必要があるだろう。
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